侍、三種の神器を使う
「り、リリデル殿っ! すごいものが入っていたでござる! これがあれば、拙者達の腹を満たせるでござるよっ――」
興奮のあまり叫びながらリリデル殿の方へと向き直る。
しかし、リリデル殿からの返事はない。
変わりに口をポカンと開け、浮かび上がる文字を未だに見つめていた。
「あー……リリデル殿? 何か、気になることでもあったでござるか?」
今度は顔を覗き込むように声をかける。が、それでも返事はない。
「そ、そんな……オリ、ハルコン。それに、幻のれ、錬金壺に聖なる剣……」
何をぶつぶつと言っているのだ?
小声で聞き取れぬが、腹が減りすぎて意識が遠退いているのかもしれん。
これはいかんぞっ! 早速米を湧き出し、この壺で米を炊いてやらねば。
えーっと、まずは米の量を唱えるでござったな。
「こ、こ、米を三合頼むでござる!」
両手で鏡を持ち、一つ咳払いをして声を出す。緊張のせいか少し声が上ずったのはご愛敬。
すると、じゃらじゃらと盛大な音を立てみるみるうちに鏡の上には米の山が出来上がった。
「本当に……米が! 米が涌き出たでござる!!」
おっと、いかんいかん!
驚きのあまり食い入るように鏡を見つめてしまった。急ぎ、米を炊かねば! リリデル殿が腹を空かせて待っておる。
次は、この壺に米をいれて……と。むっ、その前に味噌を一つ取り出しておくか!
壺へと手を突っ込み、指先に触れた玉を取り出す。この見事な粒入りの味噌、麹たっぷりであるな!
あとは火を起こし、鍋……じゃない。この壺をぶら下げられるように木を組んだら。完成でござる!
「飯が炊けるまで暫し待つべしっ!」
「な、な、なっ! 何をしてるのらぁぁあー! 錬金壺に……火っ!! 火を当てるなんてぇぇえっ!!」
今まで虚ろな瞳でブツブツと言っていたリリデル殿が、目を見開き拙者の着物の裾を盛大に引っ張った。
「おおっぅ!? 突然どうしたというのだっ! 米を炊くのに鍋を火にかけるのは至極当然っ!!そんなに騒がずとも、あと少しでお腹いっぱい食べれるでござる」
「ちっ、違うのらーっ! マルさんっ、これは鍋じゃないのら!! 錬金壺なのら!! とてもとぉーっても貴重なものなのら!」
泣き叫びながら素手で鍋を掴もうとしたものだから、慌てて止めたのでござる。
それでも「壺がぁ~、錬金壺~」と少々うるさかったが、しばらくして米の炊ける匂いがするなり急に静かになったのだ。
「どれ、そろそろ頃合いか」
鍋の蓋をとり中を覗き見る。
ピカピカふっくらの米がびっしりと炊き上がっていた。香りも申し分なし! どれ、ちと硬さの確認をせねばな。
「あふっ、あ、あちちふっ!」
一口頬張るだけで米の甘さが口中に広がった。あまりの旨さにもう一口食べそうになったが、リリデル殿の視線がひどく鋭く感じた故、諦めたのてある。
あとは、これを握り飯に。二つはさっき取り出した味噌を塗りたくり、もう二つは醤油を垂らして。串の変わりに枝に刺して焼けば……
「味噌と醤油の焼きお握りの完成でござる! ささっリリデル殿っ! 熱いうちに食べるでござるぞ!」
お握りが刺さった串を二本、リリデル殿の目の前に差し出す。
初めは匂いを嗅いだり四方から見てみたり、食べようとしなかったリリデル殿。しかし、拙者が勢いよく頬張るとやっとこさ、かぷっとお握りにかぶりついた。
「う、ううううまぁぁぁあーい!! なんなのらこれっ! かじったらほろっと崩れる粒々、でも味が染み込んでで、塩気も丁度良くて!」
話しながらも食べる手は止まらず、口の回りに米粒をたっぷり着けながら味噌焼きを完食していた。勢いそのままに、醤油焼きへと手を伸ばし頬張るリリデル殿の姿がまたなんとも言えぬ可愛さ。
「旨かろう! これは拙者の故郷の食べ方でな。焼きお握りというのだ」
思わずにっこりしながら食べる姿を見つめてしまった。
それにしても、三種の神器……。なんと有り難いことか。色々つけておくと言っていたが、調理道具としても使えるとは流石が神。今度握り飯でもお供えしてみようと心に誓い、拙者も焼きお握りをペロッと平らげた。