私は下位互換でした、チャンチャン
ひとまず戦闘は終わった。そしてわかったことがある。
ケルファーめっちゃ強い。
「お前、レベル幾つだ?」
少なくとも俺より上だろう。下手したら90いってるぞ。
ちなみに、レベルは120が上限らしいが歴史上の最高レベルは108どまりである。
「72だ」
嘘だろ。
「俺64なんだけど」
「十分強いじゃん」
違うよ、そういう問題じゃないよ。お前がレベルのわりに強すぎるって話だよ。
「いやいやもっと上でしょ、80くらいはあるでしょ」
「んなわけあるか、あとでステみせてやろうか」
朗報、ステータスをステと略すやつ発見。
「レベル72は単体でオーク4体をあんな短時間で倒せません」
しかも一体は一刀両断である。おかしいだろ。
いや、可能性はまだある。
「わかった、その剣魔剣だろ」
「いや、ミスリルの剣に魔力まとわせてるだけだ」
悲報、純粋な剣の腕でも負けている模様。
というかこいつ自分のステ隠さないのか。
「わかった。取りあえず、あと2回くらい敵とやりあおう。最初の一回は俺一人でいい。残りは二人でやろう」
そう提案した俺に彼は同意し、魔石を採取して迷宮を進んだ。
進んでいる最中、ケルファーが話しかけてくる。
「さっきの鉄杭、ありがとな。助かった」
なんだそんなことか。
「運がよかっただけだ。習得したばかりの<暗器術>だからスキルランクもDだ」
「それでもすげぇよ」
道すがら互いのスキルについて情報を交換した。わかったのはケルファーが<剣術 ランクA >を持っていること。俺が保持しているスキルは全て持っていること。体術は俺と同じCランクで他は一つ上のランクになっているということだった。
「これお前ひとりで調査すすめてもよかったんじゃね」
上位互換は世の中にいくらでもいるって異世界でも適用されるんですね。しみじみ。
「それだと人手がたりないからだろ」
「騎士団総出でやればいいだろ」
「いま王子の即位式の用意で忙しいからな」
そうだった。これおとといのギルドの掲示板に書いてあった。
「それで動かせるのがお前さんひとりだったと」
「そゆことだ、おっと」
敵だ。<気配察知>に引っかかった。
「オーガが一体いるな」
オークの強化版である。種族的には別だが攻撃パターンや弱点がそっくりなので冒険者らはそう認識している。
「メイスもってるぜ」
ただし特徴として、オークと比べて武器を持った個体の出現率が高いこと、魔物の統率ができるといったことが挙げられる。
「他には」
「コボルドが4体だ」
「ならいける」
俺は鉄杭をコボルドにむけて投擲すると、剣を持って走り出した。
***
十分ほどかかったが、倒すことができた。
「それで、次は二人でやるんだっけ」
「そうだ、どの階層に原因があるかわからんからな。調査できる階層は多いほうがいいだろ。そのための予行だ」
そういうことね。理解理解。
「じゃあ次行くか」
そんなわけで再び15層を探索していると、ケルファーの気配察知に何かが引っかかった。どうやら通路の向こうに何かいるらしい。
「ここからじゃあ見えねえ」
遠距離攻撃の手段は俺の暗器しかない。困った。
仕方がないので、石を投げて注意をひく。
お相手さんは、こちらへとやってきた。
ところが、そのお相手さんの正体が問題だった。より正確に言えば、ここにいてはいけない存在なのである。
「おい、ミノタウロスじゃねぇか!!」
しかも三体いた。俺らは慌てて散開した。こいつはまずい。
「なんでこの階層にいるんだよ」
「知るか、とりあえず距離を取るぞ」
ひたすら走って一度奴らの死角に入り、状況を整理する。
「ミノタウロスが第15層に三体いた。間違いないな」
俺は確認の意もこめてケルファーにたずねる。
わずかながら声が震えている。
「ああ。俺も見た」
ケルファーの表情も、かつてないほど引き締まっている。
「ボス以外で奴らは21階層からしか出現しない、そうだよな」
プファルツの迷宮遺跡内でミノタウロスが出現する階層は大きく2つに分けられる。1つ目は第10層、2つ目は第21層から30層までだ。前者ではボスモンスターとして、後者ではフロアに通常モンスターとして出現する。
「それがこの階層で出現するのは」
「異常事態だ」
ケルファーのセリフを遮って俺はそういった。
「どうする? すぐに出て騎士団に報告するか」
「馬鹿言え、倒さなかったら犠牲者が出るぞ」
「ミノタウロス3体だぜ、倒せるのか」
「倒せるさ、俺とお前なら」
マジか、こいつ。
今日組んで実力を今さっき測った男をここまで信頼するか?信頼したとして、迎撃という強気な方針をとるか?
少なくとも俺はとらない。いつもの俺なら、ここで強引にでも撤退を進言するだろう。命大事に、喫茶店で働く人工心臓の女の子だって知っている。
だが、不思議と今は大丈夫だと思った。
さっきケルファーの強さを見ての安心感か、それとも疲れで判断力が鈍ったか、いずれにせよ、彼となら倒せると思ったのは事実だった。
だから、ついケルファーにつられてフフッと笑った。
「ああ、そうだな」
深呼吸して、息を整える。
もしかしたら、異世界にきて久しぶりの他者との共同作業だったから、気持ちが高ぶっているのかもなと、隣で剣を構えるケルファーを見ながら思った。