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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
24/73

死ぬ前にサグラダファミリアの完成くらい見たいなと考えてたところそんなのよりトマト祭りだろと言われてブチギれていたら、異世界に来て顔面にトマトをスパーキングされた主人公の心情を50字以内で述べなさい

どうやら近くに調理場があるようなので、まずはそこに移動する。

「どうやって食うよ」

「シンプルに焼くってのはどうだ」

いいね、そうしよう。

鱗をかぐ、えらを外す、はらを裂いてわたを抜く。水洗いして串を指す。多めに塩を降って火であぶっていく。

串焼きは弱火でじっくりあぶるのが良いらしい。なのでそれなりに時間はかかる。

ではその時間をどう埋めるか。

答えはいたってシンプル、会話である。これが一人だったら厨二チックな妄想をするか、空を動く雲を眺めるか、この魚がどう生きてきたのか想像するとか、鼻歌歌うとか、一人ディベートごっこを脳内で繰り広げるとか、周囲の人間観察をするとかして時間をつぶさねばならない。そしてそれが周りにばれようものなら、直ちに陰キャの烙印を押されることであろう。ここが日本じゃなくてよかった。そしてケルファーがいてよかった。


「ミラー、お前今まで冒険者やっててプファルツから出たりしなかったのか」

「いや、依頼でよその街に繰り出すことはあった」

「じゃあその時の面白い話なんか聞かせてくれよ」

「え」


面白い話か、そうだな。


「ブロンズランクに上がってひと月くらいだったかな、依頼でサーベルタイガーの群れを討伐してほしいってのが来てたんだよ。たしか依頼元はトマト農家だったかな」


「ほうほう」


「あの時、群れの中に単身突撃して殲滅してたら、一匹だけ取り逃がしちまってよ、その一匹がトマト園の方に逃げちまったんだ」


「それは大変だな」


「あの時はスキルの暗器術も習得してなかったからな、慌てて追いかけたさ。そしたら先に農園に回り込まれていて、しかも依頼主が収穫中だったんだ」


「ピンチじゃねえか」


「依頼主びっくりしてさ、こっちに向かってトマトを投げつけてきたんだけど」


「まさか」


「いやー、すごかったぜ、投げた奴は四つで内二つがサーベルタイガーの目に当たってもう一つは外れた。最後の一個が」

「お前の顔面に当たったんだな」

農家のおじさんがトマトを、依頼に来た冒険者の顔面にスパーキング!


「よくわかったな」

「まあこれくらいはな」

そういうと、ケルファーは鼻を手の甲でこすりながらそういった。

いやー、あの時はすごかったな。なにせ顔面トマトまみれだ。前が見えなくて軽くパニックになりかけたぜ。


「それでよ」

「あれ、続きがあるのか」

「まあ依頼主も流石に俺が前見えない状態でサーベルタイガーを倒すのは無理だって勘づいたんだろう。頭に巻いていた手拭いをこう、クシャっとまとめて投げてきたんだ」


「届いたのか」


「ああ」

すさまじいコントロールだった。もしこの世界に野球があったら間違いなくピッチャーとして大成していたに違いない。

「そんでもって手拭いで顔をサッて拭いてサーベルタイガーをサクッと倒した」


結果的には依頼成功だったが、依頼主に危険を感じさせてしまったので、報酬は言い値の七割ということであの時は決着がついた。ほんとは五割なのだが、トマトヘッドショットのお詫びということでその分を負けてもらえた。

そのことを話すと爆笑された。


「なるほど、トマトが顔面に当たったのが結果的に吉と出たわけだ」

「これ吉って言っていいのか」


あのあとしばらく何喰ってもトマトのにおいがして割と面倒だったんだぞ。朝顔を洗うときとかトマトジュースで洗浄してるんじゃないかと勘違いしそうなくらいには


「おお、そろそろいい感じなんじゃないか」


ケルファーは魚をひっくり返してそういったが、まだだ。まだ食べさせんぞ。

「お前がなんか面白い話をしろ、それで多分時間的にはいい感じになる」

面白い話を人に強要するなんざ俺のポリシーに反するが、まあ先に要求されたんだしいいだろ。


「そうだなぁ、あれは俺が十歳くらいのころだったかな」


「お、おう」


なんか想像していた語り出しと違うな。っていうかこいつ何歳なんだろう?

「俺の友達の一人がたまたま町に来ていたお姉さんに惚れちまってな」


「なるほど」

失恋系かな?


「まあガキだったから一人で宿に帰るタイミングで告白したんだけどよ」


「アクティブすぎんか」

ガキだったからとか言ってる場合じゃない。その年のガキがやることではない。というかタイミングがわざと過ぎる。


「そしたらなんとオッケーをもらったんだよ」


「ウソだろ」

ウソだ、ウソだと言ってくれ。それじゃあ異世界にきて彼女できていない俺がバカみたいじゃないか。


「そしてその日の夜、奴は」


「奴は」

そこでケルファーは一呼吸置いた。

「目撃したんだ」


ゴクリ。

「そのお姉さんが、ほかの男と宿屋に入っていくところをな」

「悪女じゃねえか」

どこが笑える話なんだ。その子脳破壊されてんじゃねえか。

そう尋ねると、ケルファーは笑ってこういった。もちろん脳破壊なんて単語は使わない。


「そりゃあ、あの時は友達が絶望した顔してたからな、めっちゃ笑ったぜ」

うーん、この。

「そしたらな」


「え、続きがあんの」


「あいつ、俺は将来ビッグになるんだ!て言って王都に行ったんだ。一回だけ会ったことがあるんだけど、いい家に住んでたぜ。多分相当頑張ったんだろ」

「へえ」

まあ、うん。面白い話かはさておきなかなかいい話じゃあないの。ちょっと最後場面が飛躍したけど。


「はい、これで俺の話はおしまい。そろそろいいんじゃないか」

「そうだな」

魚はいい感じに焼けていた。


「セイッ」

ナイフを使っていい感じに二等分する。もちろんもう片方はケルファーの分だ。

そのまま二人で魚を食べる。

うまい、じっくり焼いたからか身がすごくやわらけぇ。塩を多めにふったから味もしっかりしている。

自分ひとりだったら時間短縮のために高火力で魚をあぶっておしまいだから、弱火で焼くのは初めてだったが、存外うまくいったようだ。


目玉までしっかり食べきって、ご馳走様っと。

見ると、ケルファーのほうも目玉までしっかりと食べている。


「珍しいな、お前みたいに全部食うやつは」

「まあな、食材は無駄にすんなって教わったんだ。そういうお前こそ、ずいぶんと荒っぽい食い方するんだな。元騎士のくせに」

この世界では俺みたいに目玉まで食うというのは少数派である。

「まあ、俺ガキの頃はあんまし育ち良くなかったからな」

「なるほど」

よし、この話題はやめよう。いくら友人とはいえ踏み込んではならない領域(テリトリー)はある。俺だって転生者であることを公にしてないんだし。


「とりあえず、町の方に戻るか」

「そうだな」

腹も膨れたので、俺たちは町の方へと戻ることにした。



私はすき焼き肉豆腐のショートが一番好きです

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