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侍と異世界

 先程までの真っ白い居室も、何やら洋装の佇まいにかわり壁には大きな十字架がかけられていた。床には珍妙な紋様が描かれ、それを取り囲むように数人の頭巾を被った者達。そして、目の前の娘さん。少し離れたところには、観衆のような人集りまで見える。

 まさか、拙者を呼んでいると言っておったが、この娘さんの事なのか?


 声をかけようと口を開いたとき、野太い男の声がそれを遮った。


「ミリア! 何をしているのだっ! 召喚の儀式は成功したのだぞ。こちらに来て聖剣の騎士、ガザンに顔を見せてあげなさい」


 声の主である男は、丸い体を腰掛けのようなものに無理やり収め、階段の上から拙者達を見下ろしていた。その前にはきらびやかな甲冑に身を包んだ一人の男が立っている。


「っでも、お父様っ! こちらにも一人、儀式で召喚された者がいるのです」


 娘さんがそう言うや否や、丸い男含め観衆達の視線が拙者へと向けられた。甲冑男に至っては、何やら殺気のようなものまで感じたのでござる。


「そんなわけがないっ! 召喚対象は一人のはず。……一体誰が紛れ込んだというのだ」


 ドスドスという音が似合いそうな歩き方で階段を降り、拙者へと詰め寄る丸い男。

 鼻息がかかりそうなほどの距離まで来ると、今度は拙者を上から下まで何度も見回した。


「この小汚ない格好の者が聖剣の騎士? ……ふんっ! そもそも騎士であるのかすら怪しい。剣を持っているようだが、お粗末な造りからしてどうせただの飾りだろう! リリデルっ! 至急コイツを鑑定しろ!」

 

「なん、なんたる無礼なやつ。拙者の刀は拙者の魂そのもの! それを愚弄するなど言語道断っ!」

 

 すかさず刀の柄を握る。

 が、その手の上に何やらヒヤッとした物が触れ、驚きのあまり手元を見た。


「しーっ!そんな物騒なことしちゃダメら!!こんな所で剣なんか抜いたら、斬首の刑じゃ済まないのら」


 ヒヤッとした物の正体、それはなんとも小さき小人の手だった。拙者の刀を抜かせまいと、必死に押さえておる。


 拙者、やはり頭がおかしくなったようだ。このような小さき小人が居る筈がない。


「リリデルっ! 早くせぬか!」


 またしてもあの丸い男の声が響く。

 怯えるような声で「はいっ、すぐにでも!」と返事をしたのは、まさかの目の前にいる小さき小人であった。


「げ、幻覚ではござらんのか?」


「静かにするのらっ! 鑑定するだけ、痛くないのら!」


 そう言って拙者に向かって両の手のひらを向ける小人。

 まさか人形なのでは、と思いそっと小人へ手を伸ばすも、ペシッとはたかれてしもうた。うむ、間違いなく生きておる。


盗視テレット、具現化!」


 小人が叫ぶと、ブォン! っと聞き慣れぬ音と同時に目の前に文字が浮かび上がった。

 この小人、まさかの妖術使い! いや、物の怪の類いなのか。そう思いつつも、目の前に現れた文字を読まずにはいられなかった。


 【名前】与太丸

 【レベル】3 ?

 【職業】自称 侍

 【攻撃力】10

 【防御力】10

 【魔力】0

 【固有アイテム】三種の神器


 むっ、拙者の名前が書かれておる。

 レベル3。れべる、れべる? 何のことぞ。いや、解らんものは飛ばして次である。次は、職業。

 

 ――自称、侍……。   


 ちっがぁぁぁあう! 自称ではないっ!

 れっきとした侍であるっ! 誰もが認める和風剣術の使い手なのだぞ! それを……、それを自称などとっ!


 拙者、頭を抱え思わず叫びそうになったのだが、それよりも先に盛大な笑い声が聞こえてきた。


「ぶっくーっくくくくく! みすぼらしいのは見た目だけではなかったか。魔力もなければ他のステータスまでひどいものだ! いいか、異世界人に良いことを教えてやろう。この世界ではな、魔力が全て。――つまり、魔力を持たないお前などゴミも同然だ!!」


 丸い男は、はち切れそうな腹を抱え笑っていた。

 意味の解らぬ単語をつらつらと並べおって。

 何故笑ってるかも解らぬが、こやつの笑い声はやたらと癇に触る。挙げ句、「聖剣の騎士以外に用はない! 斬首せよっ!」等と聞こえたのだが。

 この丸い男に切られるくらいなら……やはり拙者の方から切り捨てるか?


「お、お、お待ちくださいらっ!」


 殺気を放つ数秒前、リリデルと呼ばれていた小人が拙者の前に割ってはいった。


「レ、レベルが不確かなのは、急成長をする可能性があるからなのら。……だ、だから、貴重な人材かもしれないこの人を、殺したらダメなのら」


 震える小人、リリデル。

 しかしその姿に恥じるものなしっ!


「……ほほぅ。かもしれない、などと曖昧な理由で王である余の決定に、異を唱えるか。……ふむ、良かろう。今は聖剣の騎士を迎えられ気分が良い! その度胸に免じて今回斬首はなしだ」


「……っ! じゃ、じゃあ!!」


「この二人を即刻、国外追放とせよっ! 顔を見るのも煩わしい」


 丸い男は吐き捨てるように言い放つ。しかし、それを聞いていた取り巻きの頭巾集団の一人が、慌てた様子で王様に跪いた。


「し、しかし王様っ! この異世界人はともかくリリデルに至っては稀有な能力の持ち主。どうか、お考え直しをっ――」


「黙れっ! 」


 その声と同時に甲冑らしき物に身を包んだ輩が数人、我らを取り囲んだ。


「そ、そんなっ!! 酷いのら!! ……っ! ま、待つのら――」


「む、貴様っ! 拙者に触るでない! ええぃっ、離せいっ!!」


 抵抗も空しく、甲冑の輩達に取り押さえられたかと思うと縄でぐるぐる巻きにされ、あっという間にみの虫状態。

 その姿のまま荷車の荷台へと放り投げられ、足早に荷車は動き出した。

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