侍と三種の神器
あれから獣道を歩くこと数時間。森が薄れ遠目には灯りのようなものが見えてきていた。
「ふぅー、なんとか日が暮れる前には森を抜けられそうなのら!」
「そうかっ! それは良かったのでござるー! しかし、リリデル殿がこの森は危険だなどと言うから何が出てくるかと思えば、なんて事はない。獣一匹出なかったでござるな!」
実際、何匹かは木の裏とか茂みの中から気配を感じたが。拙者が殺気を向ければ、どれも逃げるような小物ばかり。結果、刀を抜くには至らずにここまで来ることが出来た。
「おかしいのら。普通なら高ランクの魔物が出るような森なのら……。で、でもまだ森を抜けた訳じゃないら! 気を抜いちゃダメなのらっ!」
そう言って手をギュッと握った姿もまた可愛らしき296歳。
いやしかし、もう夕暮れということはそろそろ夕餉の時間。拙者、朝餉の桜団子から何も食っていないのである。そろそろ、アイツが喚き出すかもしれん……。
ぐぎゅるるるるるるっ!
「なっ!? な、何の音なのらっ!?」
や、やはり。
拙者の腹の虫が大声で鳴き始めた。
「いや、すまぬ。……そのぉ、拙者の腹の音でござる。いかんせん、朝から団子しか食うておらん故。拙者、空腹なのでござるよ」
ぐ、ぐるるる~。
「あ、あは! そういえば僕もなにも食べてなかったのら。お腹、鳴っちゃったのら」
リリデル殿はお腹を恥ずかしそうに押さえ、チラッとこちらへ視線を送る。目が合うなり、お互い笑ってしまったのだ。
まぁ、空腹での獣道は中々に厳しいでござるからな。ここはひとつ、休憩でもしたいところ。何か飴でも何でも、食べるものをもっていなかったか。
着物の懐から袂、腰袋、何か入りそうな所全部に手を突っ込み、食べ物を探した。
カチャンっ!と手に当たったのは、残念ながら食べ物の感触ではない。しかし、身に覚えのないそれは腰袋の中から出てきたのだ。
「こ、これは……なんぞ?」
目の前に袋の中身を広げる。
一つは鏡のように反射する皿、もう一つは小さな鍋のような壺。そして最後は小刀のような……
「これは、――包丁?」
「マルさんどうしたのら?」
拙者の背中越しにリリデル殿が覗き見る。
「あ、いや……何か食べ物でも持ってなかったかと探していたのだが。腰袋から身に覚えのない物が出てきてな。いやはや、これらは何でござろう」
見た感じ、ただのお皿に鍋、包丁と調理道具一式のようだ。拙者……いつの間にこんなものを手に入れたのだ。
「わからないのら? じゃあ、僕が鑑定してみるのら!」
鼻歌混じりに両手をかざし「鑑定魔法は~便利なのら~」なんて今にも躍り出しそうな勢いである。何故そんなにも嬉しそうなのかわからないが、見ていた拙者も思わず微笑んでしまった。
「盗視、具現化っ!」
リリデル殿が言うや否やまたしてもブォンっと聞きなれない音が響き、目の前にいくつもの文字が浮かび上がった。
まずは皿のようなものから見ていくか。
【名前】 米呼びの鏡(三種の神器)
【材質】 オリハルコン
【性能】 両手で持ち、必要な量を唱えれば米が湧き出る皿のような鏡。盾として装備すればどんな魔法をも跳ね返す(米の量は無尽蔵)
な、なんと! 米が湧き出るとな!
これさえあれば、空腹で困ることはないぞ! おりはるこん? と言うのがよく解らぬが、米が涌き出る神聖な鏡を盾にするわけには行かぬ。
さて、次は鍋のようなものか。
【名前】 味噌玉の壺
【材質】 魔鉄
【性能】 中に手を入れれば、味噌を丸く固めたものが取り出せる不思議な壺。鍋としても使用でき、またの名を錬金壺ともいう(味噌の量は無尽蔵)
おぉっ!? 今度は味噌まで!
米に味噌……、む? この組み合わせ、なんだか身に覚えがあるでござる。
そう、何やら三種の神器として欲しいものは何かと聞かれ、拙者が答えたものだ!
と、言うことは……最後のこの包丁は……
【名前】 さしす『せ』の剣
【材質】 聖なる金属
【性能】 調味料の『せ』、醤油差しが柄についた聖なる剣。またの名を聖剣ともいう(醤油の量は無尽蔵)
やはり醤油であったかっ!!
あの胡散臭い召喚神! 三種の神器を授けると言っておったが、本当にくれるとは思わなかったぞ。これは胡散臭いなどとはもう言えんな。逆に感謝とお礼参りをせねばならん!