【35.5杯目】くーちゃんに聖なる夜を
クリスマス用に閑話を書きました。
「お祝いしましょう!」
パン!と手を叩き、秋音姉さんが突然言い出した。
「12月24日から25日は聖人さんの誕生を祝って家族で誕生会を開くんですって。私たちもやりましょう!」
「どこからそんな話を聞いてきたんですか?姉さん」
「えっとね、友人の子が言ってたの。『黄金の門』を通ってきた子でね、その子の世界ではみんなが祝っていたんですって」
『黄金の門』とはこの世界の中心部の国の共和王国にある場所のことだ。
この世界は多重世界の一つで、その門を通って多種の異世界から色々な人物が流れ着いており、夜叉騎士や秋音姉さんもそこから来た。
そのお陰かこの世界は多種多様な文化が溢れている。
今回の話もそのひとつだろう。
「それでやるはいいとして、どんなことをやるんです?」
「聞いた話によるとね、御馳走作って、みんなでプレゼントを交換して…あ、子供にプレゼントあげるんだったわ」
「うーん、準備としては宴会とプレゼントってところだね。聞き逃してたけど、どうしてやりたんです?」
キョロキョロと周りを見回した後、話を続ける秋音姉さん。
たぶん、まだくーは寝ているだろう、そんな時間だ。
「あのね、くーちゃん、家族がいないじゃない?お誕生日も知らないし、何かと遠慮するでしょう?
祝ってあげられることって中々ないし、せっかくだからこれを機会にってね」
悪くないね。
「…そういうことならば、私も協力しますよ」
「千冬ちゃんならそう言ってくれると思った♪」
ちゃん付けは勘弁して欲しい…と、考えていると外で傭兵の事務処理を済ませてきたらしい夜叉騎士が入ってきた。
「先程よりこそこそと何を画策している?千冬、秋音姉さん」
「えー、企んでいるなんて、人聞きが悪いなぁ…ねぇ、千冬ちゃん」
「ええ、ただの催しですよ。まあ、オーナーにも一枚噛んで頂きますが」
改めて先程の内容を夜叉騎士に説明する秋音姉さんと私。
意外とすんなり頷きながら話を聞く、いつもだったら面倒そうにするのに、くーが絡むと甘い。
「小官は会場許可と自身が渡す贈答品の確保だけで良いのだな?承知致した。
24日は22時に閉める旨の通告を出しておけ、千冬」
「はいよ」
一方的な通知の様に指示を出すと出掛ける夜叉騎士。
さっそくプレゼントを買いに行く様だ。
「御馳走の方は秋音姉さんが担当でいいですよね?」
「うん、まっかせて!」
『えっへん』と無い胸を張る秋音姉さん。
胸に関して言えば、自分もそうなんだけど。
「私も買いに行かなきゃなぁ…」
用意は着々と進む。
日数もないため急ぎで進めながらも、秋音姉さんは楽しそうだ。
「ふん、ふ~ん♪」
「上機嫌ですね、秋音姉さん」
「なんて言うのかな?そうそう、あれ。この楽しさは『祭りの前』ってことね」
私は店の入り口付近に張り紙を出す。
『12月24日は諸事情により22時で閉店させて頂きます 店主』
目ざといくーは私に聞いてきた。
はぐらかす予定はないため、素直に答える。
「あれ?千冬おねーちゃん、そのひはなにかあるの?」
「その日は家族でパーティーやって過ごす日なんだ。私たちはそういうの、やったことないだろう?
たまにはこういう日もあっていいんじゃないかってね、秋音姉さんの発案だ」
「ねえねえ、ごちそうとかでるの?」
「そうですよ、みんなで楽しみましょ」
秋音姉さんが口を挟む。
「じゃあ、くー、いっぱいいっぱいたべるね」
「うんと用意しなきゃね、腕が鳴るわ。楽しみね♪くーちゃん」
そんなこんなで当日。
「ありがとうございました、宜しければまたお越しください」
今日最後の客を見送り、閉店とパーティーの準備を進める秋音姉さんと私。
パーティー中は寝ないようにと寝かしつけていたくーも起きてきて手伝う。
「うん♪こんな感じかしら。これから料理の仕上げをしてくるから後はよろしくね、くーちゃん、千冬ちゃん」
「わかったよー、秋音おねーちゃん」
「ああ、こっちはやっておくから、そちらは頼みます」
ちゃん付けにはツッコミを入れず、返事をする。
カウンターで飲んでいた夜叉騎士はグラスを片付け、秋音姉さんに続くように奥に入っていった。
しばらくすると夜叉騎士は戻ってきた、小さな桐箱を手にして。
それと共に奥から肉を焼いた香ばしい匂いが漂ってくる。
「はーい、できたよー。並べて並べて」
料理を手に持って奥から戻ってきた秋音姉さんは、そう言ってみんなを急かす。
そして、パーティーの準備が終わり、並べられた色とりどりの料理と飲み物。
そこから飲み物のひとつを取った秋音姉さんはこう言った。
「えっとね、乾杯の挨拶はこう言うんだよ。『メリークリスマス』って。
みんな、飲み物は持った?じゃあ、くーちゃん、乾杯の挨拶ね♪」
突然、振られて少し慌て、照れながらも乾杯をする。
「みゃ!?えっと、ね…メリークリスマス!」
「「「メリークリスマス!」」」
「帰ったぞ、妾が。酒じゃ、酒く…れ?」
いいタイミングで帰ってくるなぁ……天月。
「どこ行ってたの?天月ちゃん」
「ちと、用事じゃ。妾にも色々とあるのじゃ」
「天月おねーちゃん、おかえりなさい」
律儀に頭を下げて挨拶するくー。
見習え、天月。
「おうおう、ただいまじゃ。草野はいい子じゃの」
くーの頭を撫でる天月。
気持ちよさそうに目を細めるくー。
こんな会話じゃあ、いつまで経ってもパーティーが始まらない。
「挨拶は此の辺りで良かろう。料理も冷める。追々事情を話す故に席に着くがよい、天月」
「妾も参加してよいのかの?じゃあ、そのグラスをくれ」
取り仕切る夜叉騎士。
まあ、事情は秋音姉さんか私が話すことになるんだろうけど。
こうして始まったささやかなパーティーは楽しく進んでいく。
テーブル中央に置かれた鳥の丸焼きに目が魅かれる。
バターやハーブ、そして鳥を焼いた独特の香ばしい匂いが流れてきた。
「これ、おいしーね。千冬おねーちゃん」
「確かに美味しい。珍しいもの作るねぇ。ターキーなんてどこから手に入れたんです?」
「うふふ、ないしょ」
見守るように無口で淡々と飲む夜叉騎士。
どこか雰囲気がやわらかい。
「のんでばかりじゃなくて、たべなきゃだめだよ、おにーちゃん」
「う、うむ」
「天月おねーちゃんも、ね」
「妾は平気ぞ。このなりでも仙狐の端くれじゃ。とはいえ、秋音の料理は美味いから頂くがの」
楽しい時間はあっという間…ということで気が付けばいい時間になってきた。
そこで秋音から切り出す。
「最後にみんなからくーちゃんへプレゼントの時間になりました!まずは千冬ちゃんから」
「みゃう?」
私はプレゼントの箱を差し出して、言葉を続ける。
「今日はこういう日らしいんだよ。ありがたく受け取りな」
遠慮がちにプレゼントを受け取り、お礼を言うくー。
「あ、ありがとうございます。あけていい?」
「いいよ、どうぞ」
中身はクッションだ。
子猫で良く寝るくーにはちょうどいい物だろう。
次は天月だ。
「妾はこんな会があるとは知らなくてのう。であれば、こんなのはどうじゃ?」
懐から取り出したのは桃色の房付き正絹飾り紐。
それには鈴がついていた。
くーがよく着る着物の帯飾りにちょうど良さそうに見える。
「行ってきた場所にあっての、お土産だったのじゃが、贈り物にちょうど良いじゃろう?」
「うん、ありがとうございます、天月おねーちゃん」
続けて夜叉騎士が続く。
例の小さな桐箱を渡す。
「小官は物の趣向に疎い故、期待するな。此の場で開けて構わん」
「ありがとうございます」
箱を開けると出てきたのは簪。
飾りに白い藤の花があしらってあった。
そういえば、くーは髪が長いのに髪飾り的な物はほとんど持っていなかったな。
いつの間にか奥に入っていた秋音姉さんは、大きな箱をワゴンの上に乗せて戻ってくる。
「じゃじゃーん。最後に私の番ね。私はこれでーす」
その箱を開けると大きなホールのケーキ。
秋音姉さんお得意のケーキの上には、砂糖細工でくーとそれを囲む秋音姉さん・天月・夜叉騎士・私の人形。
人形のみんなは笑顔だ、夜叉騎士はわからんが。
「~~っ~っ、っ」
くーは言葉にならない様だ。
尻尾もいつになくぴったんぴったんと上下に動いている。
…と言いつつ私もうるっと来てしまった、歳かねぇ。
「…さ、食べましょ。くーちゃん、どこがいい?」
「んーー、ここ!」
いちごの多いところを指定したくー。
そうして最後まで楽しい時間を過ごすと、日を越して25日に。
越したところでみんなで改めて乾杯。
「「「「メリークリスマス!」」」」
25日の朝、くーはソファーで寝落ちしてしまっていた。
クッションを抱え、夜叉騎士の膝元で寝ている。
身動きが取れなくなって夜叉騎士の困った様な目に見つめられながら。




