【55杯目】潜入⑧
「そなた、少しよいだろうか?他の者から聞いたのだが、そなたはあの『嵐の傭兵団』の雪宮殿であるかな?」
カーテシーをして挨拶をする。
声を掛けられたのは、なんと被害者の両親こと伯爵夫妻だった。
「確かに私がそうですが…伯爵様におかれましてはご子息様の事、ご愁傷様でございます」
「よい。あれは少し自由にし過ぎた。その罪にしては代償が大きすぎるとも感じるがな」
「それで私に何かご用件があるのでしょうか?ご用件の内容によっては承ります。私の権限の範疇を超えると難しいですが」
「うむ、そうだな。雪宮殿は警備の人間とは別に動いているように見える。何か分かれば私にも教えてくれぬか?」
いつの間にか隣に戻ってきていた自称妹令嬢はうんうんと頷き、『お姉様ならば当然よね』と思っている様だ。
私は人差し指の甲を顎に置いて少し考え、答える。
「まずは落ち着ける場所に移動しましょう。長時間立ちっぱなしではご婦人もお辛いかと」
「うむ、そうだな。おい、椅子を用意せよ。侯爵の御令嬢と雪宮殿にもな」
「感謝しますわ、伯爵」「感謝致します、伯爵様」
おい、お前まで口出そうとするな。
はあ、仕方ない。
後ろに控えていた執事とメイドが準備して場を整える。
勧められた椅子に座り、話を続ける。
「それで私が出来る範囲でしたらお答え致しましょう。不躾で申し訳ございませんが、逆に伯爵様でお知りになっていること教えて頂けませんか?」
「…ふむ、それならば答えよう。何が聞きたいか?」
「そうですね…ご子息様は最近、トラブルに巻き込まれるような事態に会ったことがございますか?」
「恥ずかしい話だが、息子のトラブルに暇がなくてな。よく起こしていたのは町の娘と商人達と聞いているが」
「あちらにいらっしゃる男爵と男爵夫人に見覚えがございますか?ご子息様とよく話をされていたようなのですが」
壁際でくつろいでいる男爵と男爵夫人、そしてメイドを掌で指し示す。
「知らんな。会うのもこの場で初めてだ。お前、知っているか?」
「私も知りません」
伯爵も伯爵夫人も男爵夫妻とは本当に会ったことがない様だ。
表情を伺ってみても偽りがないように見える。
確かに今までは派閥が違うのだから、会う機会がないとも言えなくもない。
「そういえば私もあの男爵と会ったことはありませんわね」
え?自称妹令嬢も会っていないとは…そういうことはあの男爵はこの派閥の人間ではない?
それとも身分の違いで会ったことがないだけなのだろうか。
とは言っても、派閥に属する以上、一度は派閥の長へと挨拶に来るだろうに。
そうすると執事のひとりが伯爵に耳打ちをする。
意外にも伯爵はその内容をすぐに打ち明けてくれた。
「この場だ。雪宮殿は侯爵様と所縁もあるようだし話そう。あの者、どうもどの派閥にも属しておらんようだ。それだけに自由に行き来しているらしいぞ」
ああ、それで納得がいった。
だから情報源として活用していたんだな、遠海さんが。




