OK牧場が心理学用語だってみんな知ってた?
待っている人がいたとしたら、お待たせしました。
そして初めましての人は初めまして。
ここからはゆっくり進んでいきます。もし想像してたのと違う!ってなったら、他の作品を読みましょう。
町の門を出てひたすら街道を進んでいく。依頼で行ったことのある南の街道と違い、舗装などは特にされていない。それでも、それなりに人の往来があるのか見ればしっかりと道とわかるような行路が続いている。
町を出てからはすでに一時間ほどが経っていた。
「これ大丈夫だよな」
「安心しろ、もし野宿になっても用意はしてある」
「いやそうじゃなくてよ」
横を歩いていたケルファーがふと立ち止まる。
「この先行き止まりなんじゃないかってことだ」
ふむ。なるほど。それは考えていなかった。
「いや流石に大丈夫だろ。町に案内板があったんだから」
「それもそうだな」
看板があるから行先もあるというガバガバ論理にどうやら納得したらしく、俺たちは再び歩き続けた。
そして三十分後、分かれ道に差し掛かった。
どうやら行き止まりではなかったらしい。逆に言えば、あの看板はウソをついていなかったということだ。
「オーケー牧場」
「どういう意味だそれ」
「オーケーって意味だ。行き止まりじゃなかったからな」
「選択ミスって片方が行き止まりだったらどうする」
「その時は引き返す。流石に両方行き止まりってことはないだろ」
両方行き止まりだったら、全部壊します。(惑星破壊)
さて、分かれ道があるということは、だ。
「どっちにいったらいいと思う?」
「俺が決めていいのか」
「さっき出発時の方向は俺が決めたからな。今度はお前の番だ」
「じゃあ右にしよう」
「了解」
どうでもいいが、こうやって相手に判断をゆだねた時決断力ないとか言ってくる奴は何なんだろうか。こっちが決定権を譲ったのになんで批判されなきゃならんのじゃ。
閑話休題。
幸いにして俺の同行者はそんなことはなかった。やっぱりいいやつだ。
右の道を選んだ俺たちはそのまま道なりに進んだ。
十分ほど歩くと、また分かれ道に差し掛かった。ただしさっきと違うのは、片方がどう見ても山の中に向かっているという点だ。
どうしよう、旅というからにはやっぱ山に分け入るルートを選ぶべきなのか。しかし出発したばかりでそんなアグレッシブな選択をしていいものか。言ってみればこちらは旅初心者だ。やっぱり安全ルートで行くべきではないか。
逡巡していると、肩に手が置かれる。
「どうせなら山の方行こうぜ」
なんの迷いもない顔だった。なんならキラキラしてる。
まったく。悩んでたのがバカみたいじゃないか。
「分かった。行こう」
同行者にこういわれちゃあ断れないしな。
そんなわけで山の中へ向かう方へと進んでいくと、なにやら嗅ぎなれない匂いがしてきた。
いや待て。嗅ぎなれないとは形容したが、どこか覚えがある。これは多分。
答えにたどり着く前に、聞こえてきたのは鳴き声だった。
「モオウゥゥゥ」
やっぱりか。
そこにあったのは牧場だった。どこまでも広がっているんじゃないかと思えるくらいだだっ広い草原。雄大という語彙はこういう時に使うのだろう。そこに牛が十数頭ほど放し飼いにされている。模様からして乳牛に見えるが、この世界で直に牛を見たことがないのでわからない。
「お前、これをみこしてオーケー牧場って言ったのか」
「んなわけねぇだろ」
何感心した顔してんだ。俺を預言者だとでも思っているのかこいつは。
「そもそも山の中のルートを選んだのはお前だろ」
「じゃあ俺のおかげだな」
「その程度の功績を我が物にするな」
腹立つ、こいつのドヤ顔なんか腹立つ。
「とりあえず、人がいないか見てみようぜ」
「ちょ、おい」
制止の声を振り切って、ケルファーは向こうの方に見える赤い屋根をした建物の方へと走っていく。仕方がないので、俺も追いかけることにした。
「すみませーん、誰かいませんか」
ケルファーはクソデカ音量で人を呼んでいる。およそ40メートル離れている俺にも聞こえるのだからこれは相当クソデカである。これには俺も思わずクソデカため息である。
「はーい」
おや、誰かいたようだ。まあ当たり前か。こんな牧場があるってことは管理する人間がいるというのは確実だ。三〇矢サイダーを飲んだらげっぷが出るのと同じくらい確実にいるね。
さて、出てきたのは気のよさそうな青年であった。そしていかにも牧場で働いてますって格好をしている。
「こんにちは、おや?見ない顔ですね。あなたたちは?」
「旅人のケルファーと」
「ミラーです」
なんだかコントの紹介みたいになったな。
「なるほど、旅人さんでしたか、いやー、見ての通りこの牧場こんなところにあるので最寄りの町以外からめったに人来ないんですよ」
「メエエェェェ」
「おお、びっくりした」
どうやらここでは牛以外に羊も飼っているらしい。その証拠にこの青年は後ろに羊を二頭従えていた。さっきの鳴き声はこいつらのだろう。
「ははは、どうやらビスキュイとジェノワもお客さんが来てうれしがっているみたいだ。おっといけない。僕の名前を教えていませんでしたね。僕はティテュスといいます。見ての通り、ここを管理しているしがない牧場経営者です」
どうやらこの人はティテュスというらしい。
「とりあえず、立ち話もなんでしょうから、こちらにきてください」
そういうと、彼は赤い屋根の建物の方へと俺たちを案内した。
連れてこられたのはリビングっぽい所だった。まあこの世界にリビングなんて概念があるかは知らんが。
「お茶です」
そういって差し出されたのは、カップに並々と注がれた紅茶と、皿に乗った一切れのケーキ。よく見てみるとどうやらチーズケーキのようである。まあケーキについてはあんま詳しくないけどさ。
「さあさあ、どうぞ食べてみてください」
「じゃあ、遠慮なく」
そういってケルファーがまずチーズケーキをフォークで一口口に運んだ。しかもこの一口が結構デカい。
アイス一口頂戴って言ったら半分くらいは持っていきかねない一口だった。ホントに遠慮ねえな。
むしゃむしゃと数秒間咀嚼したのち、ケルファーは目をクッと見開いて叫んだ。
「うまーーーい」
あれ、もしかして今青空レ◯トランやってる?
そう思うくらいには迫真の声だった。つーかなんだその顔は。めっちゃ笑顔やないかい。
どれどれ、俺も一口。
「うまーーーい」
やべえ。ほぼ一緒のリアクションしちまった。これじゃあ俺も人のこといえねえや。
「よかった。これ、実は試作品なんですよ。ちょうど味見をしてくれる人が欲しかったので助かりました」
「そうなんすね、それはよかった。いやしかしこれほんとにおいしいですね」
そういってケルファーは一息に残りのケーキをバクっと食べてそれを紅茶で流し込んだ。
というか、客人を味見役にしたのか。別に不快には感じないが、なかなか肝の太いやつだな。
「試作品ということは、これティテュスさんが作ったんですか」
「そうなんです。うちで作ってるチーズを使っているんです。よかったら見ていきますか」
「「ぜひお願いします」」
ハモったな。
どうやら同じことを考えていたらしく、目が合うとケルファーはにやりと笑った。




