侍、説教される
「デスシープに喰われたようじゃのぉ……」
おじじ殿の声が無情にも響いた。
く、喰われたっ!? 消えたと思ったら、喰われたとなっ!?
いやいや、喰われたようじゃのぉって何を呑気に言っておるのだ! たった今、それも拙者の手のなかで喰われたのだぞっ! ならば、デスシープが近くにいるということではないかっ!!
「なぁに、心配ないのぉ。喰ったというても、夢の中から喰うたのじゃ。本体は全く別のところにおるからのぉ。――だから殺気を納めてくれんかのぉ」
拙者がすぐさま刀に手をやったことで殺気が漏れで出てしまっていたらしい。おじじ殿はふぅっと額から流れる汗をぬぐいながら拙者に言った。
不用意に殺気を放ってしまうなど、拙者、まだまだ未熟っ! くぅぅ……
「マルさんの殺気はまるで魔法みたいなのら。風は撒き起こるし、体が動かなくなるし。マルさんはやっぱり普通じゃないのらっ」
おぉぅ。普通じゃないなどとなんと酷い事を申すのだ。なのに言った本人はけろっとした顔で「宝珠とアイテムが落ちてるらぁ~」って拾い物をしておるし。……ぐっ、ぐす。拙者、リリデル殿に好かれるよう努力するでござる。
「ラーバンはB階級の魔物……、お主、本当に何者なのじゃ? もしやと思ったが、食事の時の肉。ジェネラルベアーもヨタマル坊が倒したんじゃなかろうのぉ?」
おじじ殿の言葉を聞いて真っ先に反応したのはリリデル殿だった。パッと顔を上げ、すごい勢いでおじじ殿のもとへと詰め寄っていく。
「そうなのらっ! マルさんが倒したのらっ!! それは、もぉー凄くて。……詳しく聞きたいら? ららっ?」
おじじ殿、リリデル殿に圧されて体が反ってるでござる。まぁ、無理もない。何がそんなに楽しいのか、この話となるとリリデル殿は目の色が変わるでござるからなぁ。普段は余裕の笑みを浮かべてるおじじ殿も「あ、いや、そのぉ」なんて言葉に詰まってるでござる。
これはこれで見ていたいのであるが……。しかし、このままではいっこうに先に進めん。
まったく、致し方無いでござるな。
拙者はリリデル殿の腹辺りへと腕を通し、脇に抱えるようにして抱き上げた。
「ららっ?! 離すらぁー! まだ話が途中らぁ」
手足を可愛くバタつかせ抵抗するリリデル殿。そのまま山道を歩き始めれば、なんてことはない。キャッキャと喜びはじめたでござる。
その背後から「ふぅー、ヨタマル坊に助けられたのぉ。もう勘弁してほしいのぉ」なんて聞こえてきたのはリリデル殿には内緒にしておかねばな。
横に並んだおじじ殿は小声で色々と拙者に聞いてきた。別にリリデル殿に聞かれてはまずい内容ではないが……。まぁ、また先程のような過剰反応は避けたいところでござるからな。小声にするに越したことはない。
その内容は主にラーバンを倒したときの事だ。どうにも、おじじ殿は拙者がいち早くラーバンの存在に気づいたことが不思議で仕方がないらしい。
「ワシは盗視スコープを着けておるから、ある程度の距離まで来れば存在に気づくことも出来る。が、お主はワシなんかよりも随分早く奴らに気づいた。それは何故じゃ? 場合によっては……その能力、狙われるやも知れん」
ね、狙われるとは穏やかではないな。まぁ、そう易々と捕えられるわけもないでござるが。
「何てことはないでござる。拙者、『気』の話をしたであろう。あれの応用でござるな。『気』を張ったのだ。あの時は、拙者を中心に半径9尺程度の円形に気を張り巡らせておったからな。その気に触れたためにすぐ気づけたわけでござる」
「な、なんと……『気』とはそのような使い方も出来るのかのぉ。ラーバンはB階級といっても集団で襲ってくる上、姿が小さく獰猛。一人で倒すことはまず出来ないと言われておるのだが。――やはりお主の能力、大っぴらに使わんほうがいいのぉ」
それからは何故かおじじ殿に諭されるように説教をされ、拙者、ちぃっとばかし疲れたのである。『気』の使い方など、バレたところですぐに使えるものでも無し。おじじ殿は一体何を気にかけておるやら。




