悪夢を見ると大体爆破オチか落下オチなんだが、これなんでなん?
そこを一言で言い表すなら、青かった。
とにかく青い。そこに塔が一つだけ立っている。
よくわからないのでとりあえず中に入ると階段があるので、そこを上る。
するとおよそ真ん中で急に塔が揺れたので、しゃがんでバランスをとる。
揺れがおさまって顔を上げると、そこに窓があった。
外を覗いてみると、もう一つ塔があった。
おかしい、さっきは一つしかなかったはず。
そう思って階段を降りようとした直後、視界がぶれ、いつの間にか俺はもう一つの塔の中ほどにいた。
もう一つの塔にいるとわかったのは、直感だと言いたいところだが、残念ながら違う。
単純に見える景色が違っただけだ。違うといっても黒と白みたいにはっきりと違うわけではない。しいて言うなら、某イタリアンファミレスの間違い探しのようなよく見ればわかる違いだ。
下へ降りようとしたが、なぜか踏み出した瞬間階段が崩れた。そこで俺は諦めて塔の上を目指すことにした。
上っていくと、もう一つ窓があった。俺は気分転換もかねてそこから外を見たのだが
「は?」
そこにあったのは目を疑うような光景であった。
なにせ窓に映った塔、おそらく俺が最初に入った塔が、ゆっくりと赤くなりながら、真っ赤な球体に形を変えていたのだ。
俺は自分の気が狂ったのかと思いつつ、塔の上をめがけて全力で階段をかけた。なぜダッシュだったのかはよくわからない。
しかし、どうやらこの空間は俺にも牙を向いたらしく、ガラガラという音が塔の中を反響したかと思えば、次の瞬間には階段が次々と崩れていった。
その瞬間、俺は塔の上をめがけてダッシュした理由をおぼろげながらに察した。おそらく塔が崩れるのだと本能的に察したのだろう。
「うおぉぉぉ」
やめろ、落ちたくない、死にたくない。
その思いとともにひたすら階段を上へと駆ける。だがその思いもむなしく、ついに俺の立っている階段が崩壊し、俺は下へと落ちていく。
落ちていく。瓦礫とともに落ちていく。
そこで目が覚めた。
「クソッタレ」
とんだ悪夢である。悪夢というのは厄介なもので、見たその日はその記憶に付きまとわれることになる。しかも今日は旅立ちの日である。幸先が悪いとしか言いようがない。
だが、今更出発を延期するというわけにもいかない。幸いにして起きるのが遅れたというわけではないらしく、あたりはまだ薄暗い。かっこよく言うなら彼は誰時というやつである。
俺は起きて顔を洗うと、昨日調達したアンティークランプと荷物をもって部屋を出た。これはこの宿屋への餞別だ。ちょうどいいやつを昨日小物の処分と同時に見つけたのでこうして買って帰ってきたというわけである。
一階に降りてアンティークランプをおいて餞別である旨を記したメモを残す。そうして玄関のドアを開けようとすると、なにやら紙が張り付けてある。
そこにかいている文を見て、俺は思わず吹き出してしまった。
なにせ「風邪、ひくなよ」と書かれてあったのだから。
おそらくバッハさんがかいて張ったのだろう。最後までダンディな男である。
俺は少し考えると、アンティークランプに貼ったメモに「追伸 クソお世話になりました」
と書いて、宿屋を出た。
筆者の体験談です