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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
34/73

ガチャとか言うよりギャンブルって言った方が自分で選択して人生選んでる感が出るので、人生はギャンブルというスローガンを積極的に布教しようとしていた時期がありました

星芒纏装アストラルコンバートは解除されていた。


「大丈夫か」

「ああ、これくらいならな」

負担が厳しいかと思ったが、杞憂だったらしい。

しかし、それが切れたら敗北は必至だ。何といっても相手はワイバーンである。ということで念の為、マナポーションを渡しておくことにした。マナを回復する優れものだ。以前報酬の代わりとして受け取って以来使い道がなかったのだが、万が一に備えて持ってきていてよかったぜ。


「おお、サンキュー!!」

マナポーションはケルファーの懐に入った。

さて、俺ももう一人の懐に入らないといけない。


「お主らは」

あ、そうか初対面じゃないのか。そう考えると幾分気が楽だな。

「そうだ、あんたを助けに来た」

ケルファーがいつもの笑顔で笑いかける、同時にまずはこちらが味方であることをはっきりと示す。

「助けだと、わしは別に」

「まあ見た感じ、その盾はワイバーンの攻撃を5回以上は耐えたんだろうな」

5という数字は周りの被害状況から推測したのだろう。まあぶっちゃけ重要なのはそこじゃない。


「ワイバーンの普通の突進をそんだけ耐えられるなら、盾としては十分破格といってもいいはずです。だが、使用者の腕はそうはいかない」

合流した時に気づいたのだが、ゴルベフさんの腕は赤く腫れていた。鍛冶師の腕力といえど流石に体が持たなかったらしい。

無理もない。ワイバーンの攻撃なんて銀ランクの冒険者二人がかりで止めるのがやっとだ。それを一人で複数回繰り返すなど、普通はしない。

「だから」

続けて言葉を口にしようとしたとき、ワイバーンが雄たけびを上げて再び突っ込んでくる。


「ケルファー!!」

「任せろ!」


再びユニークスキルを発動し、ワイバーンの攻撃が受け止められる。

俺はその隙に、ワイバーンの後ろに回って、尻尾への攻撃を試みる。

前に討伐した時に教わった小技だ。こうすればバランスを崩して飛行が難しくなるらしい。

姿勢を低くして走り込み、胴体をくぐりぬけて尻尾へと走る。

ワイバーンは本物のドラゴンと比べて鱗の類はなきに等しい。ゆえにある程度の攻撃力をもって攻撃すれば。

左手の剣で逆袈裟に切りつける。想定通り、傷が入って血がにじみ出る。

しかし、敵もさるもので、決定打を入れさせてはくれない。

結局、軽い一筋の傷を入れて、俺は引き下がった。


「おい、あのワイバーンは」

「里の守護神、ですよね。知ってますよ。殺しはしません」


と言ったはいいが、実際問題どこまでやれるかは疑問である。

俺の一撃にひるんだのか、奴は再び中空に戻っていた。やや高度が下がっているのは、飛行の維持が困難になったからだと信じたい。


「お主ら」

「なんかいろいろ言いたいことはあると思いますが、それはここを切り抜けてからですよ」


マルチタスクのできるできないには個人差があるが、流石にワイバーンと戦い()()()はよほどのいかれ野郎でないと無理だろう。

俺の言葉に、ゴルベフさんはやや目を見開いてから俯く。


「弟子が心配している、とは言わんのか」

「そんなことを心配するような爺さんなら、ハナからこんな真似しないだろ」

ゴルベフさんは虚をつかれたような顔をした。


「その通りだな」


そして笑みを浮かべ、中腰の姿勢から立った。

「あっちのピカピカするやつ、あとどんくらい持つかわかるか?」

「いや、本人に聞いてみないことには…」

流石に俺もそれはわからない。一回の発動当たり八秒くらいだってのはわかるんだが…。


「あと四回だ!」


こちらに顔を向けず、ワイバーンと相対した状態でケルファーが返答する。それでいて剣を構える姿には少しの隙もない。


「二回だ」

「何がですか」

「わしがあと二回あの竜の攻撃をこの盾で耐える。その間に可能な限りあいつに傷をつけてほしい。そうすればあの興奮状態がおさまるはずじゃ」

「興奮状態?」


どういうことだ?いやそれより

「無茶だ。その腕であと一回ならまだしも二回も攻撃を受けられるとはおもえねえ」


ケルファーの言うとおりだ。という風に俺も言おうとしたが、左の顔を見てその言葉は引っ込んだ。

頼む、自分を信じてほしい。必ず成し遂げて見せるという目をしている。

勘弁してほしい。そういう目を見ると応えたくなっちゃうでしょうが。


「ケルファー、やってみようぜ」


正直興奮状態というのがなんなのかは気になるが、どのみちこのままではじり貧だ。だったらかけてみるしかない。死なないための守りより生きるための攻撃だ。


「ワイバーンに挑んだ時点ですでに一か八かの賭博ギャンブルをしてるんだ。だったらさしたる違いはないだろう」


誰が言ったか、人生とはギャンブルの連続であると。

俺もその考えに賛成だ。人生はギャンブルじゃないと言い切れる奴は、結局のところ自分の想定外の不幸に見舞われたことがない甘ったれの発言だ。


天気予報を信じて洗濯物を干したらゲリラ豪雨が降った。

家に帰ったら隣家の延焼にあった。

大事な試験日に人身事故で交通機関が止まった。

告白しようとした相手が、ちょうど一日前に彼氏を作っていた。

金を立て替えてあげていた友人がバイクの事故にあって死んだ。

ふざけんなと言いたかった。俺が何をしたっていうんだ。これらを予測できたことだお前が悪いとでもいうつもりなのか。

自分で自分を責める過程でそう思うのはいいだろう。だが、見ず知らずのお前らにあーだこーだ言われる筋合いはねえ。


むろんいいこともあった。


たまたま歩道のない道を歩いて立ち眩みを起こしたとき、そばを車が通らなかった。

車の走行試験で煽り運転してくる輩に遭遇しなかった。

友達がいないと思っていた中学校に知り合いが一人いた。

友人といった肝試しで、モノホンの幽霊に会わなかった。


今の俺があるのは、記憶の向こう側に消えたもの含め、そのギャンブルの勝ちと負けの結果だ。そして同時にこうも信じている。

勝つべき時に勝つ。それがいい人生を送るための必要十分条件だと。


そして、その勝ち負け両方あってこその今の自分だと。


口の端をやや上げて笑う。自分を鼓舞する意味も含めて。まあ全員俺の方を向いてないから見えてないんだけど。

いや、ワイバーンだけは見えてるか。それはそれでなんか複雑だな。


「それもそうだな、分かった。爺さん、あんたを信じる!」

顔は見えない。でも多分ケルファーも笑ってる。そんな気がした。


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