侍とお揃い
拙者の前には小さな小さな皮袋が3つ並んでいた。手のひらほどの大きさに薄黄色の皮、袋の口には閉じ口としての金属のようなものがついている。これは、まるで……
「まんま、がま口財布でござるな」
確かがまとっとなる鞄を作っていたのではなかったか? それが何故に財布? 失敗か?
「何か言ったらっ? マルさんも見るのら! ついに夢限鞄が出来たのらっ!! デスシープが想像以上に大きくて、3つも作れたのらっ」
ご機嫌なリリデル殿は3つのがま口財布のうち、一つをおじじ殿に、もう一つは自分のポッケに、そして最後の一つは拙者の前に差し出した。
「――むっ? 何でござる?」
「これはマルさんの分なのらっ!」
「そうじゃのぉ。デスシープを倒したのはお主。ワシらだけ貰うのも気が引けるからのぉ」
むむっ、い、良いのか? 使い方も良くわからぬ拙者が貰っても……いいのかっ?
「マルさんとドルルさんとお揃いなのらぁ~」
くぅっっー! そんな嬉しそうに鼻歌をっ! リリデル殿と、お揃い! 拙者、有り難~く頂戴するぞっ!!
「むむっかたじけないでござるっ!! ……お揃い、良い響きであるなぁ~」
いかんいかんっ! 頬がとろけきってしまう。ついでに鼻の下なんて伸び放題である。「ワシともお揃いだからのぉ」なんておじじ殿の言葉は聞こえんのであるっ!!
「早速荷物いれてみるのら! 今日狩った魔物のアイテムとかも入れられるのらっ」
リリデル殿は自分のがま口財布をむんずっと開き、入り口とは不釣り合いな大きさの肉やら宝珠やらを詰め込んでいく。破れるのではっと思ったが、がま口財布は膨れるどころか何も変わらない。
「ほ、本当に不思議鞄でござるなっ!! 物がすいすい入っていくでござるっ」
そんなに楽しそうに荷物を積められては、拙者もやってみたくなる。
腰袋から三種の神器を取りだし、米呼びの鏡を掴む。……明らかに米呼びの鏡の方が大きい。およそ3倍はあろうか。
一瞬躊躇ったものの、意を決しがま口財布へ押し込む。
――な、何の抵抗もない。よく見るとがま口の金属が伸び、米呼びの鏡ほどの大きさになっている。
これぞ、まさしく妖術かっ!!
なれば、どんどん荷を入れてみるぞ! 次は味噌玉の壺、そして、さしす『せ』の剣、大根、人参、葱、じゃが芋……
「もう、いれる物がないでござる。まさか、これ程とは」
「ふぉっ。もう気が済んだかのぉ。夜になる前にこの山を降りたいんじゃがのぉ」
がま口財布から顔を上げると、おじじ殿とリリデル殿がなんとも言えない顔で拙者を見つめていた。
「す、すまぬっ! つい熱中してしまったでござるっ!」
拙者、謝りつつがま口財布を懐へとしまい直ぐ様立ち上がった。山を下山するとなると、夜を越えてしまうやもしれん。急がねばっ!
断崖へと足を一歩踏み出したとき、慌てた様子のおじじ殿に着物を引っ張られた。
「これこれ! まったく人の話は最後まで聞くもんじゃのぉ。……誰も下山するとは言うとらんのぉ。今から山道を歩くなど、年寄りにムチを打つのぉ」
んん? 拙者、どうにも良くわからんのだが? 山を降りる、すなわち、下山する。な、何か違ったのかっ?
困惑した拙者をよそにおじじ殿は杖を二度、地面へと打ち付ける。
コンッコンッ……
「むむっ! な、なんだか地面が揺れてないでござるかっ!? 」
おじじ殿が杖をついたすぐ後、真下の地面が揺れるような感覚に襲われた。おまけに、何やら地響きもしているような。
「ふぉっ、もう来るぞいっ」
その言葉を合図に、爆発したような轟音が響き渡る。激しい風圧が体を突き抜け、土ぼこりに目を閉じた瞬間っ!
息を飲むほどの殺気に襲われた。
あまりの圧に呼吸がヒュッと音をならし、汗が頬を伝っていく。
久しく感じぬこの恐怖、拙者の手が震えるとは。
うっすら開けた目の先に飛び込んできてのは、紛れもない龍の姿だった。




