大事なことは先に云った方がいい。さもなくばすれ違ってしまうぞ、アン◯ャッシュのように
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そして翌日。
驚くべきことに、復興は目途がついていた。結界を張ってくれていた魔術師たちのおかげで瓦礫の撤去が一日で終わったこと、家屋の損害があったのが限られたエリアだけだったことも大きい。壊れた家屋も骨組みと外壁はほぼ完成したので、あとは内部をどうにかするだけになっていた。
そんな状況だから、祝勝会を早めに開催することができたのだろう。
俺も指定された作業を終えると、ギルドへと向かい、ケルファーを待つことにした。
「ミラーの旦那じゃないですか」
ん、誰だ。
待っていると声をかけられたので振り向いてみると、そこにはジョニーのパーティがいた。おそらく祝勝会に参加するのだろう。依頼用の装備はしていない。
「おお、あんたらか。元気か?」
こいつらは俺が頼まれて二回ほど依頼を一緒に受けに入ったパーティーだ。二回目の時はすわ加入かと思ったがそんなことはなかった。あの時は宿に帰って布団の中でわめいていた気がする。その後バッハさんにひっぱたかれたのもしっかりと。
「おかげさまでね。ミノタウロスも倒したし、シルバーへの昇格もみえてきやした」
そいつはいいことだ。俺はこの街を出るつもりなので、高ランクの冒険者が増えるのは素直にうれしい。
「これで、胸を張って旦那を勧誘できるってもんです」
ん?
イマコイツナンテイッタ?
俺を勧誘する?
「おい、ここで言ってどうするんだ」
「あ、やべ」
意識が一瞬無量空処されかけたが、聞き間違えたわけではないだろう。
「俺を勧誘するってのはどういうことだ?」
「ええっと、その」
なんだ、そんなにキョドって? 怒らないから言ってごらんなさい。
「俺らのパーティーがシルバーランクになったら旦那をパーティーに勧誘するつもりだったんです」
なんということだ。どうやらとんでもないすれ違いが発生していたらしい。
ここで素直に「いや、俺この街から出るんだよね」とか言ってみろ。どう見ても人でなしの所業だろーが。どうすんだよこれ。
「お、おうそうだったのか」
しかも俺から聞き出しちまったようなものだし話をここで切りづれーし!
「まあ、あくまで一歩近づいただけっすからね。シルバーランクへの道は長いっす」
「ああ。俺も大変だったよ」
たしかたまたまこの街にいたオカマのパーティーに加わってワイアームを倒しに行って、評定が足りてシルバーランクになったんだっけ。
そうか、シルバーランクになったときにこの街に帰ってくればいいのか!我ながらいい考えだ。
そうと決まれば、どのタイミングで旅に出る事実を打ち明けるかだな。
「取りあえず中に入ろうぜ」
まだ入り口である。ここで長話をし続けるのもよくないだろう。
俺はそう判断し、彼らとともにギルド内へと入った。
よくよく考えてみれば、中に入ったとてやることがあるわけでもなし、じゃあ先に祝勝会の会場に行っとくかと相成った。そういうわけで、今ギルドに隣接している酒場の奥の扉の前にいる。この扉を開けると、そこには転移魔法陣がある。より広い場所での宴会を行うために設置されている。
まあ俺が使ったことは一回しかないがな! それも宴会での乱闘を止めるために呼ばれただけだ。
なんか自分で言ってて悲しくなってきた。俺は女子と一回だけ手を繋いだことがある、腕相撲でだ、なんて言ってたやつが高校の同級生にいたが、それ並みに悲しい。
さあいざゆかん、というところであったが、俺はあることに気づいた。
俺ケルファーと待ち合わせしてるんだった。やっべ。
「わりぃ。俺待ち合わせしてるんだった。先に行っといてくれ」
約束は守らなくてはならない。
俺はそう言い残すと表へ戻ったが、そこにちょうどケルファーがいた。
「おう、どうしたそんなに慌てて」
まさか案内を忘れてたなんて馬鹿正直に答えるわけにもいかないので
「いや、ちょっとギルドで急用を思い出してね」
とお茶を濁しておく。
どうやらそれで納得したらしく、そうかと答えると、
「ナイルちゃんとしけこんでたんだな」
との返答をもらった。
なにいってんだこいつ。
「いやちげーし」
「気にすんなよ、旅に出る前にやることはやっとかないとな」
ははーん、こいつ話聞く気ないな。すっごいいい笑顔してるんだけどどう考えてもゲスいこと考えてるよね。烏間先生とイリーナ先生をくっつけようとしたE組の奴ら並みにゲスい顔してるよね。
まあ仕方ないと言えば仕方ない。あいつが男だってのは初見で見破ることはほぼ不可能だからな。こうなったらどこかとびきりのタイミングであいつが男だってばらしてこいつの間抜け面を拝ませてもらおう。
「わーったから、いくぞ」
伝家の宝刀、わかったふりを使用してこいつの追撃をかわし、扉へと案内する。誰もいないところを見るに、ジョニーらはもう先に行ってしまったようだ。ならばこちらも行くとしよう。
扉を開いて二人で転移魔法陣の上に立つ。あらかじめもらった専用の魔石を使うと、魔法陣が光って、次の瞬間には俺たちは祝勝会の会場にいた。
「おう、来たか」
転移した俺たちを迎えたのはケツアゴのザキ、間違えた。カルデラさんだ。よく見れば、この街の冒険者たちがわりかしそろっている。今回の祝勝会は戦闘にかかわった人たちの集まりなので、メンバーはほぼそろっているということになる。
やべえ。俺準備手伝おうとわりかし早めに来たつもりだったんだが。なんか重役出勤したみたいで若干気まずい。
「おお、すげー」
そしてそんな俺の心情はつゆ知らず、ケルファーは会場の雰囲気に大はしゃぎしていた。まあこいつは言ってしまえばゲスト枠みたいなもんだからな。準備に気をもむとかしなくていいわけだ、うらやましい限りである。
「とりあえず、何したらいいですか」
気を取り直してカルデラさんにそう尋ねたのだが、なぜだか苦い顔をされた。
「お前、働く気なのか」
「そりゃそうでしょ」
こういうのはただ参加するだけではいけない、というのが冒険者の間の不文律だ。先輩であるこの人なら知っていて当然のはずだが。
「いや、しかしだな」
「まあまあ、こいつはこういうやつなんですよ」
俺の肩に手を置きながら現れたのはロムサックさん。どうやら酒を運んでいたらしく、空になったケースが二つもう片方の手におさまっている。
「それに、あんたが迷宮の第30層を攻略した時も祝賀会で働いてたの、僕は覚えていますよ」
「う」
その一言にカルデラさんはやや顔をしかめた。
っていうか、全く話が見えてこないんだが。
「要するに、今回の一番の功労者が準備や後片付けに参加しまくるのはよくないだろう、って話」
困惑していると、俺の肩に手をおいていたロムサックさんが顔をこちら側に向けてきてそういった。
一番の功労者って誰のことだ?なんていうほど俺は鈍感ではない。この流れを鑑みるに、功労者とはおそらく俺のことだ。しかしなぜだ?俺がやったのはマグロブさんの依頼を受けてダンジョンの異変に気づいた。言ってしまえばそれだけだ。それだけで一番の功労者と呼ばれる理由はないハズだ。
「ああ、スタンピードが起こることを見抜いたんだ。それだけで十分だ」
「そういえば、最初はスタンピードが起こるってのはわかんなくて、みんなで得た情報を集めた後に資料室でお前がそう分析したんだよな」
いつの間にかそばに戻っていたケルファーが、懐かしむようにそう言った。
「あれがあったからみんな早く動けて被害が少なくてすんだんだよねぇ。カルデラさんがいってたぜ」
「おいロムサック」
「なんです?」
「お前さっきから酒臭いぞ」
「そんなことがあるんですか?」
「いや、ある!」
反語かな?
でも確かにさっきからロムサックさんの息に酒の匂いが混じっている感じがする。まあ俺は酒を飲んだことなんてないから憶測なのだが。
「あのー、皆さん」
「なんだ」
「もうそろそろ祝勝会が始まります、というかはじまってます」
「え」
その言葉を聞いて周りを見てみると、なんということでしょう、みなテーブルの前で待機しているではありませんか。そして一部の人はすでにビールを飲んでいるではありませんか!
「マジかよ」
思わず〇フォーアフター風になってしまったが、確かにこのままでは外聞上よろしくない。
俺たちはとりあえず、近くの椅子に腰をおろした。
「では、スタンピードを乗り切ったことを祝して」
「「「乾杯!」」」