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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
40/73

まさかのテンプレイベント的なの発生してて草

そして翌朝。

やたら良い目覚めであった。昨晩ぐっすり眠れたのだろう。

「あれ、思ったより太陽が高くないな」

どうやら普段より起きるのが早かったらしい。横にいるやつを見ると、足を布団から投げ出してまだぐーすか寝ている。

起こすのもなんだか悪い気がしたので、今日の予定でも確認しとくか。

そう思ってリュックを開けて地図を取り出し、現在地と今日の目的地をチェックした。


「ん?」


あれれ、おかしいぞー?

何度か確認したが、やはり現実は変わらない。やはり俺の地図認識能力は正確である。

どう考えても、いま出発しなくては目的地に間に合わない。山の中で野宿することになる。

俺はひとつため息をつくと、隣にいるケルファーをおこすことにした。

「おい、起きろ。計画に重大な欠陥があった」

しかし起きない。それどころか、「おい、そっちじゃない。操縦はもっとこう世界を遠心力で回す感じで」なんて寝言が聞こえてくる。

どんな夢見てんだコイツ。

しかたない。心を鬼にするか。

昨晩つかったお玉と、鍋を取り出すと俺はその二つをガンガンとぶつけ合った。


「起きろ、ワイバーンが来たぞー」



***



「おまえさー、あの起こし方はひどくない?」

「うん、正直俺もそれはおもった」

反省はしている。後悔はしていない。


「おかげで反射で《星芒纏装アストラルコンバート》発動しちまったじゃねえか」

「うん、それはワルイトオモッテイル」

あれ、だとしたら。


「おまえ、魔力ポーションいらなかったのか?ランクの低いストックが二個あったはずなんだが」

「ああ、ワイバーン戦で結構使ったせいか、なんか体が慣れたっぽい。あんまし魔力消費しなくなったし、使った後の変な感覚もそれほどってカンジ」

「おおー。それはよかった」

ユニークスキルに関してはスキルランクとか特にないらしいからな。個人の使用回数で練度が決まる感じなのか。


「それよか、結構歩いたくね?俺疲れたんだけど」

予定よりも早めの出発となった。畢竟(ひっきょう)それは歩く総距離が伸びるということでもあり、疲労感も若干強い。

昼食まではまだ時間がある。そこまでにもう少し歩かなくてはならない。

「ミラー、馬車借りられなかった昨日のお前に八つ当たりしていいか」

「何言ってんだお前」

いや、疲れているのはわかるけどさ。もしくはあれか、疲れすぎてイカれちまったのか?

「うだうだ言ってる暇があるなら歩くぞ」

「はーい、なんだか幻覚が見えてきたわ。あっちの方に馬車ない?」

「おい、ホントに大丈夫か。水ならまだあるぞ」

熱中症じゃないよな。

「おお、ありがてえ」

水を飲む様子を見る限り、かなり喉が渇いていたらしい。

少し休憩をとったほうがいいか。

「でもやっぱ、あっちに馬車見えない?」

休憩の是非について悩んでいると、ケルファーは再びそんなことを言ってくる。

おいおい勘弁してくれよと思いつつ、手に持った地図で筒を作ってケルファーの言う方角を見てみると。


「いるわ」


マジで馬車があったんだが。ってあれ?

「おい、馬車襲撃されてんだけど」

「マジ?」

「冗談でこんなこと言うわけないだろ」

「それもそうだな」

「急ぐぞ」

「何を?」


何をって。


「助けに行くんだろ」

俺の勘違いでなければ、ケルファーの顔にはそう書いてある。

「よくわかったな」

「流石にこんだけ一緒にいればな」

首を突っ込みたくなる質かどうかくらいはわかるというものだ。



***



「おらあ」

というわけで、絶賛戦闘中であります。

どうやら、盗賊の一団がやんごとなき方がお乗りになっている馬車を襲っているという構図らしい。馬車の周辺には護衛の兵士とおぼしき人が三名ほど転がっていて、御者さんはいなくなっていた。車室を見るに、まだ中の人は襲われていないらしい。

まさかここに来てこんな異世界転生のテンプレ展開に遭遇するとは。俺の何も起きなかった八年は何だったん?


袈裟懸けに切って来た一撃をかわし、背中に一閃。多分生きてる、とは思う。

実を言うと異世界に来てから何回か人を斬ったことはある。もちろん依頼でだ。初めて人を斬ったときのあの気持ち悪さは今でも覚えている。あの人として何かやばい線を超えたような、とんでもないものを悪魔にかっさらわれていったような、自分の中にある黒い部分をせき止めるダムが瓦解した感覚は、できればもう味わいたくはない。

だから


「<ピグリーツァ>」

俺は魔力量が低い。これはおそらくジョブのせいだろう。とはいえ魔力をうまく流して身体強化をすることは可能だし、消費魔力量の低い魔法なら何とか使える。

この世界の魔法は、自力で習得するタイプと、魔導書を使って習得するタイプがある。後者はなんかすごい人が書いた魔導書を読んで吸収することで魔法を習得できるので、魔導書が読めれば誰でも習得できる。ただし決まりきった威力で決まりきった効果しか出せないという欠点がある。

しかし、今回俺が唱えたのは剣の鋭さを減らす魔法。実質的にこの欠点は無視できる。

自分のことながらかなりヘタレである。だがこれが俺だ。


「せいっ!」

前にいる敵に接近して上段から振り下ろす。お相手さんはそのまま気絶して倒れこんだ。

ちらとケルファーの方を見ると、俺と同じように確実に相手を一人一人行動不能にしているようだ。

おそらくユニークスキルをさらしたくないというのもあるだろう。

ケルファーは馬車の近くに陣取り、魔力の斬撃を飛ばして堅実に敵勢力を削いでいる。

見た感じ、敵はあと十人くらいだろうか。何人かは逃げ出しているようだが、ぶっちゃけそこまで面倒を見る義理はない。せいぜい襲われる馬車を見捨てないのが俺たちにできる限界だろう、無責任かもしれんが。

そんなことをがら空きの胴に一撃打ち込みながら考えていると、

「お、おぬしたち、何者だ?」

と馬車の中から問う声が聞こえてきたので、


「「通りすがりの旅人です」」

二人で(・・・)返しておいた。



***



「しかし、君たちがいてくれて助かったよ」

盗賊の一団を鎮圧して捕縛したのち、俺たちは馬車に乗っていた子爵のアローザさんからぜひ礼がしたいと言われたので、アローザさんが乗るのとは別のもう一台の馬車に乗せてもらい、彼の屋敷に向かうことになった。ちょうど護衛の人が一人お亡くなりになっていたので、渡りに船という事情もあったのだろう。

無論、俺たちも歩くのに疲れていたので、これを了承した。

亡くなってしまわれた兵士の遺体を丁寧に埋葬してから、俺たちは出発した。聞けば、アローザさんの屋敷はフェノツイからさらに先に行ったカヌーレという所にあるらしい。

そんなわけなので、馬車は現在街道を爆走していた。ちなみに御者さんはアローザさんのおつきのメイドさんが務めていた。


「あんな可愛いメイドさんがいるとか、卑怯だろ」

わかる。

「馬車ってやっぱ楽だよな」

そうだな。

「あの人、何かの取引の途中だったのかな、馬車二台で移動してるし」

金持ちってスケール違うよな。

「思ったんだけどさ」

なんだ?


「うなずいてばっかじゃなくて、返事してくんね」

「しょうがないだろ、むしろこの状況で雑談できるお前にビックラドンキーだよ」


俺たちが乗っている馬車には、捕縛した盗賊が積まれている。比喩ではなくマジに積まれている。縄で縛って簀巻きにして丸太みたいに積んであるのだ。当然俺たちも縛ったり簀巻きにしたりするのに参加したので、彼らからのヘイトが半端ない。今だってガチガチににらまれてる気がする。

想像してみてほしい、この気まずさ。クラスの全員からのけ者にされるくらい精神的にくるものがある。もともと人間は自分に向けられる悪意の総量には限界があるのだ。居心地が悪いってレベルじゃねえぞオイ!!


「鈍器?どういうことだ」

「ごめん忘れて」

そんなわけで、移動中は結構気まずかった。


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