侍、本領を発揮する
腹が満たされ元気が湧いてきた拙者達は、足早に町へと向かうことにした。
リリデル殿いわく、暗くなってから出没する獣は昼間に遭遇それとは比べ物にならない程強くなるらしい。理屈はわからないが、そういうもの! という常識のようで、夜に出歩くのは余程の時だけなのだとか。
「本当ならもう少し『三種の神器』を見せて欲しかったのら。町についたらもう一回見せて欲しいのらっ!」
歩きながらリリデル殿は頬を膨らませ拙者に言った。わかった、と返事をしたにもかかわらず「くれぐれも貴重な物らから、扱いには注意するのら!」って、ずっと拙者の腰袋を見るのは勘弁願いたい。
とりあえず、町についたらまずは宿の確保であるな。それから、町人に話を聞いて、飯屋で酒を交わしながらの情報収集も悪くない。
……が、一つ気がかりがある。
「あー、リリデル殿。少し言いにくいのでござるが、どこかに金貸屋はおらぬか」
「ら? 金貸屋?」
「そうでござる。……その、拙者、日本ではその日暮らしが多かった故、手持ちがないのでござる。まぁ、簡単に言えば拙者、無一文なのだ」
日本では野党斬りやら悪党を御上に突き出して給金を頂いていたのだが。そもそも、この国のお金も持っていないしな。
「金貸屋? が何なのはわからないけど、多分そんな人達はいないのら。そういえば町についてもお金がなければ何も出来ないら! 僕もそんなにお金無いし……どうしようなのら」
「むぅ、この国で手っ取り早く金を稼ぐにはどうしたら良いでござる? あっ、もちろん悪行はなしでな」
それなら、とリリデル殿が教えてくれたのは魔物狩りだった。この異世界とやらでは獣ではなく魔物というものがいるらしい。そいつらを倒せば、強さに応じて『宝珠』と呼ばれる光る石が出る。その石を売れば相応の金額が手に入る、ということだった。
「でも、問題は魔物を倒せるほどの強さがないとダメなのら。僕はサポート専門で攻撃は出来ないし……その、マルさんもそんなに強くは見え……」
不自然にリリデル殿の言葉が途切れた。気づくとリリデル殿は歩みを止め、後ろを振り返っている。
不思議に思い声をかけようとした時、何やらとてつもない殺気が拙者の背後で蠢いた。
「ま、マルさんっ! うっうぅ、後ろらーっ!!」
刹那、刀を握り鞘から抜き放つ。
腕を振り上げるのと同時に二太刀、振り向き様に滑らせるような回転切りをお見舞いする。
……ボトッ。
その音と同時に蠢いていた殺気が消えていった。
刀の血を払い、チンっという音と共に拙者の魂、もとい刀を鞘へと納める。
何とも凄まじい殺気であったが、相手が悪かったでござるな。
見ると、そこには熊のようにでかい獣が横たわっていた。