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第一章 第五話

 駐車場で殺されていた男の名前は小林次郎。駐車場のあったビルの三階の会社に勤務している会社員だった。


 小林は独身でマンションの部屋を借りて一人暮らしをしていた。

 紘彬達は鍵を預かっていた小林の兄と共にマンションの部屋へ入った。


 玄関から入ってすぐのリビングは特に問題はなかったが書斎と(おぼ)しき場所はめちゃくちゃに荒らされていて(ひど)い有様だった。

 パソコンは原形を(とど)めないほどバラバラにされている。

 如月も緑色の基板を見てはじめてパソコンだと気付いたくらいだ。

 被害者同様、散々殴られて破壊されたらしい。


「どんな恨み買ってたんだよ」

 紘彬が一同の思いを代弁するように言った。

「弟とは疎遠だったもので……」

 小林の兄が小声で弁解するように言った。


 床には沢山のレコードがジャケットから引き出され床に積み上げられている。

 その隣には大量のカセットテープやCD、DVDなどが散らばっていた。

 CDもDVDも中身はそのままだがケースは開いている。

 データを記録したものが隠されていないか全て開いて確認したらしい。


「あーあ、勿体(もったい)ねぇなぁ」

 紘彬はレコードを()けてCDの山に近付くとCDケースに入っている歌詞カード(ライナーノーツ)を一つ一つ取り出して開き始めた。

「これだけの沢山のレコード、保存状態さえ良ければ一財産でしょうね」

 扉の向かいはベランダへ出られるサッシがあり、向かって左側の壁にはプラスチックの破片が散らばっている机が置いてある。

 そこにパソコンが置かれていたのだろう。

 壁には百八十センチくらいの高さのAVラックがあった。

 机の横のAVラックは空だった。

 下の二段はレコードを入れてあったようだ。


「カセットテープなんて今時珍しいな」

 紘彬が床にばら撒かれているカセットテープを見ながら言った。

 レコードを集めていたくらいだからアナログ音源が好きだったのかもしれない。

 机とは反対側の壁際のAVラックは各段の高さからしてCDかDVDが入っていたようだが空になっている。

 全部取り出して中身を調べたのだろう。

 あるいはCDの後ろに何か隠されていないか確認したのか。

「こんなところまで確かめてますね」

 如月はモニターの前に置かれているブルーレイプレイヤーを見ながら言った。

 ディスクトレイが飛び出しているがディスクは入ってない。


「音楽に恨みでもあるのかね。レコードをこんなにして」

 飯田が積み上げられたレコードを慎重にどかしていた。

「わざわざ全部外に出してるな」

 上田がレコードジャケットの中を一つ一つ覗きながら言った。

「犯人がまだ見付けてなければ()いんだが……」

「これだけ家捜(やさが)しして見付けてないとしたらかなり巧妙に隠した事になりますね」

 それは相当入念な捜査を行わないと警察にも発見出来ないと言う事である。


「次郎さんに親しい人はいましたか? 大事なものを隠した場所を教えそうな相手は? 恋人とか親友とか。もちろん、お兄さんでも」

 団藤が訊ねた。

「さぁ? 僕は特に……」

「次郎さんの得意なものはありましたか?」

「え?」

 小林の兄は如月の質問の意味が分からないと言う表情を浮かべた。


「昔の事件ですが、語呂合わせが得意だった被害者が強盗に口座の暗証番号を聞かれた時に犯人の手懸かりを語呂合わせにした番号を答えたことがあるんです」

 警察から犯人が入力した偽の番号を聞けば恋人がそれを読み解いてくれると考えたのだ。

 実際、恋人はその番号の意味に気付いて警察にそれを伝えた。

 それが犯人逮捕に繋がったのである。


「得意なものは……」

 兄は、かつてパソコンだったものの残骸を指した。

「何か手懸かりを隠せそうなところはあるか?」

 団藤が如月に訊ねた。

 如月もパソコンが好きでここに()る刑事の中では一番詳しい。

「そうですねぇ……」

 如月が考え込んだ。

「もしかしてレコードじゃないか?」

 佐久が名案だろうと言う表情で言った。

「レコードにデジタルデータを記録するって話は聞いた事ありませんけど……」

 どちらにしろ傷が付いたらデータは読み込めなくなるから()き出しの状態で放り出してあったものから取り出せるか疑問だ。

「今時のデータなんてクラウドだろ」

 上田がそう言うと紘彬が黙って大きい透明なゴミ袋を持ち上げて見せた。


 中に大量の細長い紙が入っている。

 シュレッダーに掛けられた紙なのは一目瞭然だ。


「それ、全部復元するんスか?」

 佐久がげんなりした表情になる。

 犯人が持ち去らなかったのも、本当に目当ての情報があるかどうかも分からない紙切れを繋ぎ合わせる気にはなれなかったからだろう。

「それは鑑識がやるだろ」

 紘彬が他人事(ひとごと)のように言った。

 確かに細切れにされた書類の復元は刑事の仕事ではない。

 如月は密かに鑑識に同情した。


 そういえば……。


 ふと気付いた如月は壁を調べ始めた。


「何かあったのか?」

「逆です」

「というと?」

「モデムやルーターが見当たらないんです。というか通信回線が」

 如月の言葉に全員が一斉に壁に目を走らせた。

 上田や佐久が棚の後ろなどを覗き込む。

「ポケットWi-Fiと言う手もありますけど……」

「とりあえず見落としがないかも含めて鑑識にもう一度調べてもらおう」

 団藤が言った。

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