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第四章 第一話

第四章 宿雨(しゅくう)


       一


「親ならともかく、叔母さんなのに復讐しようと思った理由は? 詐欺ってお前を(よそお)ったのか?」

「海外の宝くじに当たったって言われたらしい」

 と答えてから、

「金に目が(くら)んだんじゃない!」

 急いでそう付け加えた。


 亡くなった後に覚え書きのようなノートを見付けた。

 それによると、外国の宝くじに当選したが海外からの送金には手数料が必要だと言われたらしい。

 どれだけ莫大な当選金だろうとその為に多額の手数料を支払ったら受け取れるのは大した金額ではなくなるから普段なら断っていた。

 だが、その少し前、息子に起業したいからと資金の援助を頼まれていた。

 起業しようとしていたというのは斉藤も息子本人の口から聞いているから詐欺師に言われたのではない。

 息子の言った金額は叔母の貯金では足りなかった。

 叔母はもう年だ。

 貯金を全て渡した後で介護が必要になったりした時、金が無ければ息子を始めとした周囲の人達に迷惑が掛かる。

 そんな時に電話が来たのだ。

 受け取れる金額が当選金の半分以下だったとしても少しはプラスになるなら息子の起業を手伝ってやれる、そう思って言われるままに金を払ってしまった。

 度重なる要求に貯金が底を()き、受け取りを辞退したいから今まで払った金を返してほしいというと、既に支払い済みだから返却は出来ない、諦めるか受け取るかのどちらかだと言われて後に引けなくなった。

 親戚に借金してもまだ金が振り込まれず、これ以上は払えないから今までに振り込んだ手数料分で受け取れる分だけでも貰えないかと頼むと交渉してみると言われたが、それ以来いつまで待っても連絡が来ない。

 叔母の方から掛けてみたが電話が通じなくなっている。

 そこで警察に相談して詐欺だと発覚した。


「お前はどこに関係してるんだ? 何か恩でもあったの?」

「恩って言うか……」

 叔母は子供好きで甥姪達をとても可愛がってくれた。

 だから斉藤も慕っていたし、騙される方が悪いという考え方も嫌いだった。

 斉藤は昔イジメに()った事がある。

『騙される方が悪い』という言葉を聞く度に、教師にイジメを訴えたら『イジメられる方に原因がある』と言われた時の事を思い出す。

 被害者に非があるという考えは到底受け入れられない。


 そもそも叔母は息子に援助してやりたいという思い遣りに付け込まれたのだ。

 悪いことは何もしていない。

 それで叔母の味方をしていたのだ。

 だが、まさか自殺するほど思い詰めているとは思わず死を防げなかった事がショックだったし、被害者を追い詰める人達の理不尽さにも腹が立った。

 叔母が立ち直れるまで同居していれば良かったと後悔したがもう遅い。

 詐欺グループも、叔母を責めた息子や親戚達も許せなかった。

 息子は遺体の引き取りさえ拒んだから斉藤が代わりに葬式を出したのだ。

 息子を含め身内の大半は葬式にも来なかったから出席者のほとんどいない寂しい葬儀だった。

 叔母に親切にしてもらった人は大勢いたのに。

 そう思うとやりきれなかった。


「警察でも突き止められなかったのにどうやって見付けたの? 小林は間違いなく詐欺グループの指示役なの?」

 如月が訊ねた。

 斉藤も始めはどうすれば()いか分からず途方に暮れていた。

 だから最初は叔母を追い詰めた息子や親戚達に復讐してやろうと思ったが叔母は親戚達に借金をしていた。

 多額の金を借りた上に、騙し取られたから返せる()てがないとなれば怒るのも無理はない。

 叔母の死で下りた保険金でも全額は返済出来なかったのだから尚更だ。

 やり場のない怒りを(かか)えていた時、特殊詐欺の特集記事を読んだ。

 そこに特殊詐欺は実行犯をSNSで勧誘していると書いてあった。

 SNSに金がないことを匂わせる書き込みをすると闇サイトから闇バイトに誘われると。

 それで試しに書き込んだら本当に勧誘のメッセージが来た。


「闇バイトって、叔母さんがされたのと同じ事したの?」

「すぐに金を取り始めるわけじゃないから……」

 斉藤の叔母も最初の電話で当選したと言われたのではない。

「アポ電係になって叔母の電話番号見せて『ここ、年寄りの一人暮らしなのに誰も出ない』って報告した」

 叔母の事を知らないなら騙した詐欺グループではないと判断して別の募集に乗り換えた。

 そうやってバイトを梯子(はしご)しているうちに「そこはもう金を(しぼ)り取った後だ」と言う詐欺グループを見付けた。

 本当にもう取れないのかと言って話を聞き出して間違いないと確信した。

 それで斉藤はもっと稼ぎたいといってリクルーターに指示役――小林を紹介してもらい、会った後すぐに(あと)()けて人気(ひとけ)のない駐車場で襲撃した。


「紹介されたその日に襲ったのか? 帰宅前に? それなら住んでたところは……」

「知らない」

 それが本当だとしたら部屋を荒らしたのは斉藤ではない。

 確認の必要はあるが、斉藤の言う通り小林がバイトへの指示役だったのなら家捜しは闇サイトの黒幕が手下にやらせたのかもしれない。

 小林が死んだという報道を見て急いで都合の悪いデータを残してないか探させたか、もしくは警察の手に情報が渡らなければそれで()いと考えてパソコンを破壊させ、書類の類をシュレッダーに掛けさせた可能性も有り得る。

 もしそうなら小林の持っていたデータに闇サイトに関するものがあるかもしれない。


 昼休み、紘彬が昼食を食べ終え、曾祖父の日記を読んでいると上田達の話が聞こえてきた。


「普通の家で政略結婚なんて有り得ないよな」

 今話題のドラマの事を言っているようだ。

 舞台は昭和初期らしい。

「いくらドラマだからってリアリティがないよな」

 飯田が答えた。

「終戦まではそんなに珍しくなかったようだぞ」

 紘彬が日記を見ながら言った。

「え?」

 上田達が振り返った。


「曾祖父ちゃんの戦友、出征が決まった時、親が決めた相手と結婚させられたって。子供作ってから行かないと戦死したとき跡継ぎがいなくなるからって」

「マジッスか?」

 佐久が驚いたように言った。

「戦場にいる時、その戦友に子供が生まれたって知らせが来たそうだ」

「それだけじゃ政略結婚かどうかは……」

「元々結婚したかったのは別の女性だったのに親に逆らえなかったって書いて……」

 そこで紘彬が言葉を切った。


「警部補?」

 佐久が声を掛けると、紘彬は日記を閉じた。

「昭和でも終戦まではそう言う話はザラだったって事だ」

 紘彬はそう答えて話を打ち切り、

「如月、そろそろ行こうぜ」

 と言って立ち上がった。

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