パテーの戦い
1429年6月。
オルレアン解放後も、ジャンヌ率いるフランス軍は連戦連勝。
ジャルジョー、モン=シュル=ロワール、ボージャンシーの諸都市を制圧してロワール川の渡河点を抑えた。
しかしもちろん、イングランド軍とてやられっぱなしで黙ってはいない。
パテーの地でフランス軍を待ち伏せ、迎え撃とうとした。
この時、フランス軍1500人に対してイングランド軍は5000人。
しかもイングランド軍は野戦を得意としている。
フランス軍が圧倒的に不利な状況だ。
やはり、ジャンヌを絞め落として担いで逃げるか。
ジャンヌを横目にオレは内心そう覚悟していたが、戦端は意外な形で開かれた。
――ジャンヌ効果とでも言おうか。
ジャンヌに触れた者は例外なく、彼女の宗教的な情熱が乗り移ったかのような狂戦士と化す。
それゆえにジャンヌ崇拝者であった前衛騎兵隊の指揮官が、突撃前の陣形整列と名乗りも行わずにいきなり突撃を開始した。
ちなみにその指揮官は癇癪持ちの傭兵隊長で、憤怒とあだ名されていた。
そんな指揮官に負けじと、雄叫びを上げて続く兵たち。
憤怒に率いられた狂戦士集団の突撃である。
この非常識な突撃にイングランド軍は恐怖し、自慢の長弓部隊も機能せず大混乱に陥った。
間髪入れずジャンヌ率いる本隊も突撃を敢行。
辺りは阿鼻叫喚の巷と化す。
持ち堪えられるわけもなく、イングランド軍は壊走した。
パテーの戦いの勝利によって、フランス軍がランスへ進軍するのは容易になった。
ここまで来れば、ジャンヌが神から命じられたという使命が果たされるのも時間の問題である。
それでジャンヌが満足してくれればいいのだが――。
無理か。じゃじゃ馬だし。
オレはため息をつく。
はっきり言って、現在のジャンヌの立場は危うい。
救国の聖女を妬む者もいるだろうし、王族や貴族がジャンヌの狂信的な熱狂や人望を危険視してもおかしくない。
あくまでも王太子の後ろ盾があればこそ、ジャンヌは兵を指揮できているのだ。
それがなくなれば、ジャンヌは命知らずな馬鹿娘でしかなくなる。
そのことはジャンヌにも言ってあるのだが、
「神に守られているから大丈夫」
と言って笑っただけだった。
ジャンヌは自身の身の安全について、神任せでかなり無頓着である。
だからいざとなったら、オレが何とかするしかない。
その時が来たら一瞬でジャンヌを締め落とせるよう、何度も絞め技を練習しておこう。
ニギニギと左手の感触を確かめる。
パテーの戦いで指を二本失ってしまった。
勝ち戦でも死傷者は出る。もちろん負け戦ならなおさら。
そんな状況だから、オレだっていつ死ぬか分からない。
オレの命が燃え尽きてしまう前に、何としてもジャンヌを救わなければならなかった。
主人公・ネルが人間的に成長してきた。