あって四十八癖って結構多くね?
この世界にはユニークスキルなるものが存在する。
言ってしまえば、個人特有のスキルだ。ただし、全員が持っているわけではない。現に俺は持っていない。
スキルの内容は多種多様だが、基本的には普通にやっていたら習得できないような、あるいは完全上位互換な内容であるものが多い。
「隠してて悪かったな」
「別にいいさ。人間隠したいことの7つや8つくらいある」
「多くね」
「標準的だと思うが」
ってそうじゃない。グローバルスタンダードな話をしたいわけじゃない。
「取りあえず、ギガストーンゴーレムの陰に移動しよう、見るからにお前消耗してるぜ」
まあ俺も消耗しているんだが。
最初にクレイジーディアを切った場所からはいつの間にかだいぶ離れていた。ここらで一回態勢を立て直したいというのが本音だ。
「わかった」
見ると、ボスモンスターどもは、光っているケルファーの姿にビビったのか距離を取ってた。
これなら、あそこまで行けるか。
そう考えたその時、視界にやばい光景が映る。
「おい、ケルファー、あっち」
さっきまでのボス包囲網に参加してなかったジェネラルスネイクの攻撃によって、結界が破れつつあったのだ。
まずい。結界の外に出られたら俺たちの奮闘がパーになる。
「ケルファー、動けるか」
「ギリギリ」
くっそ、タゲをこっちに持ってくるのが限界か。だがジェネラルスネイクを加えた攻撃をしのげるかどうか。
そのときだった。
結界が割れた。
だが、ジェネラルスネイクによって破られたのではない。そこに穴が空いたのだ。
そして、結界外から火炎が突っ込んできた。
こっちまで届く熱さに、思わず目を背ける。
次の瞬間、そこにいたのは、体の大半が焼失したジェネラルスネイクだった。
「すみません、遅くなりました」
この声は。
「サシェラさんだ」
「向こうは終わったみたいだな」
「ああ」
これは心強い。
だが、いかにこの街最強のパーティといえどかなり消耗しているはずだ。油断は危険か。
とはいえまずは合流が先決。
「結界外まで突っ切るぞ、ついてこい」
「いけるか、とはきかないんだな」
「無理だっていうなら強制的に連れていく。それくらいの余力はある」
実を言うと結構ギリギリだが。
「おお怖い。そんなことする必要はねぇよ。自分で行くわ」
「ならいい」
この騒動にけりがつくのもそう遠くないだろう。だが、だからこそここで詰めを誤ってはならない。二次試験の最後の科目を解く前の休み時間に、「これが終われば受験から解放される」と考えた受験生が大体落ちるのと理屈は同じだ(個人の感想です)。
俺とケルファーは結界外に向かって進み始めた。
ボスモンスターらはサシェラさんの魔術に気をとられているようで、こっちを見ているものはほぼいない。
「来たか」
ほぼといったのはもちろん全部ではないからだ。キラービーだけはこっちを狙ってきていたのだ。
「しつこいやつは嫌われるぜっ」
俺の足めがけて針を突き刺して来るキラービーをジャンプしてかわす。
そして着地と同時に鉄杭を放る。あてるというより、追撃をワンテンポ遅らせるための一投。
だが、今日はツイてる日らしく、杭は羽の一枚を打ちぬいた。ラッキー。
「チャンスだ、一気に抜けるぞ」
「わかってるよ」
お前に言われなくてもな。
結界の外まであと30メートルといったところか。こっちの世界でもメートル法が健在だと知った日が懐かしい。
あと20メートルを切ったか。
「うおぉぉぉ」
どちらが発した声かはわからない。というかどうだっていい。
大事なのは、あと少しで一息つけるということなのだ。
残り10、いや8メートルか。一気にブーストをかける。
目の前の結界に穴が開いた。外にはカルデラさんらのパーティーが見える。
次の瞬間、俺らは結界の外に出ていた。
「ハァハァ」
緊張の糸が切れる。どうやら思ったより限界が近かったらしい。
横を見ると、ケルファーが仰向けになっていた。
「わりい、しばらく動けないかも」
ひょっとしたらユニークスキルによる消耗かもしれない。それを聞こうかと思ったが、やめた。ギリギリまでケルファーは隠してたわけだし、ここで聞く必要もないだろう。
「状況は」
「20、21、22、23層のボスは始末した。8、9、10層は知らん。残りがこの結界内にいるのは知っている」
「8、9、10層のは倒した。ここにいるのはあと5体、いや4体です」
ジェネラルスネイクは死んだも同然、無視して良いだろう。
残りはアイスロブスター、アーマードグリズリー、キラービー、マンティコアの4体。
割と倒せる範囲内のボスの数ではある。カルデラさんのパーティーがどれほど消耗しているか知らんけど。
「行けますか?」
「3体なら何とかなる」
ダメじゃん。
「とりあえず2体倒したらいったん様子見っすね、それなら大丈夫っす」
斥候役の人がそういった。
なるほど、別に一気に倒す必要はないのか。どうやら俺の頭のほうが硬かったらしい。
よくよく見れば、プリーストが結界を張っている魔術師たちとなにやら話した後、結界を張りなおしているのが見える。それと同時に今まで頑張っていた魔術師たちは離れて休息を取っていた。
「そういうわけだから、しばらく休んでおけ。2体倒し終わったらまた手伝ってもらうぞ」
そう言うと、カルデラさんたちは結界内に入っていった。
俺とケルファーがその場に残された。
「ユニークスキルの消耗、そんなにキツイのか?」
今は周りに誰もいない。聞くならここしかないと思った。
「普段なら5〜10分のインターバルを挟めばもう一回使えるぐらいならできる。ただ魔力を消費した状態だと消費した量によるけど今みたいにキツくなる」
なるほど、そういうことね。
「じゃあこのあとはもう使えないのか」
そう言ってから、しまったと思った。こいつはずっとユニークスキルの存在を隠してきたのだから、カルデラさんたちがいるここで使うことはそもそもないだろう。
「使えないな」
やっぱりか。
「ああ、別に他の奴らに見られるからってわけじゃない。単純に消耗がキツイってだけだ」
なるほど。
ん? ちょっと待て
「俺には言ってよかったのか」
今までの話を合わせるならば、俺に対してもユニークスキルのことを明かす道理はないはずだ。
「そこはほら、あれだよ。お前にならいいかな、みたいな」
「急に雑になったな」
「そういうこともあるさ」
そう言って、彼は立ち上がった。
「よし、大丈夫そうだな」
「もう休まなくていいのか」
十分も経ってない気がするんだが。
「やるべきことが残ってるからな。言ったことあるだろ、仕事は真面目にこなすタイプなんだよ、俺は」
「俺があのときいったセリフ、覚えてたのか」
第一印象で仕事を真面目にやるようには見えないって言ったときのことだ。
「実を言うと、少し傷ついた」
「そいつはすまんかったな」
えっと、こういうときってどうするんだ?
俺がどう反応したらいいか分からずにいると
「そんなことより、見ろよ」
おい、そんなことって言ったぞこいつ。
お前が言い出したことだろうが、と言いたいのをこらえつつ、彼が言った方向に目を向けると、カルデラさんたちがアイスロブスターとマンティコアを倒しきったのが目に入った。
「このまま残りも押し切るぞ」
そう言うと、剣を片手にプリーストの方へ向かっていく。
俺は慌てて後ろから追いかけた。
***
「いいんですか」
「はい、お願いします」
どうやら、結界を張っているプリーストと交渉を終わらせたらしい。早いな。
「おいてくなよ、冷たいな」
言ってから気づいた。
今までの俺なら、こういう態度をとられても冷たいとは感じなかったはずだ。
そんなメンタルはしていない。なら俺の感じ方が変わったのか?
いや違うな。別に本気でケルファーが一人で先に行ったことに冷たいと感じているわけじゃない。今のはただの軽口、内輪でお前ばかだなぁって言い合うのと同じだ。
ということは、俺はそれなりにケルファーに親しみを感じているってことか?
「おい、おーい。聞いてるのか?」
「あ、わりい」
どうやら、考えこんで話を聞き逃したらしい。
「で、なんだっけ?」
「まったく、しっかりしてくれよ。どう戦うかって話だろう?」
「ああ、それなら大体決まってる。さっきはお前が策を出したからな。今度は俺の番だ」
残っているのはキラービーとアーマードグリズリー。だが、両モンスターの特性を考えれば、とりうる最善策は自ずと定まる。
「キラービーをまずお前が引き付けてくれ。隙をついて俺が羽を切るから、そうしたらとどめを刺せばいい」
「アーマードグリズリーのほうは?」
「あっちは敵を認識してから動き出すまでにラグがあるからな。その間に距離を離す。しかもあいつは体力が一定以上あれば動きも遅いし攻撃の予備動作も大きい。あいつ一体だけ残してしまえば、ひとり動ける前衛がいれば取りあえずは大丈夫なのさ」
「なるほどな、わかったぜ」
作戦を共有し終わったところで、プリーストの人がこっちに近づいてきた。
「では、結界を空けますよ。それと、さっき街の衛兵が連絡をよこしてきたのですが、ロムサックさんのパーティーが戻って来たそうです。それと、騎士団もあと三十分もすれば街に到着するそうです」
なるほどね。援軍到着ってわけだ。
「こいつら倒せば、あとは雑魚だけってわけだな」
ケルファーが剣を抜いてそういった。心なしか、やる気が増してる気がする。
「なら、パパっとやっちまおう」
俺も剣を両方抜いて戦闘に備える。
結界に穴が開く。
ちょうど正面に、キラービーの姿があった。
「いくぜ」