たまたま遭遇したキャラが重要キャラというのはラノベの鉄板
気まずい。
見てはいけないものを見てしまった。それによる沈黙が俺とケルファーの間に鎮座マシマシしている。
どうすんだこれ。ちくしょう。やっぱり止めるべきだったんだ。俺の方は一応たまたま聞こえただけみたいに言い逃れができるが、コイツの方はそんなことできない。
何か、この状況を打破する何かはないのか。
そんな負のループに陥って視野が狭くなってしまったのだろう。俺は目の前を歩く誰かにぶつかってしまった。
「あ、すんません」
「ちゃんと気をつけろよ、ったく」
どうやらぶつかったのは俺だけらしい。ケルファーの方は10メートルくらい先を歩いていた。
しかし、どうにも気になったことがあるので、俺はぶつかってしまった相手に話しかけることにした。
「あの、答えたくないならいいんですけど、なんでそんな葉っぱまみれなんです?」
よくよく見てみれば、お相手さんは体のあちこちに木の葉をくっつけていた。それはもう、落ち葉の中に埋没していたんかってくらい葉っぱがくっついていた。まあ葉っぱの色は緑なのだが。
「ああん、うちの師匠が急にいなくなったからに決まってんだろ」
決まってるのかよ。
「なるほど、人探しを」
「ああ、ここら辺は周り小高い山だからな、人が隠れる場所はそれなりにあるんだ。まあ、空振りだったけどよ」
願わくば、探す理由は秘伝の技術がどうたらこうたらではなく、ただ心配だからという理由で探していることを祈ろう。相続争いとか百害あって一利なしだからな。
って、部外者の俺が考えることではないか。
「すみません、俺はこれで」
「おう」
浮かんだ思考を破却し、即座にケルファーの後を追いかけることにした。
どうやら少し先で待っていたらしく、おれはすぐに追いついた。
「何話してたんだ」
「いや、どうやら人がひとりいなくなったらしい」
「なるほど」
おや、思ったより淡白な反応だな。てっきり俺たちも探すの手伝おうぜ、っていうのかと思ったのだが。
正直探すのはあまり気乗りしない。見つからなかった場合変な気分でここを出なくてはならないからだ。
「行こうぜ」
「お、おう」
そんな俺の疑問と懸念をよそに、俺たちは剣を研いでもらっている工房のところに戻ってきていた。
どうやらあと5分ほどかかるらしい。とはいってもレラゾ液と呼ばれる液体を均一にかけるとのことなので、そこまで張り詰めた雰囲気ではない。
「歩き回ってましたけど、あんましほかの鍛冶師見ませんでしたね」
作業の様子をみながらケルファーはつぶやいた。ひょっとしたら無意識にまほろび出た言葉だったのかもしれない。
「そりゃあ、第一騎士団長さまの盾を作ってるために皆引きこもってるからな」
壁一枚向こうからそんな応答をするガラハッドさん。
「ふーん、やっぱ名誉ってのは大事なんかね」
「そりゃそうだろ、今後の仕事にも直結する。まあ報酬の金貨80枚も理由としては大きいと思うがな」
「身も蓋もねえ」
まあでも世の中お金でできることはたくさんあるからな。かくいう俺もこの世界に来たばかりのころはお金ためることそのものが目的と化していたし。やはりお金、お金はすべてを解決する。
「あと、この町一番の鍛冶師がいなくなったってのもあるな」
「それって」
確かキルリエールのところでも言っていたような。
「ああ、一昨日の夜この里一番の腕と鳴らしていたゴルベフがいなくなったんだ。書き置きは残してたんだが、自分がいなくなった後処理のことばかりでな。自分がいなくなったワケとかは全然書かなかったらしい」
立つ鳥後を濁さずってわけか。まあ無音で立ってしまったのが問題になったわけだが。
村一番の鍛冶師なら一級魔法使い一次試験の鳥並みに目立つ飛び方をしなきゃ。
「ゴルベフさんってのはどんな鍛冶師だったんすか?」
「そうだな、まあ言い方を選ばなければ、天才肌だったな」
「天才肌、ですか?」
どういう意味だろう、ちょっと想像がつかない。
「二十年前にこの里に来てな。初めはベルドットの工房に師事してたんだが、三年くらい経ってから自分の工房を持つようになった。それからはあれよあれよという間にこの里の一番として頭角を表していった」
なるほど、なんとなくわかったぞ。
「普通、師匠のとこから独り立ちするのには十年かかる。だがあいつはたった三年で自分の工房をもってしかも里一番の鍛冶師に成り上がったんだ。これが天才じゃなくて何だってんだ?」
「そういうことだったんすね」
ケルファーが納得したようにうなずいた。
「でも、今回はいないと」
「ああ、だから自分の作った盾が選ばれる望みが増えたってわけだ」
そりゃやる気も出るわな。
「ちなみにガラハッドさんは誰が勝つと思います?」
体を前にせりだしながらケルファーが尋ねる。
「さあな、正直わからん。ただあんたらが気になってたキルリエールってやつは最近頭角を現してきてな、正味勝利を狙えると大層いい評判らしい」
そういや中学の時の先生に下の名前が「タイソウ」って人がいたな、苗字は忘れたしどうでもいいけど。
「お前さんらもその噂を聞いて来たのかい?」
「いや、俺らは」
「なんかここに来る途中白髪のおじいさんに会ってな。そいつにおすすめされたんだ」
横からケルファーがそう答える。
「なんか青いメッシュ入ってたよな」
「ちょっと待て」
ガラハッドさんは手に持っていた瓶を台においてこちらを見た。
「今白髪で青いメッシュが入ってるって言ったな」
「ああ、言ったけど」
「身長はどれくらいだ」
今までのただ会話に付き合っていた声色とは違い、どこか真剣な声である。
「ケルファーの、肩ぐらいかな」
「そんぐらいだったな」
ケルファーの身長は地球換算で180センチほど、つまり爺さんの身長はその八割の140センチ強というところだろう。
「間違いねえ、ゴルベフだ」




