【47杯目】贈り物③
『え?こうですか?』
『そうそう、そう着るの』
『髪をセットするから、ちょおっと動かないでねー』
『試着なのに、そこまでするんですか?』
そんな声がドタバタ音と共に更衣室内に広がる。
ドタバタ音が少なくなっていくと共に店を遠巻きに見ているらしい監視者達が圧を強めた。
敵意がないことは既に感じており、天月の警戒度も低い。
天月は誰かもわかっている様に見て取れた。
そんな複雑な状況とは知らず、更衣室から戻ってくる二人。
秋音姉さんと私だ。
「わぁーーおねーちゃん、すごいきれい!」
「…ほぅ、化けたもんじゃな、千冬よ」
くーは素直に、天月は少しひねくれているが賞賛の言葉を私に浴びせた。
「えっへん!お姉ちゃんは頑張りました!」
無い胸を反らし、ドヤ顔を見せつける秋音姉さん。
少し恥ずかしいですよ、私は。
「これじゃ、並みの男ではエスコート出来んじゃろうなぁ」
「そうそう、もっと自信を持っていいのよ、千冬ちゃん」
「だから、『ちゃん』付けはやめてくださいって」
照れ隠しに私がそう応じると…
「そうね…立派なレディーだものね、千冬さん」
意外にそう返してきた秋音姉さん。
余計に照れるぞ、これは。
『突入!』
外で大きな声と共に何人かが店に雪崩れ込んできた。
突然の乱入に怯えるくーは素早く秋音姉さんの後ろに隠れる。
「な、なんだ?」
その侵入者は見知った女性ばかり、中には傭兵団の部隊員も数名いる。
それら女性たちは魔導撮影機を手に取り、私を撮り始めた。
「やったーレア表情のお姉さまゲットー」
「私の部屋にもきれいなお姉さまが飾れるわ」
「これで……ハアハア」
「ぐふふ、これを売りさばけば…」
最後に声を発した女は隣の女にげんこつされた。
袋叩きにされそうになったのを逆に止めた形だ。
ふぅ、とため息をついた天月が独り言のように話す。
「だろうな、と思ったんじゃ。害意がないのはわかっておったからの」
「私もそこまではわかっていたが、なんだこれは。そして、これはお前たちの仕業か?」
女たちは観念したのか、素直に白状した。
「「「「「「「そうでーす」」」」」」」
私が問い詰めるとその内の一人が話し出す。
よく見てみると仕入れ先の酒屋の店員だ。
「えっとですね、たまには千冬お姉さまにも女性として着飾って欲しいなぁ…と」
「で、本音は?」
「私のコレクションが…あっ」
「ふんふん、それで?」
笑顔の度合いが高くなり、その分の圧が増した(らしい)私。
「「「「「「「ご、ごめんなさーい」」」」」」」
そんなんで反省しているのかよ?とも思ったが、一応は悪意ではなく善意だ。
ついでにと思って聞いてみた、これは何の集まりなのかと。
そして、軽く聞いてみた私が悪かった。
頭を抱える。
なんと、私の『非公認ファンクラブ』だと言う。
更にはここに来ていない会員も大勢いるそうだ。
ここに来ている連中はその中でもシングル№だと誇らしげに名乗っていた。
そう言われてみて気付く。
こいつら、どこかで接点がある奴ばかりだ。
部隊員に昔助けた奴ら、そして傭兵仲間や知り合いの情報屋。
更に私が常連として通っている武器屋や雑貨屋の店員まで。
…何で気づけなかったかなぁ、私。
鈍すぎんだろ。
「そ、それで、あの……」
気弱そうな奴が声をかけてきた。
昔に暴漢に襲われていたところ助けてやった記憶がある。
「まあ、今回は勘弁してやる。随分と良い物をくれた様だしな。秋音姉さんやくーも喜んでくれたし、これで騒動とはチャラだ」
「そうではなくて、もっと撮っていいでしょうか?」
ズルッ。
肘を置き、寄りかかっていたカウンターのテーブルから滑り落ちそうになる。
まったく、こいつらは…。
「どうせなら、今日はこのまま営業しませんか?」
「ね」
「うん!そうしましょうよ、千冬さん」
秋音姉さんまで乗るな。
ウキウキのくーを横目に額に手を当てる私。
秋音姉さんと『非公認』ファンクラブのメンバーは暴走が止まらない。
結局はそうして、この格好で営業することとなった。
動きづらいったらありゃしない。
男連中には揶揄われるし、女の客には好奇の目に晒される。
その女の一部が紅潮しているのはなぜだろうか?
…そういえば、夜叉騎士からは『似合っているぞ』とひとこと。
意外な言葉に驚いたのはナイショだ。
こうして、今日は意外な程に賑わっている店を回しながら、忙しさと共に夜は更けて行く。




