完全無欠で最強無敵の状態
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手に得物をしっかり握り、俺たちはボスモンスターに向かって突っ込んでいく。
「おっと」
目の前から迫ってきたのは、冷気を帯びたデカいハサミ。バックステップでかわして、伸びた腕の関節部分を狙う。
「かったい」
無理だと判断した俺は、反動を使って空いているスペースに引く。
ちょうどケルファーもそこにいた。
「そう簡単にはいかないよな」
「ああ」
魔剣を構えなおしながらケルファーもうなずく。
今襲ってきたのはアイスロブスター。冷気をまき散らしてその巨大なハサミと体当たりで攻撃してくる。どうやらその冷気のせいで他のボスモンスターから距離を取られているらしく、穴を開けてくれた人たちはこれを見越して位置取りをしてくれたらしい。
「どうする?あいつらこっちにはまだ気づいてないみたいだぜ」
そいつはラッキーだな。
「そりゃ、一番倒しやすいやつから倒していくしかないだろ」
さすがにこれだけの数のボスモンスターの攻撃をさばき続けるのはきつい。一体でもいいから減らしたいところだ。
「なるほど、どいつだ?」
訊かれたので、少し考える。状況判断にかけられる時間は多くない。
だが、俺の脳みそはさえていたらしく、すぐに標的は決まった。
「あいつだな」
俺が顎でさしたのは、俺たちの視界の左にいる、クソデカい角を持つクレイジーディアと呼ばれる鹿型のモンスターだ。
「俺があいつを誘導して隙を作る。できればボスモンスターとぶつかってくれるときに倒してくれ。あいつ体力自体は多くないからな」
「わかった」
俺は鉄杭を投げてヘイトをこちらに向けさせ、走り出した。
他のボスモンスターは、アイスロブスターみたいに孤立しているのではなく、それなりの距離をとって結界を破ろうとしているもの、それに便乗しようとするもの、睨みあいをしているもの、と分けられる。クレイジーディアはアーマードグリズリーのそばにいて、便乗しようとしているようであった。
「鹿さんこちら、音のなるほうへ」
鉄杭に反応したクレイジーディアは俺の方を向いた。いまにも突っ込んできそうである。
アーマードグリズリーもこっちを向いたが、こちらは足が遅いので、無視していいだろう。
奴が突っ込んでくるので、全力で走って結界の中を連れまわす。
「やっぱ速ぇな」
角度をつけて切り返す。ちょうど奴からはアレが死角になるように位置取りする。
そして、奴は方向転換してもう一度突っ込んできた。
「ビンゴ」
軌道上から横に飛ぶ。ちょうど突進先にはマンティコアと睨みあっているギガストーンゴーレムがいる。偶然ってすごい、まあ俺が立ち回りを工夫しただけだが。
ギンッッッ、と音がして、クレイジーディアの角がギガストーンゴーレムの腹に突き刺さる。
それを見逃すほど、俺もケルファーも甘くない。
「オラァ」
まずはケルファーの魔力の斬撃がクレイジーディアの腹をバッサリと斬る。
それに続いて俺がゴーレムの角が刺さった部分に連撃を入れて傷を広げる。
「とどめは頼んだぜ」
「おうよ」
そこにケルファーがとどめの一閃。
二体のボスモンスターは、完全に沈黙した。
いきなり二体撃破で喜びたいところだが、そうはいかないんだよな。
「あいつら、こっちを向きやがった」
見れば、残りのボスモンスターのうち、アーマードグリズリー、マンティコア、サンダーワーム、キラービー、ヘラクレス・アーマードビートル、アイスロブスターがこっちを向いている。 結界を壊そうとしているのはジェネラルスネイクだけである。
あれ?
「7体しかいないんだが」
「ことここにいたって、7体も8体も変わんないだろ」
「さっきの二体倒した努力はどこに?」
まあ、少ない分には大歓迎だ。
どちらにしろ、ここを生き残らなくては話にならないしな。
「無理に倒すんじゃなくて、カルデラさんらが来るのを待ったほうがいいか」
「だな」
お互いにうなずきあう。
まず突っ込んで来るのはキラービー。動き自体はこちらの急所めがけて針をついてくるだけと単純なので普通にかわす。
つづいて攻撃してくるのはマンティコア。こいつは爪と尾に猛毒があるが、それ以外は普通だ。上段からの爪の一撃を難なくかわす。
「おっと」
かわした先に地中からサンダーワームがくらいついてきた。あぶねぇ。いまのおれじゃなかったらかわせてないぞ。
「きっついな」
「同感だ」
ケルファーのボヤキにうなずく。
厄介なのはサンダーワームだな、地中から襲ってくるというだけで、この状況では致命傷になりかねない。こいつだけでも倒しておきたいが。
「ミラー、俺に一つ策がある」
「成功できそうか」
「俺とお前次第だ」
それ何も言ってないのと一緒じゃん。
「ただ、うまくハマればサンダーワームとあと1体持っていけるかもしれん」
「なるほど、よし、やろう」
ここは賭けに出たほうがいいだろう。どっちみちこいつらをずっとさばくのは無理がある。
「オーケー、まずはサンダーワームの狙いを俺に移してほしい」
「なるほど、あいわかった」
俺はマンティコアに向かって突っ込んだ。
マンティコアはその口に生えた牙と、前腕の爪、尻尾を用いて攻撃してくる。また、毒属性を持った攻撃をたまに繰り出してくる。
左に飛んで爪をかわし、そこから奴の右に回って攻撃を仕掛ける。胴体を通りすぎるそぶりをここで見せれば。
予想通り、不安定な俺を狙ってサンダーワームが仕掛けてきた。
「ケルファー!!」
空中のわりかし高いところにいるため、サンダーワームが地表に出ている部分は多いはずだ。ここでケルファーが一撃入れて狙いをケルファーに移すのが俺の狙い。
そして、ケルファーはものの見事に一撃を入れた。
サンダーワームはそれがよほどこらえたのかキシャァァァと鳴き声をあげながら再び地中へと潜っていった。
「これでねらいは移ったけど、ほんとに大丈夫か」
「安心しろ、俺のとっておきを見せる」
そこまで答えたところで、アーマードグリズリーがこっちに向かってきた。
「来るぞ」
繰り出されるアーマードグリズリーの左右の爪によるラッシュ、さらに続いて突っ込んでくるキラービーの刺突攻撃、マンティコアの毒ブレス、一つ一つはそれなりにしのげる攻撃だが、複数が連続で攻撃してくるのはやはりこらえる。
なんとか最後のヘラクレス・アーマードビートルの突進をよけて敵の攻撃に一拍間が生まれたとき、少し離れた位置にいるケルファーにサンダーワームが襲い掛かるのが見えた。
「ケルファーッッッ」
どう考えてもよけきれないタイミングとケルファーの死角からの攻撃だ。下手をすれば死ぬだろう。しかも助けに行くには遠すぎる。
そう思ったとき、
「星芒纏装」
そう叫ぶ声が聞こえ、次の瞬間、ケルファーの体が光った。
「あれは」
なんだと思う暇もなく、次の瞬間、ケルファーに嚙みついていたはずのサンダーワームが大きく口を開けてのけぞっていた。
その開いた口めがけてケルファーが横なぎに剣をふるうと、そのままサンダーワームの体を伝って、地面まで降りる。
だが、攻撃は終わっていない。
地面に降りたその一瞬を狙っていたのか、ヘラクレス・アーマードビートルが再び突っ込んでくる。
「ケル」
ファー、の部分までは言えなかった。
なにせ、まるで大木にあたったかのようにひっくり返ったのだ。ヘラクレス・アーマードビートルのほうが。
露出した奴の弱点である腹部に、ケルファーは思いっきり中段からの一撃をお見舞いした。
ここに至って、俺はようやく我に返った。
見ている場合か。
ケルファーのもとへ走る。途中、サンダーワームが少し動いたので、脳天をついてとどめを刺しておく。
さっきまで光っていた彼の体は、元通りに戻っていた。
「策ってのは、これのことか」
策というよりかは、おそらく
「ああ、俺のユニークスキル、星芒纏装だ。一定時間いかなる攻撃も受け付けなくなる。俺の切り札だ」