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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
32/73

会議で意見言わない奴は時給もらってはいけないとかぬかす上司はその会議が自分の意見を押し通すための茶番になっていないかを今一度考えてからそう言ってくれ

もともと前のやつと合わせて一話だったので少し短いです

うそん。


「行方不明って話だったんじゃ」

バリバリ路肩で遭遇したんだが。でも行方不明者だって別にずっと見つからないわけではないし、俺たちはあの段階であのお爺さんがゴルベフだって知らなかったわけだから、おかしいというほどではないのかもしれない。


「どこで会った?」

「なんか道が三つに分かれているところ」


ケルファーが答えた。


「なるほど」


ん?ちょっと待てよ。


「それっておかしくないか。あの場所からこの里まで歩いて二十分くらいかかった。一昨日の夜にいなくなったというなら、一日以上かけてまだ近場までしか移動していないってことになるぞ」


単なる夜逃げとかであれば、もっと遠くにいないといけないはずだ。近場にいる理由はない。見つかるリスクが上がるだけだ。

近場でならねばならない理由があった…?


「それは俺にもわからねえ。だがお前らの言った爺さんがゴルベフであるこたぁ違ぇねえ」

「実はゴルベフさんが双子って可能性は」

双子トリック。これまでの前提を全てぶっ壊すウルトラCだ。

まあないとは思うが。

「ねえな。前に酒の席で話したことはあったが、やつは一人っ子だ」

ふむ、自己申告だから怪しいといえば怪しいが、まあ取りあえず脇においておこう。


「それに、あの人が自分以外の工房を人に勧めるなんてありえねえ。鍛冶師ってのはプライドの高いやつが多いんだ。よほど首の回らないほど忙しいときじゃなければ、自分が打つっていうもんさ」

「それが里一番ならなおさらと」

そうケルファーが問いかける。

「ああ」

ううむ、わからん。というか考えたところで見つかるかどうかもわかんないしな。他人の思考回路をまるまるトレースなんて真似、俺には無理だ。どっかの薬屋の少女みたいにはいかないものである。


「そういえば、優勝ってどう決めるんですか」

これ以上ゴルベフさんを探す流れになっても面倒だ。少々卑怯だが、ここで話題を切り替えさせて貰おう。

「ああ、この里の近くに住んでるワイバーンによる突進を耐えさせ、その状況で判断するらしい」

「え、この里近くにワイバーン住んでるんすか?」

「なんでもこの里を興した初代里長がうまく手なずけたらしい」

ワイバーンを手なずけるって並大抵のことじゃないんだが。ドラゴンの一角だぞ。


「でも、それって初代里長にしかできないんじゃ」

「なんでもそのワイバーンにスキヤキなる料理をふるまって手なずけたらしい」

一気に胡散臭い話になったな、おい。ワイバーンがスキヤキで手なずけられるわけないだろワイバーンなめんな。でもスキヤキはうまいよな、わかる。

「で、里のなかでスキヤキを作れる人間は限られていてな、確かゴルベフも知っていたはずだ」

「ゴルベフさんはワイバーンに会ったことがあると」

「まあな」


ふと、俺の中に一つの仮説が思い浮かんだ。

しかし、あまりに突拍子のない考えなので、この場で言うのは憚られる。

どうしよう、言うべきだろうか。

って何考えてんだ、俺は。別に言ったとて何か害があるわけではない。そもそも、自分から行動してみるっていうのがこの旅のテーマの一つだろうが。

だったら口に出すべきだ。

心の中の逡巡を片づけて、俺が口を開こうとしたその時。


ドワァァァァァン!!


轟音が鳴り響いた。



「な、なんだ?」

ケルファーが動揺している。というかこの場にいる全員が動揺している。無理もない。これだけの轟音だ。相当慣れていないときついに違いない。

だが俺が考えていたのはまったく別のことであった。


もし俺の予想が当たっているとするならば。


「剣が完成するまであとどれくらいだ」

「もうちょいだ、一分もかからん」

「代金は」

「さっき払ったろ」


そうだった。どうやら俺も焦っているらしい。


「どうしたんだ?」

「急がないといけないかもしれない」

「マジで? 行先は?」

「ワイバーンがいるとこだ」

ん、それってどこだ? よく考えたら俺も知らんぞ。

「よくわからんが、ワイバーンのとこに行きたいなら、お前らがゴルベフに会った場所で分岐してた道の向こうだぜ、ホイッ、完成だ」

おお、ありがてえ。そしてそれも分からずに出発しようとしていた俺情けねえ!


「ありがとうございます、ケルファー、行くぞ」

「お、おう」

俺は受け取った剣を腰に差し、ケルファーと一緒に工房を出て走り出した。

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