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第五章 第四話

 紘彬と如月は部屋で『Dr.マーク・スローン』を観ていた。

 医師のマーク・スローンと、その息子の刑事が事件を解決するシリーズ物のミステリドラマである。


 医者が主人公のドラマが好きでも医者にはならなかったんだ……。


 医師国家試験に合格しているのに文句を言いながらも刑事を続けている理由が謎である。

 病院で二年の臨床研修を()れば正式な医師になれるらしいのだが。


「あーーー!」

 如月がいきなり大声を上げた。

 マーク・スローンがCDケースの歌詞カードの間から、五インチのフロッピーディスクを取り出したところだった。

「小林次郎の件か? あそこ、CDはほとんど無かっただろ。残ってたCDケースの歌詞カードは全部確認したぜ。俺、これ()るのは初めてじゃないんだし」

「分かってます。けど、確かめたいことがあるんです。今から鑑識に行ってきます!」

「なら一緒に行くよ」

「無駄足になるかもしれませんよ」

「へーきへーき。残って祖父ちゃんに説教されるよりマシだし」

 紘彬の言葉に如月は苦笑した。


 鑑識に着くと、如月は証拠品として押収された大量のレコードが(おさ)められている箱を持ちだした。

 レコードを取り出して一つ一つ台の上に()せていく。

 やがて一枚の証拠品袋を取り上げた。


「これです! なんか見覚えがあるような気がしてたんです!」

 如月がそう言って証拠品袋を机の上に置いた。

「レコードか? けど穴がないな」

 茶色っぽい円盤だが紘彬が言うように中央に穴が開いていない。


「レコードじゃありません。これがEPレコードで……」

 如月が直径十七センチ程のレコードが入っている証拠品袋を持ち上げて見せる。

「こっちがLPレコード」

 直径三十センチのレコードの入った証拠品袋を取り上げる。

「大きさも、ほら」

 EPレコードとLPレコードを、最初に置いた証拠品袋の両隣に並べて置いた。

 最初の物は二つのレコードの中間くらいの大きさだった。

「ホントだ。どっちとも違う」

 よく見ると色などもレコードとは微妙に違う。


「なんだこれ」

「八インチのフロッピーディスクですよ」

「フロッピー? これが?」

 CDよりも大きなEPレコードより更に大きい。

「鑑識は気付かなかったのか?」

「日本で普及したフロッピーディスクは五インチからですし、傷が付いたらデータが再生出来なくなるので普通はケースから出さないんですよ。中身を見た事ある人はほとんどいないんだと思います」

「普及してなかったのに良く手に入ったな」

「一般家庭には普及してなくても企業や研究室は使ってたましたし、個人でも使ってる人がいなかったわけではありませんから販売はされてたらしいですよ」

 如月の言葉に紘彬が感心したような表情を浮かべた。

 ハードディスク(HDD)が発売される前の記録媒体はフロッピーディスクくらいだったのだ。


「レコードをばら撒いたのも、パソコンを壊したのも被害者本人だと思います。きっと八インチフロッピーディスクに記録されてるって事を隠すためにやったんです」

 ディスクを読み込むドライブがあったら使っていた記録媒体が分かってしまう。

「なるほどね。けど、ドライブが壊れてるならどうやってフロッピーの中を見るんだ?」

「鑑識に八インチのフロッピーディスクドライブがないなら、破壊されたドライブを直すか秋葉原(アキバ)辺りで買ってくるか」

「売ってるのか?」

「さぁ? でも、探せばあるんじゃないんですか? 今でも持ってる人はいますし。小林も持ってたくらいですから。それよりレコードに偽装するために保護ケースから出しちゃってますからデータが無事かどうか……」

 ディスク面に傷が付くとデータが読み込めなくなるから保護ケースに入れているのだ。

 如月は鑑識に念のためデータを調べてくれるよう依頼した。


「桜井さん、おはようございます」

 如月は挨拶をしながら床に落ちていた白黒写真を拾い上げた。

「この写真、もしかして桜井さんの(ひい)お祖父様の日記から落ちたのでは」

 刑事達が出勤してくる前に清掃をしたはずだから落ちたのはそれ以後だろう。

 だとすれば紘彬の曾祖父の日記から落ちた可能性が高い。

「お、サンキュ」

 紘彬はそう言って受け取ると写真をじっと見詰めた。


「どうかしましたか?」

「いや……なんでもない……」

 紘彬はそう言うと曾祖父の日記に写真を挟みながら、

「なぁ、弁護士事務所からの手紙って私信だと思うか?」

 と訊ねた。

「弁護士事務所から手紙が来たんですか?」

「曾祖父ちゃん宛にな」

「今頃ですか? 失礼ですけど曾お祖父様は生きてらしたとしても百歳くらいですよね?」

「来たのは七十年代だよ。八十年代か? 消印が(かす)れてて正確な年が分からないけど」

「それだけ昔で、しかも亡くなられた方宛なら問題ないのでは。桜井さんはご家族ですし」

 紘彬はそれもそうだという表情を浮かべた。

 どちらにしろ既に日記を読んでいるのだ。

 今更手紙を読んだところでプライバシー侵害なのは同じだ。

 紘彬は封を開けて中身を取り出した。

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