男子高校生は授業中にわけわからんことを考えるのが得意
そして昼過ぎ。
俺たちはハイドイルムについていた。
規模はキッシングと同じくらい。違うところといえば、妙に黒い屋根をした建物が多いという点だ。
そして、町から伸びる三本の道のうち一本がやたら混んでいた。念のため言っておくが、俺たちが来た道ではない。
なにかあったのか。
「すみません」
「なんだい」
屋台で昼飯を調達するついでに、俺はあの混みようの正体について探りを入れた。ちなみにケルファーは無駄な野次馬根性を発揮して現場を見に行った。
「やたらあっちの道が混んでいましたが、あれは何です?」
「ああ、あの道をまっすぐ行くとすぐに鍛冶師らの里につくんだよ。最近勇者がバジリスクを倒しただろ。その時に第一騎士団長の盾が壊れたからよ、新しいのを作ることにしたんだ。そんでもってあの里の中で一番性能がいい盾を作ったやつに金貨80枚をやるってお触れが出てな、以来ずっとああよ」
なるほど、この騒ぎはある意味金に群がる者どもが引き起こしてるってことか。
「あんがとな、おっちゃん」
王国内でよく売られているサンドを四つ受け取り、俺は道の近くにいるであろうケルファーを探しに向かう。
しかし、勇者の戦いで第一騎士団長が盾を破損っていうのはどういう状況だ?
まだ勇者が成長途中だから、お守りで第一騎士団長がついているってことか?
わからん、勇者に関する情報がすくねえから分析しようがない。何なら俺、勇者の顔すらおぼろげだしな。
どっかの町でギルドがあったら情報を集めるか。
そんなことを考えながら、俺はケルファーを探して回った。
そしてほどなくして見つけた。両手に盾をもってなんか飛び立とうとする鳥のようなポーズを取っているケルファーを。
「何やってんのお前」
鳥人間コンテストに参加しようとしていたのだろうか。残念ながら物理は苦手なのであまり手助けはできそうにない。頑張ってくれ。
「いや、ポージングを頼まれたからな」
どうやら盾の宣伝に使うポーズの実験台を頼まれたらしい。
「だとしてもだ」
なんで盾を強調するのにそのポーズなんだよ、もっと他になかったわけ? 股間を盾で隠すとか。
我ながら発想がひどい。もっと他にあるだろ。
「あんたら、盾は使うかい?」
なんで咄嗟に浮かんだ発想がそれなんだと、己の発想力の低さに辟易していると、ケルファーの隣にいたおっさんが話しかけてきた。おそらくケルファーが持っている盾の持ち主であろう。
「いや、俺は別に」
「俺もあんま使わないっすね」
「あんまってことは、使うんだな」
「え」
「つかうんだな」
「あの」
「つかうんだよな」
「マア、イチオウ」
あかん、ケルファーがカタコトになってしまった。このおっさん、ただ物じゃない。
「そうか、お前さん等は運が良い。実はわしはここの土地に詳しくてな、里に抜ける別の道を知っているんだ。それならあの混雑を気にせずに行けるぞ」
あ、意外に優しかった。
しかし流石に圧が強すぎる。これでは提案に乗ろうとは思わないだろう。というかはっきり言って怪しい。これは何か対価を要求されるやつだ。別に鍛冶師の里に行くわけじゃないし、ここはお断りを…。
「マジすか、ありがとうございます!」
どうやら相方はそういうのは気にしないタイプだったらしい。この変わり身の速さよ。
ねえ、さっきまで嫌な顔してなかった? あれか、盾の押し売りでもされるのかと思ったのか?
そんなわけで、俺達は鍛冶師の里に向かう裏道を歩いていた。ちなみにおじさんが要求してきたのは知りあいに手紙を渡すことだった。思ったより単純で一安心。
少し前に目線を向けると、大きな道が合流するところがある。おそらくあの人混みがいた道はここでつながっているのだろう。
「つい勢いで来ることになったけど、これ行く必要あるか?」
「なんでだ?」
「いや、だってお前盾使わないじゃん」
もしも、もしもだ。俺らが鍛冶師の里で何もせずただぶらぶら見て回っただけだとしよう。
鍛冶師ってさ、絶対堅物じゃん(偏見)
ってことは文句言われるんじゃあないですかぁぁ、ヤダー。
みたいなことを考えていたんだが、冷静に考えてみれば剣を鍛造している可能性だってある、はずだ。
「お前、出発時に自分が言ったこと忘れたのか?」
「え、なにそれ」
「ルートを北に設定した時、行ったことがないからって言っただろ」
「うん」
「お前、この感じからして鍛冶師の里には行ったことないんだろ」
「まあ、そうだな」
「じゃあ行くべきだ」
「行くべきか」
過去の自分の発言と矛盾した行動をとるのは俺の信念に反する。
「行くべきだな」
ケルファーが俺の発言に追従する。
「行くべきかもな」
マジかー。
まあいいや、何かあったらそん時考えよう。手紙を渡すという大義名分もあるしな。
なんてことを考えながら道を歩いていると分かれ道に差し掛かった。
「あれ、まっすぐ進めばいいってあの人言ってたよな」
さては謀られたか。あるいは何かのスタンド攻撃でも食らって脳が幻覚を見ているか。
まあ後者は論外として、ここはどうするのがいいのだろう?
しかし心配は杞憂だった。
分かれ道の片方から白髪のおじいさんがやってきたのだ。おしゃれであろうか、青のメッシュが入っている。背中にはかなり大きめの背嚢を背負っている。
「あの、すみません」
すぐさまケルファーが話しかけに行った。
「む、なんだお主たち」
「いやー俺等旅人なんですけど、鍛冶師の里に行きたくて。道がどっちかわかります?」
ショートケーキに乗ってるいちごくらい好かれそうな雰囲気を醸し出しながら、彼は道を尋ねる。多分俺にはできない芸当だ。
「なんじゃ、それなら儂が来た道を進めば良い。途中に分岐はないからな」
「おお、これはどうも。ご厚意に感謝します」
「そうだ、老婆心ながら忠告しておこう」
「おい、この人女性だったのか」
「チゲーよ」
耳打ちしてきたケルファーに突っ込む。
老婆心って別に男だから使えないとかそういうことはないはずだ。いやまて、こちらの世界では違うのかもしれん。
だが、よしんばそうであったとしても、否定材料はある。
「ほら、なんかこう骨格的にさ、男の人っぽいだろ」
はいきましたー、戦闘が強い人が良いそうなセリフ76位(俺調べ)いただきましたー。
まあ俺も見抜けるようになったのはつい最近なんだが。
つうかナイルの件といい、こいつ男と女の区別つけるの苦手なんかな。いつか男の娘の群れの中にコイツを放り込んでみてえな。
「なるほど、わからん」
「そうか」
相乗平均。
まあわからないもんは仕方ない。
「依頼を出すなら、キルリエールと名札がついた工房がおすすめじゃ」
くだらないことを会話していると、おじいさんはそんなことを言ってきた。どうやらこのおじいさんはかなり商売魂があるようだ。ここで宣伝を入れてくるとは。
「なるほど、わざわざありがとうございます!」
ガツンッッ。
「いってぇ」
ケルファーが右手を押さえた。
俺たちの横を通り過ぎようとしていたおじいさんの方を振り向こうとして、体をひねった結果、背嚢に盛大に右手をぶつけたのだ。
「すみません」
「かまわん、瀬戸物が入っているわけでもなし」
いや、今の音は瀬戸物というよりも。
「何が入ってるんです、その中」
俺は指さして問うた。
「なに、わしの盾じゃ。大したものだよ」
大したものなんかい。
まあいいや、口ぶりからして壊れたりはしていないのだろう。
「すみません、話し込んじゃいましたね、俺たちはこれで」
「うむ、気を付けるのだぞ」
そういうと、おじいさんは去っていった。
俺たちも里の方に向けて歩いていく。
およそ二十分ほど歩いたところで、目の前に集落が現れた。
家屋の数は四十軒弱といったところか。その大部分から煙が立ち上っている。いかついおっさんが何人か歩き回っており、何人かは手に金槌を握っている。
そして、あちらこちらで響くトンテンカンテンという音。まだ集落の中に入っていないというのに、目の前を特急が通過した時並みに音がするのだから、いかに盛んに鍛冶が行われているかがわかる。
今までに経験したことのない、独特の雰囲気が漂っていた。
「ここが鍛冶師の里か」
ケルファーもケルファーで、新しいものにふれた際の感慨深いような表情をしている。
で、ここからどうするん? 特に何も考えてないけど。男子高校生の授業中並みに何も考えていないけど。ここからどうするの?教えてChat〇PT。あ、課金してないから無理か。
「取りあえず、剣作ってるところ見て回るか」
ということなので、剣を鍛造しているところを探すことになった。




