侍、野菜でるんるん
その間、リリデル殿は拙者の腕のなかで存分に景色を堪能していたようだ。鼻唄まで歌いまるで遠足にきた子供であるな。
「僕、ネモル山があの有名な眠眠山とは知らなかったのら。眠眠山と言えば古代草の群生地! 貴重な古代草があったらついでに採っていくのらぁ~!」
古代草……そういえば材料にもそんなものが必要と言っていたが。そんなにも珍しいものなのか?
「らっ!!! あれはっ!」
鼻唄が途絶えたと思ったら、今度はすぐ近くに生えた拙者の背丈ほどはあろうかという花を指差し、なにやら慌てた様子だ。
「ふふぉぉ、あれはバータフルじゃっ! 珍しいのぉ、あれの鱗粉は魔力回復の効果があってのぉ。中々に重宝するんじゃい」
視線の先にいるのは二枚の羽を優雅に羽ばたかせる蝶々のような生き物。な、なるほどっ。不思議蝶でござるな、うんっ。
リリデル殿は抱えられた状態にも関わらず、器用にも「手掴」と唱え、その蝶を捕まえていた。
前々から思っていたが、リリデル殿のこの妖術。何とも便利であるが、魔物を退治することは出来んのか?
いやっ、もちろんリリデル殿のことは拙者が責任をもって守る。……が、しかし、拙者がずっと側にいれるわけでも無し。なれば、リリデル殿も多少なりとも身を守る術がなければ。
「ちと、いいでござるか? 拙者、良くわからんのだが。……リリデル殿の妖術は素晴らしいものと思っているでござる。でも、魔物を倒したり身を守ったりは出来ないでござるか?」
「ら? 僕は攻撃魔法は出来ないのら。武器も使えないし……あっ、でも! 罠とかなら出来るかもしれないらっ!」
むぅ。そういうものなのか?
「まぁ、それぞれ向き不向きがあるってことだのぉ。人には攻撃タイプと守備タイプ、そして回復タイプがあってのぉ。それぞれ得意とする分野があるんじゃ。リリデル殿は守備タイプ、補佐を得意とするが攻撃は苦手なんじゃ。逆にワシは攻撃タイプ、補佐は全くもって出来んのぉ」
「妖術にもそのような分別があるのでござるなっ。中々に奥が深い。して、ぴーるタイプは何が出来るのでござる?」
「それはのぉ……回復じゃ! 病や怪我をたちどころに治す。それが回復タイプ。でものぉ、今じゃほとんど絶滅種に近いのぉ。一昔前に国同士で回復タイプの奪い合いが合ってのぉ。殆どが死んでしまったり、国に幽閉されたりしてしまったわい」
遠くを見つめるように話すおじじ殿。さっきまで一緒に話を聞いていたリリデル殿も妙に落ち着かない様子で目線を泳がせている。
ふむ……、二人とも何かあるのだろうが。まぁ、聞くのは野暮というものか。
「ならば、誰が病を治すのでござる? 拙者達の国では医者と呼ばれる医術者が病を治していたでござる」
この世界にはそんな人物はいなさそうであるしな。
「ふぉっふぉっ! ――そこで重宝するのがこれじゃ!」
おじじ殿にしては珍しく興奮した様子で、地面から何かを引っこ抜いた。草……いや、花か?
どれ、ちと拝見いたす。
緑の茎が数本伸び、その先にはふさふさの草。茎の下には橙色の細長い三角形の実。……ん? 拙者の見間違いか? これは、……どう見ても……
「…………人参?」
「ふぉっ!? にんじん? 何の事を言ってるんじゃ!」
「これは古代草らっ! レンジムーンって言って毒を消して攻撃力を上げてくれる古代草なのらっ」
思ったことを言っただけなのに、二人からすごい剣幕で反撃されてしまった。これは、目を合わせてはだめな奴でござる!
ふと目線を下げ足下を見ると、さっきの古代草とは違った、しかしどう見ても見覚えのある草が地面から顔を出していた。
「こんなところに大根まで! どれ、一本っ」
ずんっと引き抜いたそれは緑の葉に白く太い実。まさしく、大根というほか無い代物だった。
「ふぉっ! それはワイトコーンっ! 守備力を増幅させ、一定時間回復効果を得ることが出来るレア物じゃ」
な、わ、わい、わいとこーんっ?
なんだってそんな難しい名前なのだ! 大根っ! これは大根でいいではないかっ!
おじじ殿いわく、こういった野菜……古代草を煎じて調合することで回復薬を作るのだとか。医者がいないというのも、困り物であるな。
そんなこんなで、二人からは貴重なものだから捨てずに持ってろと言われたが、そもそもせっかくの野菜を捨てるはずもない!……食べるなんて言ったら怒られる気もするけども。
リリデル殿の妖術で出してもらった紐を使い、野菜達を縛って肩からぶら下げる。
ちょびっと嬉しくなった拙者は、るんるんな足取りで軽快に山を登っていった。




