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ShotBar 13th door 千冬の業務日誌  作者: 夜叉騎士
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【36杯目】夜叉騎士の受難①

とある夜の出来事だった。


オーナーであり、団長でもある…つまり、私の上司の夜叉騎士はいつもの様にカウンター片隅に陣取り、酒を傾けていた。

用事がなければ何もなく、自由にさせてもらっており、話すこともあまりない。

たまに聞こえるグラスの氷の音と幾ばくかのアルコールの香りだけが、場を支配している。


そんないつもの店での時間。

この夜は客もいなく、特に静けさを保っていた。


時間が経って夜が更け、そろそろ閉店にしようかと準備に取り掛かったとき、ひとりの男が入口の幕を開けて入ってきた。


「まだ、やっています?」

「閉めておりませんので、大丈夫です。お一人様ですね?」

「あ、はい、そうです」

「テーブルとカウンター、どちらがよろしいでしょうか?」

「…では、カウンターにします」

「こちらにどうぞ」


少しくたびれた痩身のモノクルをかけた男だった。

私は浅めの礼をして、席に案内する。


その男は席に座ると深いため息をつき、伸びをした。


「まだ開いている店があってよかったー。ふー、疲れた」

「お疲れの様ですね、残業でもしたのですか?」

「ああ、残業というより、泊まり込みでの仕事が大変でね。とりあえずはエールもらえるかな?」

「はい、承りました」


手早く樽から木のジョッキに注ぎ、男の前のカウンターに置く。


「どうぞ」


続けて準備してあったお通しのナッツ類の小皿をジョッキの横へと差し出した。


「んぐんぐんぐ………くぅ、仕事上がりはやっぱりこれだね、喉がカッと熱くなる」


横目で見ると2/3ぐらいを一気にいったようだ。


「そんなにもお忙しいのですか?お仕事の方は」

「いやいや、そうでもないよ。研究開発関連でね、仕事量が日によって幅があるのさ」


男の胸元をよく見ると、魔導科学省の省庁徽章らしきバッチがあった。


「今やってるこの研究のおかげで自分は何とか食いっぱぐれがなく、やっていけるのさ。

そういった意味では感謝なんだが、急に進展したり、逆に遅延したりすると…仕事量がねぇ」


はははっと苦笑のような乾いた笑いと共に頭を掻く男。

仕事はどんなものでも大変だと、今更ながら感心して相槌を打つ。


「お仕事、お疲れ様です。食事は済まされましたか?何か軽くお出ししましょうか?」


書き消しが出来るお勧め品のボードを男の前に差し出す。

男はそのボードを流し見し、私に問いかけた。


「この『自家製パンのピザ風』という物はどんな料理でしょうか?」

「それはですね。ある程度の厚さに切った自家製パンの上にトマトソースを塗り、チーズとサラミを乗せて焼いたものです。小腹が空いているのであれば、丁度いい腹持ちになるのではないでしょうか」


説明をひと通り聞いた後、残りのエールを飲み干し、話を続ける。


「こほん。では、『そのパン』と『エールのおかわり』をください」

「ありがとうございます、承りました。秋音姉さん、おすすめのパンをひとつ宜しく」


厨房から返事をする秋音姉さん。


『はーい、焼くから少し待ってね』


もう一つの木のジョッキを棚から取り出し、エールを注いで出す。

空になったジョッキを片付けているところで、チーズの独特な食欲をそそる香りが漂ってきた。



『上がったよー千冬ちゃん』


皿を無言で受け取る。

初見の客まで自分と秋音姉さんのやり取りを晒したくない。


「こちらがおすすめの料理になります、熱いのでお気を付けください」

「ありがとう、いただくよ。ふーふー……あつ、あつっ」


男が手に取ってかぶりつき、食べていない方のパンを遠ざけると熱せられたチーズが伸びた。

それを啜る様に食べ、飲み込むとエールを一口。


「いやぁ、美味いねぇ…エールによく合う」

「お褒め頂き、ありがとうございます。その言葉で厨房担当の者も喜ぶことでしょう」


しばらくの間、飲食の音だけが店に響く。

そして、飲み物も料理もすべて平らげたところで、男は席を立つ。


「美味かったよ、ご馳走さん。今日は時間がないからね、この辺で。お代はいくらだい?」

「今、計算させて頂きますので、少々お待ちください……こちらになります」

「ふぅん、意外と安いね。また来るよ」

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


私は深めの礼と共に出入口の幕を上げて、男が視界から消えるまでお見送りをした。

…さあ、改めてこれで閉めるかな。


と、思ったら。


身長が高めで眼鏡のよく似合う女が、早足で横切ったかと思うと反転して私に近づいて来た。


「すみません、この辺でモノクルをかけた男性を見ませんでしたか?」


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