侍の苦労
軽くなった足取りで山を登ること数時間、気づけば山の8合目辺りまで来ていた。言葉にすれば何とも容易く登ってきたように思えるが……。実際はそんな簡単ではない
野菜もとい古代草を採った後、すぐさまそれを狙った魔物ブーブルに襲われ。あっ、ブーブルというのは兎を限りなく太らせ、大きくしたような奴でござる。それをおじじ殿の水妖術で一掃し、アイテムを拾っていたら今度は別の魔物がそのブーブルの肉を奪いに現れ。もちろんっ、肉は死守したでござるぞ!
――確か名前はスカイピリン。空をすばしっこく飛ぶ奴でござる。其奴はリリデル殿が壁壁とかいう壁を四面に張る妖術で、閉じ込めたところを拙者が一刀両断。毒液を吐きまくってくれたお陰で、拙者の着物の裾が少し溶けてしまったのである。おまけに担いでいた野菜が戦いの最中、何度も拙者にぶつかるわで、それはもう大変であった。
魔物の襲撃が落ち着いたと思ったら、リリデル殿は無邪気に野を駆け回り、古代草採取に付き合わされる始末。その間、おじじ殿は呑気に川で釣りをしておった。魚が何匹か釣れたようだが、そんなことせず拙者を助けてほしかったのである!
やっとリリデル殿から解放され、大量の荷物を抱えてこの8合目まで来れたというわけだ。
「いささか、疲れたでござるな。……はぁ」
まぁ、その甲斐あって沢山の食材達を手に入れることが出来たが。人参に大根、葱、それからじゃが芋を少々。
「ちょっと荷物が多くなっちゃったのら。やっぱり、早いところ夢限鞄がほしいのらっ!」
無邪気な笑顔で話すリリデル殿。
そうは言うが、リリデル殿! 荷物を持っているのは拙者! リリデル殿は宝珠しか持っておらぬではないか。
「デスシープさえ倒せれば手に入るのぉ。後少しの辛抱じゃのぉ」
おじじ殿も他人事のように。……荷物、半分持ってくれても良いのでござるぞ?
まぁ、そんな様子は全くないから拙者が持つしかないのでござるが。こうなったら、早いところデスシープとやらを倒しこの山を降りるのである。拙者、うまい飯を食べ休みたいのである!
「すぐにでも頂上へと向かい、デスシープを倒すのでござるっ!」
「そうじゃのぉ。その事なんじゃが、ちょっとした名案が浮かんでのぉ。聞いてくれるかのぉ?」
キラリと光る眼鏡越しにおじじ殿と目があった。な、なんだか嫌な予感がするのだ。何故そのような目で拙者を見るのだ。
「名案っ? 何なのらっ? 気になるのら! ドルルさん早く教えてなのらっ!!」
「ふぉふぉ~。それはのぉ――」
おじじ殿の名案とやらは難しい単語が飛び交い、拙者が理解するにはリリデル殿の解説が必須であった。
リリデル殿は面白そうだと言ってその名案に賛同、拙者は……で、出来ればそんなことはしたくないと言ったのだが、残念ながらほかに案が思いつくはずもなく、泣く泣く承諾するしかなかった。
「前半は良しとしても後半はあくまで最終手段でござるっ!! やらなくても良いとわかれば、拙者、断固拒否であるからなっ!」
「ふぉ~。それで充分じゃのぉ。ヨタマル坊の活躍、楽しみにしておるのぉ」
「サポートは僕に任せるのらっ! バッチリやってみせるのらっ!!」
むぐぐぐぐっ、このような事になろうとはっ。で、デスシープのせいである。拙者、いつも以上に力を発揮してやるでござるっ!
鼻息荒く歩き回り、出てくる魔物もそこそこにあしらいながら山道を登る。道幅が徐々に狭くなり、断崖にも近い場所はリリデル殿の妖術を駆使して進んでいった。
9合目もあっという間に終わり、もう少しで頂上というところへ差し掛かった。
おじじ殿の話では頂上は狭い平原であると言っていた。そこに着いた時点で作戦を開始すると。
ならば、早めにあれを展開しておいた方がいいでござるな。
拙者は『気』を練り上げ一気に解放する。解放と言っても今回は殺気ではなく、探知型の気を張り巡らせる方で。先ほどとは段違いの大きさ故、集中せねばならぬが……出来ぬことはない。
『気』の範囲をみるみる広げ、18尺程度まで来たところで円形に整える。
これぐらいまでに広げれば、見逃すこともないであろう。おじじ殿とリリデル殿に目配せをし、どちらともなくコクりと頷く。
うぅむっ――いざっ!!




