侍の活躍
最後の断崖を登りきり、頂上の平原へと足を踏みおろす。心地よい風がフワッと全身を突き抜けると同時に、ピリリとした嫌な気配が拙者達に纏わりついた。
「まだでござる。まだ、拙者の『気』に触れるものはおらんのだ」
それを聞いたおじじ殿は左側へ、リリデル殿は右側へと歩みを進めていく。拙者は真ん中一直線。平原を見渡す限り生き物らしい物はいない。野菜の葉が風に揺られているがそれだけ。何の気配もなく妙に静かである。
一歩、また一歩と足を前に出す。
「っ! 10時の方角っ! かかったでござるぞっ!!」
何かが『気』に触れる感覚。すぐさまおじじ殿の方へと向き叫ぶ。
おじじ殿は眼鏡越しにその方角へと目をやり「いくでのぉっ!」と言って何かを唱えた。
すると刹那、大量の水が降り注いだかと思うと頭に響くほどの雄叫びが山全体に木霊した。
ぐぉぉぉぉオーーッ!!
「ほ、本当であったのかっ!! お、おじ、おじじ殿が、龍を呼べるというのはっ!!」
目の前で水のような龍が空を舞い、辺り一面に海流の如く激しい波が押し寄せる。おじじ殿の妖術だと言っていたが、なんとも壮観! 龍などおとぎ話の存在だと思っていたぞ!
おじじ殿は龍の背に股がり、意のままに操る。が、やはりデスシープの姿を目視することは出来ない。有るのは『気』のみ。
「ほーれ、仕上げじゃぁ!」
おじじ殿の命令で龍が黒く光る水しぶきを上げる。
その水しぶきに当たってはならん! ――それがおじじ殿が作戦の時に拙者達へ伝えた内容だった。
拙者もリリデル殿も何とかそれを躱わしたところで、おじじ殿の真下に黒く蠢く何かがいることに気づいた。
「なるほどっ。水しぶきをを避けろとはこういうことでござるな」
黒光りするそれは黒と言うよりも銀に近い。恐らくは水銀。水銀をデスシープに浴びせることで動きが遅くなるのと同時に奴を目視することが出来る! おじじ殿、伊達に年はとっておらぬようだな!
「見えればなにも怖くないのらっ!! 次は僕が行くらぁっ!!」
リリデル殿がデスシープに向かい飛び出す。
水銀を浴びたことで怒り狂うデスシープ、突如、角を巨大化させブンッと左右へ振り切る。
「り、リリデル殿っ!! 危ないっっ!」
角から飛び出た斬撃のようなものが一目散にリリデル殿めがけ飛んでいく。
小さな悲鳴を上げ、頬をわずかに掠めつつもそれをなんとか避けるリリデル殿。「壁壁、四重層!」と叫ぶや否やデスシープの周りに分厚い壁が立ちはだかる。
な、なんと危ないところ! しかし、リリデル殿が怪我をしたのは想定外であるが、ここまでは作戦通りっ。あとは……拙者が斬るのみっ!
すかさず刀を抜き『闘気』を練り上げ、振り下ろすのと同時に放出する!
和風流――一刻っ……!!
振り下ろす刹那、デスシープの額が怪しく光り、その光が真っ直ぐ拙者へと飛びかかる。
ぐっ……!! は、速いっ!!
くんっと首を捻り、光線が真横を通過していく。
「デスライトじゃっ!! それだけは喰らってはならんぞっ!!」
おじじ殿の必死な叫び声。
同時に、こちらへと駆け出すデスシープ。
「ぐぅっ、やりたくはなかったが……致し方無しっ!!」
こやつの光線がこれほどまでに速いとは。来ることがわかっても、辛うじて避けるしか出来ぬ!
背に腹は変えられんっ! あの作戦……やるぞ!
デスシープから逃げるように後退し、腰袋へと手を伸ばす。中から一つ取り出したのは、丸く皿のような鏡、そう米呼びの鏡である!
これを……リリデル殿のくれた紐でくくりつけて、完成だっ!
ぐっぐぐぐ、この格好。なんと情けない!やると決めたが……何も頭に皿をくくりつけんでも良いではないかっ!?
くぅーっ、こうなればいち早くデスシープを斬るのみっ!!
歩みを止め、デスシープへと向き直る。怒り狂ったデスシープは猪のごとく猪突猛進!
「ヨタ坊っ!! もう一発来るぞいっ!」
言葉通り、すぐさま光り出すデスシープの額。
ふんっ! 今度は先ほどのようにはいかぬ!
迫り来るデスライトに向かって頭を突き出す。それと同時に「足枷、展開っ!」とリリデル殿の声が聞こえ、一瞬動きが鈍くなるデスシープ。
まばゆい光りが頭の鏡に反射し、デスシープへと降り注ぐ。
光りに紛れ身を隠すようにして飛び上がり、刀をデスシープの頭めがけ両手で振りおろすっ!
和風流、『破雷降っ!!』




