侍決意する
異世界……。意味の想像もつかぬ。何かが異なる、ということなのか?
「そっか! マルさんにはわからないのら。異世界っていうのは……全く異なる次元と物質の混じりあった時空の歪みによって生み――」
「まま、待つのだっ! 拙者、強者ではござるが……その、ちと頭が弱いのでござる。もうすこーし、拙者にも解る言葉で話して欲しいのだ」
なんだか自分で言っていてものすごーく恥ずかしいのでござる。……しかし、聞くのは一時の恥だが知らぬは一生の恥とも言うからな。
「うーん……、簡単に言うとマルさんが生まれた国とは場所も時代も全然違う場所なのら。言いにくいけど、もう元の場所には帰れないと思うら」
「……、帰れない?何を戯けたことを!」
「召喚っていう魔法は、残念ながらそういうものなのら。……あっ、で、でも! このハニーグス国もきっと良いところなのら! 僕の生まれたフェーエル国にもいつか招待するのら。だから、げ、元気……だすのらぁ」
地面に膝をつき呆然としていた拙者を見かねてか、リリデル殿は慌てた様子で話しを追加してくれた。
まさか、召喚とはそのようなものだったとは。国に帰れぬとは思いもしないのである。あの変な召喚神とやらが、誰かが呼んでいる、等とほざくからいけないのだ! つい口車にのせられ、気づけばこの事態。
「ぐっぅ――、こんな事ならあの桜団子。しっかり平らげておけば良かった」
「何か言ったら?」
「――あっいや! 何でもないでござる。しかし、葉忍愚図国とはどういうところでござるか? リリデル殿の故郷は近いのか?」
リリデル殿に助け起こされ、とぼとぼと歩きながら色々と質問した。話して気を紛らわせねば、またしても膝から崩れ落ちそうなのである。
「これを見ながら説明するのら!」
そう言ってリリデル殿は片手をかざし、「地図、具現化!」と叫ぶ。拙者達の目の前に大きな地図、しかし拙者が知っているそれとはかなり様子が違う地図が浮かび上がった。
「さっき、僕たちがいたのは人族の国『王都ハニーグス国』なのら。そしてその国を囲うように、北から竜族の国『ミリリアン』、東西には小さな島国『チャラン』、南には獣族の国『ガルガル』があるのら。僕の故郷はチャラン国の近くにあるけど、詳しい場所は秘密なのら!」
「か、かははは。日本もなければ聞いたことのない国ばかり……しかし、故郷を秘密とはこれまた寂しいことを言うではないか」
「ご、ごめんなさいなのら。僕達、妖精族はひ弱で高魔力の種族だから、国がバレたらすぐに侵略されちゃうのら。奴隷として囚われることも少なくないのら」
おおぅ。
なんと、拙者としたことが野暮なことを聞いてしもうた。人にはそれ相応の過去があるもの。
「嫌な話をさせたでござる。許して欲しい」
拙者の言葉を聞いたリリデル殿は「全然平気なのら!」って笑顔で首を横にふってくれた。
しかし、奴隷などとは穏やかではない。どうやら本当に『異世界』とやらに来てしまったようでござる。
さて、――これからどうしたら良いものか。住むところもなければ金もなし。右も左も解らぬ状況であるが……。
まぁ、なんとかなるであろう!
もともと日本でも各地を放浪していた身。こうなれば、この『異世界』とやらも旅してみようではないか! うむっ!
「そういえば、拙者達は今何処に向かっておるのだ?」
「恐らく僕達が追放されたのは、ガルガル領土のデラールの森。今は人族の王様が領土拡大を目論んでて、隣国とはピリピリムードなのら。ガルガル国にも迂闊に近寄れないのら。国との間には何個か町と村があるけど、ここから一番近い村はロンマリネかデラールの村だと思うからそこに向かってるのら!」
なんと、隣国との戦争間近とは。
拙者、とことん運がない。とりあえず、これから向かう町で宿でも探し、色々と話を聞いてみるしかないでござる。
「リリデル殿、厄介をかけるが町についたら宿場か酒処を教えていただきたい。」
「? それは全然大丈夫なのら。でも何でなのら?」
「拙者、この世界でも旅をしてみようと思ってな! 話を聞くなら宿場か酒処と相場は決まっておる!」
言い終わるや否や、リリデル殿は目を大きく開き何かを期待しているような眼差しをこちらに向けてきていた。
「マルさん! 旅するのら? いろんな国に行くのら?……ぼ、僕も一緒に行きたいのらっ! 連れてってなのらー!」
予想外の言葉に思わず固まってしまう。
旅とは危険を伴うもの。ましてやリリデル殿は囚われやすい御身であるのに……。本当にいいのか?
「拙者としては、この世界を知っているリリデル殿が一緒なら心強いのだが。……しかし、旅は危険、本当に――」
「やったなのらぁー!! マルさん、これからもよろしくなのら!」
拙者の言葉を最後まで聞かずに、はしゃぎ出すリリデル殿。可愛くてつい顔が緩んでしまう。
まぁ、何かあれば拙者がリリデル殿を守ればいいだけの事。
「こちらこそ、よろしく頼むでござる! リリデル殿」