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異世界転生してから八年たった  作者: タリナーズヒーコー
第二章
23/73

多分ラノベの世界で権力者に遭遇する確率は日本の街中でベンツに遭遇する確率より高い

次の町へと二人は進む

約一時間ほど歩くと、キッシングの町についた。


「こっから、どうするよ」

ケルファーがそう尋ねる。


「まあ、取りあえずこの町を見て回ろう。なんか面白いものがあるかもしれないぜ」

こういう小さな町でいい感じのスポットを見つけるのも旅の醍醐味だろう。

そう答えると、彼も納得したらしく、そうだなと言ってくれた。

しばらく町を見て回る。

聞けば、この町からちょっと離れた所にいい感じの川があるらしい。そこで釣れる魚がウマいんだとか。


「ケルファー、釣りって興味あるか」

「ああ、よく参加しては褒められてたぜ」

よし、決定だな。


「じゃあそこに行こう」


***


そこは、かなりいい雰囲気の場所だった。川の水の透明度はわりかし高く、清流というに不足ない。時々大きな石にぶつかって刻む不規則なリズムも、不思議としっくりくる。

所々で川底の苔むした石がきらめいている。川沿いに生えている木々に生い茂る葉からは、数時間前までなら朝露と名乗っていたのだろう水滴が滴っている。

ごめん、流石に盛った。朝露とか川底の石の生えている苔とかは完全にノリで言ったね。苔はともかくこの距離で水滴を認識できるわけないやん。だがこういう感性は重要なはずだ。反省はしていない。

偏差値が低い言い方をすれば、バエルとかいうのだろう。だが俺は脳が一世代前で止まっているのでオシャンティーという言い方しかあいにく知らん。まあ同じカタカナだし似たようなもんだろ。

周りには8組ほど先着がいる。どうやらそれなりに人気の場所であるようだ。


「よーし、釣るぞ」


実をいうと釣りに挑むのはかなり久しぶりだ。冒険者を始めて半年たったくらいに野宿のやり方をロムサックさんが教えてくれたのだが、その時に食料確保の手段として教わったのだ。

あの後も何回かやったことはあるし、釣った魚をさばく練習もした。


そこで分かったことがある。


俺は釣りに向かない人間である。


おまえ、自分は何々に向いていないって決めつけんなよとおっしゃる人もいるかもしれないが、ちょっと待ってほしい。

より正確に言えば、俺は何か別のことを抱えたまま釣りに挑むことができない人間らしい。

まあこれは出発点に原因があるのかもしれないな。俺にとって釣ることは手段でしかなく、釣りをしているときは大体ギルドからの依頼の真っ只中であった。

楽しむために釣りをしていたらひょっとすると違う向き合い方があったのかもしれない。

だとするならば、いまこの瞬間はチャンスだ。俺は何も背負っておらず、やらねばならないことも特にない。こらそこ、ニートとかいうんじゃない。ニートに失礼だろ。何せ俺は今住所不定だ。格が違うんだよ格が。

つまりだ、今なら釣りに楽しみを見出せそうな気がするというわけだ。男なら誰しも自分の釣った魚をかっこよくさばいてキャアーキャアー言われたいと思ったことがあるはずだ。

いざ、ロマンを求めて!




そして一時間が経過した現在の状況がこうだ。

釣果ゼロ。それが現実ゥー。

「なぜだ」

全然つれないんだが。全然釣れなさ過ぎてゼンゼンゼンゼン全裸マンまである。いやないか。俺今服着てるし。

横のケルファーを見てみると、それほど動揺しているようには見えない。やるなこいつ、ココロが強い。

でもなあ。


「よし、釣れた」

「あなた、釣れたわよ」

「来た来た」


こんな具合で周りはなぜか釣れているんだよな。下手したら七分おきに釣れているんじゃなかろうか。

おかげで差がえぐいことになってる。これが格差社会の現実か。いや、別に格差があることはいいんだ。だけどさ、それを短い周期で定期的に見せつけんなって話。何?人の心折って楽しいわけ?


「ケルファー、全然つれないんだけど」

「まあまあ、いいじゃないか」

「緊張感ねぇな」

「それが釣りってものだろ」

俺が漁師なら収入に関係大アリクイなため反論してただろうが、あいにく俺はバンピーである。

仕方ない、気楽に待つか。



そして三十分近くが経過した。

さっきサワラっぽい魚を釣りあげたが、端的に言えばそれだけだ。ちなみにケルファーはまだ一匹も釣ってない。

さすがに何か妙だと俺は思いケルファーの方を見たのだが、そこで見てしまった。


何ということでしょう!水中を泳いでいた魚がケルファーの釣り針にあわやかかるのではと思った次の瞬間に、クルっと向きを変えて別の釣り針の方へと向かっているではありませんか!

しかもその釣り針に引っかかって次の瞬間空中を舞っているではありませんか!


ナンダイイマノハ?


「ケルファー、今の見えたか」

「ああ、見えた。良く起こるのさ」

「いや良く起こられたらこま」


待て。さっきこいつはよく参加しては褒められていたと言っていたな。

つまりだ、釣りの結果に関して褒められたとは一言も言っていないということだ。

もしや。


「おまえ、褒められたって言ってたのはまさか」

「ああ、俺が参加するとみんながよく釣れるんだ」

ガッデム。

どんな体質だよ。っていうか

「俺にその効果が適用されてないんだが」

「それは俺も知らん」

ふざけんなおい。

多分元々はこうだ。ケルファーは自分のこの体質のことを知っていて、俺と一緒なら俺がわりかし釣ってくれると期待したのだろう。だから釣りの提案に乗ったのだ。

だが俺は一匹しか釣れなかった。

…アレ、これ俺のせいなのかもしかして?

なんか急に後ろめたさが。しかも釣りに行くの決定したの俺だからなおさら。


「おお、来た来た!しかもこれ大物だ」

「マジで!」


危うく落ち込みかけたが、どうやらまだ希望を持っていてもいいらしい。

おいちょっとまて。ここから逆転できる方法があるんですか!?

「うおおお」

ケルファーがかなり必死になって釣竿を引いている。まるで漫画にでもありそうなぐらい引っ張っている。

くそ、こうしちゃいられない。学生時代の綱引きで勝った記憶は皆無だが俺も手伝うぜ!

「ぬおおお」

ケルファーに後ろから抱きつくような格好になり腕を引っ張る。

いやマジで重い。未来日記のヒロインの愛情くらい重い。マジヘヴィ。

これ諦めた方がいいんじゃねえの?


「まだだぞ」


ふと声が聞こえたので後ろを向くと、さっきまで釣りをやっていたおっさんの一人が俺の腰をつかんで支えている。

「こらえろ。もう少しこらえるんじゃ」

「了解しましたぁ」

なんだかケルファーがやけに気合の入った声で叫んだ。

なんかよくわからんが手伝ってくれるというのならありがたい。

おっさんが一人増えたので、わりかし楽になった。釣竿も少しづつ上がってきている。

すると。


「うわぁぁぁ」

腕の力が抜けた。

まさか失敗したのか。

そう思って前を覗き見ると、クソデカい魚がケルファーの股の間でぴちぴちと跳ねている。

当の本人は放心状態であった。

「ありゃ、これはまた」

「なんか特別な魚なんですか」

「ああ、ネガルパッチェといってな。ここで稀にとれる魚なんじゃ。わしもここで長く町長をやっているが、遭遇したのはこれでまだ4回目じゃのお」

なるほど、結構レアい感じなのね。

ん、なんか今町長って言った気がする。

まあ流石に気のせいだろう。多分蝶々の間違いだ。きっとこのおっさんはバタフライで世界相手に戦ってきたんだろう。そうに決まってる。


「ああ、すまん、名乗っていなかったね。キッシングの町長をやっているドーアだ。それでさっそくお願いなんだが、このネガルパッチェの解体をどうかわしのところでやらせてくれんか」


どうやらマジに町長だったらしい。町長がなんでこんな所で釣りしてるんだ?

それを聞いてみると、こういうことだった。

曰く、この町の長になるための一つの条件として釣りがウマいことは絶対条件らしく、町長になった後も後進に威厳を見せるために定期的に釣りをしているとのこと。


そんなことある?


「ミラー、どうする?」

さっきまで魚を釣りあげた衝撃で放心していたケルファーが聞いてきた。どうやら今の会話は聞いていたらしい。

「まあ、いいと思うぜ。どうせこれ俺ら二人には手に余る代物だしな」

「だな」

「うむ、交渉成立じゃな。今夜宴を開こう。君たちも参加しなさい」

「ありがとうございます」

ネガルパッチェをどうするかについて決まったので、町長はこいつを運ぶための人手を呼びに町中へ向かっていった。そして宴の時間も指定していった。


「俺ら、今夜はこの町に泊る感じ?」

「そうなるな」

今夜の宴とやらに参加しないというのは流石にまずい気がする。

「とりあえず、こいつどうする」

俺はさっき釣れたサワラもどきを指す。

「そろそろいい時間だし、食っちまうか」

「そうだな」


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