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ShotBar 13th door 千冬の業務日誌  作者: 夜叉騎士
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【44杯目】夜叉騎士の受難⑨

夜叉騎士が沈んでいるのは思考の海ではなく、睡眠の神のお膝元だった。

……分かりにくい。


考えてみれば、休憩もなく一晩中走り回った上に研究材料として肢体を晒していたのだ。

疲れるのも無理はない。


そして、くーは椅子を移動させて寄り添っている。


アルキメディアは情報端末を用いて仕事を、天月はぼーっと天井を見ているかのようだったが、瞑想している様にも感じる。

秋音姉さんは料理の仕込みをしているのか、奥から出てきていない。


そんな中で私は店の開店のための準備を始めることにした。

道具の点検や店の掃除、グラスや食器の汚れの確認など、静かに淡々とこなす。


しばらくそうした静寂な空気でゆっくりした時間が店の中を流れていた。




「お待たせしました、入ってよろしいでしょうか?」


ふいに女の声が聞こえた。

先程までの慌てようとは変わり、落ち着いた声だった。

外側に二つの影が見える。


私はこちらに入るよう声をかけ、テーブル席へと二人を案内した。

案内し終えたところで、ふとカウンターの方を見ると夜叉騎士は起きていた。

くーは寝ていたが。


そのくーを夜叉騎士はソファーへと運び、毛布をかけて寝かせつける。

そして、こちらに近づいてきた。

アルキメディアと天月も気づき、こちらに寄ってくる。


関係者がひと通りそろったところで、女は語りだした。


「まずは結論から言います。この試験薬は廃棄します。前からある程度は決まっていたことでしたが、今回の件で決定しました」


ごくりと唾をのむ音が微かに聞こえた。

女は言葉を続ける。


「この薬は危険すぎることもさることながら、それ以上に何が起きるかわからないので制御が出来そうにないということが問題点です。

 研究結果は省内で共有化されることとなるでしょうが、おそらく封印されて日の目を見ることはないでしょう」


男が口を挟む。


「まあ、そういうことだ。制御が出来ないってことは最悪、使った相手が良くなるのか悪くなるのかもわからんってことだしな。

 そんな物、怖くて使えやしない。開けて驚くびっくり箱ではあるまいしな」


申し訳なさそうな表情をして


「情報の共有化については勘弁してくれ。アルキメディア女史もいることだし、それは仕方がないと思ってくれ」


女の説明と男の補足について、一同は頷き合う。

そして更に女が切られた説明を続ける。


「それから…夜叉騎士氏の身体ですが、データ上は異常がありません。

 調査結果と照らし合わせた限りでは問題ありませんが、この薬が不確定要素の塊みたいなものですから、しばらくは様子を見させてください」


ここで初めて当事者の夜叉騎士が口を開く。


「致し方なかろう。小官自身の感触に於いても不備は無かろうが、唐突な不確定の事象は在り得よう。好きに致せ」

「まあ、仕方ないよねぇ…」


私も納得する。

少し硬かった女の表情は柔らかくなっていた。


「なんじゃ、夜叉騎士の無事であることは良いが、これ以上の面白いことにはならんとは、つまらんのう」


相変わらずの無責任だ、天月は。

まあ、どうとでも出来る自信があってのことでもあるがね。


「貴殿らの寝食については当方にて措置する。然れど、若干の支援は求めたい。其の程度は融通せよ。必要とあらば、小官自ら交渉へ赴く故」

「いやいやいや、そこまでは大丈夫です。私がなんとかしますよ、そこは」


若干の慌てた様子のアルキメディア。


それ以外にもそんなこんなやり取りが若干あったが、問題なく話が進んでまとまった。

みんなそれぞれ解放されたかのように伸びをしたりしてリラックスする。


結構いい時間が経っていた様だ。

店を開ける準備をしなければ。


「さあ、開店だ。店に用事がなければ出て行ってくれ。あ、くーは…」

「小官がベットまで運ぶ」


寝息を立て、ぐっすりと寝ているくーを夜叉騎士が抱え、奥に入っていく。

何事もなかった様に店を開ける準備をしていると秋音姉さんがひょっこりと顔を出した。


「あ、終わった?じゃあ、開店ね。千冬ちゃん今日もよろしくね」

「あいよ、秋音姉さん」


こうして店の入り口に「open」の看板がかかり、門戸が開かれた。

いつもの様な時間の幕開けとなる。

今日の店はどのようなことが起こるだろうか?




余談だが、例の二人は2ヶ月ほど滞在し、その後は問題なしとして帰っていった。

アルキメディアもその2ヶ月間はちょこちょこと顔を出していた。

その期間が終わるともう訪れないと思っていたが、たまに店で愚痴を言い合っている。


そんな三人が常連となる日はもうすぐそこだ。

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