表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/51

第一章 第三話

「待て!」

 警察官が男を追って紘一達の横を駆け抜けていった。


「大丈夫ですか!」

 もう一人の制服警官はそう言ってから紘一が誰なのか気付いたようだ。

「あ、確か桜井警部補の……」

「違う!」

 紘一は慌てて遮った。

「え?」

「人違い! 俺はただの通りすがり!」


 私闘(しとう)厳禁(げんきん)なのにこんな事したって祖父ちゃんにバレたら殺される!


「いえ、そういうわけには……。お名前を……」

 警察官の言葉に焦った紘一が思わず周囲を見回すと野球選手のポスターが目に入った。


 確かあの選手、二刀流って言ってたっけ……。


「宮本!」

 紘一が言った。

「は?」

 警察官が目を丸くする。

「俺の名前は宮本武蔵!」

「なんで武蔵?」

 佐藤が怪訝そうな顔で言った。

「俺、何もしてないから! 絶対うちには連絡しないで!」

 紘一は(たた)み掛けるようにそう言うと、

「佐藤、俺、帰るから! またな!」

 と言って踵を返した。

 俺の知り合いだってバレたらお前の名前聞かれるだろ、と佐藤が突っ込む前に紘一は駆け出していた。


(こう)ちゃん!」

「紘一!」

 駅から離れたところで聞き覚えのある声が聞こえた。


 振り返ると幼馴染みの青木(あおき)桃花(とうか)白山(しらやま)蒼治(そうじ)が息を切らせながら走ってくる。

 桃花は紘一より二学年下で中学三年生、蒼治は逆に紘一の姉の花耶(かや)と同い年で三学年上の大学二年である。


(そう)ちゃん、桃花ちゃん」

 紘一が返事をした時、雨が降り出した。

 桃花は鞄の中から折りたたみ傘を取り出して開くと紘一に差し掛けてくれた。

「紘ちゃん、傘持ってないの?」

「うん、このくらい別に平気だし。それより桃花ちゃんが濡れるよ」

 今は持っていないが桃花はヴァイオリンを習っているのでよくヴァイオリンケースを持ち歩いている。

 楽器を濡らすわけにはいかないのでどんな時でも傘を持ち歩いているそうだ。

 もちろん傘だけでは防げないからケースに掛けるためのビニールカバーも持っているそうだ。

「私も平気! 紘ちゃんには助けてもらったし!」

 やけにキラキラした目で紘一を見上げている。

 ちょっと考えてから桃花が着ているピンクの服を見てナイフの男が()そうとしていたのが桃花だったと気付いた。


「紘ちゃんは命の恩人だよ!」

「大袈裟だよ」

 紘一が苦笑した。

「でも、すごかったよ。あんな風にナイフの前に飛び出して桃花のこと助けるなんてさ」

 蒼治もやや興奮気味だった。

「あのさ、今日の事、俺だって事は内緒にしてくれる? 桃花ちゃんは、襲われた事は警察から連絡が来る前におじさん達に話した方がいいと思うけど俺の名前は出さないで欲しいんだ」

「いいけど、それ、喧嘩しちゃダメって言われてるから?」

 桃花が訊ねた。


 紘一は小さい頃から柔道と剣道を習っているのだが、祖父から私闘(しとう)を禁止されている。

 武道の試合以外で相手に手を出したら叱られるのだ。

 祖父はバブル期に道場を手放すまで道場主だったのでその辺は厳しいのである。

 桃花や蒼治は小さい頃からの友達なので紘一が試合以外では戦うのを禁止されている事を知っている。


「けど、あれは喧嘩じゃないでしょ。私のこと助けてくれたんだし」

「そうだけど……やっぱ知られたら怒られると思う……」

 私闘が禁止されてなくてもナイフの前に飛び出したなどと知ったら大人達は口を揃えて無謀な真似をするなと叱るだろう。

 一歩間違えば紘一が刺されていたかもしれないのだ。

 とはいえ、それを桃花に言うのは恩に着せるみたいで嫌だし、自分のせいで紘一を危険な目に()わせてしまったなどと負い目を感じさせたくないから言葉を(にご)した。


「お父さん達が助けてくれた人にお礼したいって言うかもよ」

「大人に知られたら紘一は叱られるんだから教えない方がお礼になるだろ」

 蒼治は紘一の考えを察してくれたらしい。

「通りすがりの人だって言えばいいよ」

 知ってる人間が通り掛かる事は珍しくないから嘘にはならないはずだ。

 少々苦しいとは思うが。

 桃花は、蒼治と紘一の言葉に「分かった」という表情で頷いた。


「それより桃花ちゃん、友達と一緒じゃなかった? 友達は?」

「帰った。あの二人は同じ方向だけど私はこっちでしょ。一人じゃ怖かったから……」

 桃花の言葉に紘一は納得した。


 考えてみたら桃花はナイフを持った男に襲われたのだ。

 人通りの多い早稲田通りと明治通りを通らず、こちらの道から帰るのなら広い公園を通り抜けることになるから逃げ出す前に桃花に気付いていれば紘一の方から送ると申し出ていたところだ。

 早稲田通りを通ると遠回りだというのもあるだろうが人通りが多ければ襲われないというわけではない。

 現に桃花が襲われたのは大勢の人で(にぎ)わっていた高田馬場駅前だ。

 それを考えれば人通りが少なくても助けてくれた紘一と一緒の方が安心だと考えるのは当然だろう。


「実は俺も。紘一と一緒なら心強いかなって」

「そうだね。大勢でいれば襲われ(づら)いし、どうせ近所だから」

 紘一はそう答えて桃花、蒼治と三人で歩き出した。


 桃花は、はしゃぎながら紘一に色々話し掛けてくる。

 久し振りだからだろうか。

 紘一も一年ほど前まで中学生だったのに、中学三年の桃花がずいぶん幼く感じる。

 子供っぽい感じが可愛くて微笑ましい。


 妹がいたらこんな感じなのかな……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ