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侍、強さの片鱗

「さぁて、この辺でいいかのぉ」

 

 歩くこと数十分。人通りがない町の出口付近でおじじ殿は止まり拙者達の方へと向き直る。


「何故、人がおらぬところまで来たかはわからぬが……話とやらを聞かせていただこう」


「ふぉっふぉっ。人払いはワシよりもむしろお主達のためよ。町中で錬金壺など出せないじゃろうのぉ」


 キラリとおじじ殿の眼鏡が光る。

 なっ! こやつ何故その事を知っておるっ!

 慌てて手を腰袋へと伸ばし、カチャッと音を立てた袋の中に三種の神器すべてあることを確認する。


「な、なんでそんな物持ってるって思うのらっ! 僕達、何も持ってないのらっ」


「嘘はいかんのぉ。ワシの眼鏡は何でもお見通し。それに、妖精さんや。夢限鞄ガマトートが欲しかったんじゃないかのぉ」


「そ、そうだけど、それとこれとは話が別なのらっ!」


「ふぉっふぉっ! 何も錬金壺を寄越せと言っとる訳じゃないのぉ。その壺を使えば夢限鞄ガマトートを作れる。んで、ワシはそのレシピを知ってるという話なんじゃが。……どうじゃ? これでもまだ錬金壺は持ってないと言うかのぉ?」


 ぐぐっ、このおじじ殿中々にくせ者。

 ならば、相手の話に乗っかるのみ。


「持っているとして……おじじ殿。お主はそのレシピとやらを教えてくれるのでござるか?」


「もちろんじゃ。――その代わり」


 やはり交換条件があったでござるか。

 拙者の刀だけはやれぬ。誰がなんと言おうと、刀だけはやらんからな!


「わ、……ワシの夢限鞄ガマトートも作らせてくれんかのぉ? あと、琥珀ピールの羽を少々……」


 テヘっなどと舌をだし片目を閉じているでござる。全くもって可愛くない、いや、これは威嚇の格好なのか?


「ぐぬぬぬぬぬ、り、リリデル殿。どう思われる。拙者、がまとっともピーの羽も良くわからぬ。それに錬金壺とはあの味噌が入った鍋のことでござろう? 拙者、使い方がわからんのだが」


 おじじ殿に聞かれぬよう身を屈め、リリデル殿の耳元で囁く。


「こ、こちらにとっては良い条件ばっかりだと思うら! ただ、良すぎるあまり怪しいけど……。マルさんが壺を使わせても良いならいいと思うらっ」


 ――うぅむ。では、決まりでござるな。


「わかった! その条件飲むでござる。しかし、何故拙者が錬金壺を持っているとわかったのだ?」


「ふぉふぉー交渉成立じゃっ! 何故わかったかじゃとっ!? それはなぁ」


 おじじ殿は眼鏡をはずしリリデル殿に手渡して見せた。


「ま、まさかこれっ! 盗視テレットスコープなのらっ!!」


 リリデル殿は驚きのあまり眼鏡を落としそうになり、おじじ殿に慌てて取り上げられていた。

 聞くと、盗視テレットという鑑定妖術がかかった眼鏡のようで、妖術を使わずとも眼鏡を通してみたものは鑑定されるというものだった。それは人も物も問わず。腰袋に入っていても、袋越しに錬金壺の文字を見つけ、拙者の後を追っていたのだとか。まったく、凄まじい執念である。


 しかしながら、甘い話にはやはり裏があった。

 おじじ殿は夢限鞄ガマトートの作り方は解るが、材料はこちらで集めて欲しい、というのだ。しかもちゃっかり自分の分まで。


「そ、そんなの無理なのらっ! 材料ってデスシープの毛と角……。それに古代草のララポ草って。デスシープはS階級の魔物のうえ、滅多に出現しない魔物らっ!」


「ララポ草は生息地を知っておる。それにデスシープも出現地の目星はついとるからのぉ」


「でっ、でもS階級なんて倒せる人、――滅多に……」


 ここでリリデル殿とばっちり目があった。おまけでおじじ殿までこちらを見ている。


「むっ……せ、拙者か?」


「ふぉふぉ。お主、中々に変わった力の使い方をしておるようだのぉ。どれ、ちいっとばかしあの岩を斬ってみてくれんかのぉ」


 おじじ殿は拙者の後ろにある大きな黒い岩を指差した。大きさはリリデル殿をふた回りくらい大きくした物で、少し尖っている。

 うむ、まぁ斬れと言われれば斬れぬことはないだろう。

  

 リリデル殿とおじじ殿は拙者から離れ、何やら妖術を唱えておるようだが。

 

「マルさん! いつでもいいのらー!!盗視テレット


 その言葉を合図に刀へと手を伸ばし、一つ深く息を吸う。

 集中のあまり一切の音が消え去り、無音の世界が拙者を支配する。

 息を吐くその刹那、刀を抜き取り岩めがけて一振!


 和風流、『一刻線いっこせん』っ!!


 ……ッズンッ!!


 地響きのような音とともに足元が揺れる。

 視線を上げれば、岩が真っ二つに切れ地面に着地したところだった。

 ちんっと刀を鞘へと戻し、リリデル殿達へと向き直る。


「こんな感じで良かったでござるか?」


 人前で剣術を披露するなどやったことがない故、些か緊張したでござるが何とか斬れた。

 しかし、いくらか待ってもリリデル殿の返答はない。それどころか、ぶつぶつと何やら呟いては頭を抱えておる。

 岩を斬っただけではダメであったか? 粉々に粉砕できるほどの剣術でなければ。いやしかし、あの技はちと体に堪えるからな。拙者も幾分歳を取った故、太刀筋が遅くなったとは思っておったが。


「これは、どういう事なのら……。こ、こ、この岩を斬るなんて」


「り、リリデル殿? 何か問題でもあったでござるか? ……あー、拙者、何度でもやり直すでござるよ?」


 あまりにも困惑した表情で岩を見つめる故、こういう他なかったでござる。期待に添えずなんだか申し訳ない気持ちになるでござる。


「ふぉーっふぉっふぉ。やはりのぉ! お主、普段は力を抑え、ここぞという時に解放しておるのぉ?」


「むっ? それが普通でござろう? いらぬときには気を緩め、必要なときに気を込める。これ、武人としての基本であるぞ」


「そんなの、やろうと思っても普通出来ないのらっ! やっぱり、僕の鑑定が間違ってた訳じゃなかったのら! レベル3の人がジェネラルベアーを倒すなんて、何かあるに違いないと思ったのらっ!!」


 そこからはリリデル殿の責めるような力説と、おじじ殿の質問責めにあい、朝御飯を食べ損ねていた拙者は意識が遠退きそうになりながら相づちを打っているしかなかった。

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