侍、作戦に悔いなし
……バリッッ!!
稲妻のような轟音が遅れて耳を突く。
何かが倒れる音と共に薄れゆく殺気。振り返れば、黒く光る巨体が地面に横たわっていた。
ふぅ――これにて、終いでござるな。
チンっと刀を納め、気を静める。
「ま、まさかっ……本当に、た、倒せたのらっ!?」
木の影から覗き込むようにこちらを見つめるリリデル殿。頬からはうっすら血が滲んでいるが無事のようである。
その可愛き仕草に、思わずフッと一息。肩の力が抜けてしまったでござる。
「リリデル殿っ!! やったでござるな! 我らの勝利でござるぞ!」
満面の笑顔をリリデル殿へと向ける。……が、リリデル殿は拙者を見つめ固まった。いや、拙者の額か?
「ら……らははははっ!! ま、マルさん、それっ!! だ、ダメなのら、こっち見ないでなのらぁ~」
なっ、なんとっ!!!
な、何故だっ! 拙者の何がいけないと申すかっ!!
すがるような気持ちでおじじ殿へと視線を向ける。
「ふぉ~っふぉっふぉっ!! ヨタマル坊の活躍は想像以上じゃのぉ! しかしその頭は、やはり見た目がいかんのぉ」
おじじ殿は地面で胡座をかき、髭を撫で付け笑っている。
頭……、あたま……っ!!
し、しまったっ!!
慌てて頭にくくりつけた米呼びの鏡を引き剥がす。
「くっ、ぐぅぅぅっ! わ、笑うでないっ!! も、元はと言えばっおじじ殿がそうしろと言ったのではないかっ!!」
そうである。元はと言えばおじじ殿の作戦だったのだ。
「デスシープは姿が見えぬ魔物。そこで、ヨタマル坊の探知する『気』を使い、奴を見つけるのじゃ。そうすれば、ワシが龍魔法で奴の姿をさらけ出すのぉ。じゃが……絶対に黒い水しぶきには触れてはいかんのぉ! あとは、リリデル坊の壁壁で囲い込む。出来るだけ上位クラスで頼むのぉ。仕上げはもちろん……お主じゃ。デスシープはデスライトという攻撃を仕掛けてくるはずじゃ。これは触れれば人であろうと即座に崩れ去る魔光線。絶対に喰らってはならん! ……そこでっ!」
ここからが名案だと言って拙者の米呼びの鏡を取り出し、「これを盾に使うのじゃっ! 勿論手で持つと剣の邪魔になる。だから……ここじゃのぉっ!」なーんて言って拙者の頭を指差した。
拙者は恥ずかしいから嫌だと申したのにっ。
「わ、ワシのせいかのぉっ? いや、そうでもせんと、片手が塞がって不便だと思ったんじゃ。だから、許……ふぶ、ぶぉふぉふぉふぉっ」
ぐぐぐぐっ、おじじ殿ぉーっ!!
酷いでござるっ! そのように盛大に笑うなどっ!!
「さ、さぁっ!! デスシープを解体して素材を頂くのらっ! マルさんも元気出すのらぁっ! どんな見た目でも僕はマルさん好きなのらぁ~」
すすすすす、好きっ――。
い、今、す、すす、好きと申したかっ!! しかも可愛らしい笑顔でっ!! かっはぁ~っ、拙者、この作戦に悔いなしっでござるぅ~。
「これこれ、リリデル坊や。あまり大人をからかっちゃいかんのぉ。見てみぃっ!! ヨタマル坊が溶けそうになってるではないかのぉ」
「らら? ダメだったら? 昔おばあちゃんに言われたのら。困った時は、相手に好きと言えって」
「……のぉ。あ、哀れなりヨタマル坊」
何やらおじじ殿とリリデル殿が話しているようだが。今の拙者には何も聞こえんでござるっ。ささっ、早いところ山を降りてうまい飯でも食べるでござる~っ。




