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ShotBar 13th door 千冬の業務日誌  作者: 夜叉騎士
35/42

【35杯目】千冬の挑戦③

さて、どうするか。


冷暗室に保管していた樽からエールを木のジョッキに注ぎつつ、カクテルのレシピを考える。

香りが立った方がいいだろう。


カウンターの内側にエールの入ったジョッキを置き、手に取ったのはライチリキュールの瓶。

それから、桜のリキュール、予め搾ってあったグレープフルーツのジュースとお冷にも使えるレモン水の瓶を並べた。


シェイカーにライチと桜のリキュール、そして、バースプーンで混ぜてから手の甲に一滴落とし、ひと舐め。

味・香り的には問題ないな。


シェイカーに氷を入れ、蓋をし、シェイク。

シェイクし終えたら、コリンズグラスにリキュールと数個の氷を流し込む。


そこにグレープフルーツジュースとレモン水を注ぎ、ステアした。


「お待たせ致しました、こちらになります」


ジョッキはカウンターテーブルに直接、カクテルのグラスはコースターを敷いて上に置く。

エールの麦の香りとアルコール臭、そしてカクテルの桜の香りがほのかに流れた。


「ご注文のエールとカクテルはオリジナルでライチと桜をメインにしています。食事の方はもう少々お待ちください」

「うむ、頼んだぞ」


礼と共にそう言い残し、お通しと食事の方に取り掛かる。


お通しは特に問題ない、ナッツとドライフルーツだ。

それぞれ入っている容器から数個取り出し、皿に盛り付けとは言い難い入れる程度を無言で差し出す。


それから、先程作ったスモークサーモンのカルパッチョだ。

冷蔵庫から取り出し、蓋を外す。

別皿に大きめのクラッカーを用意し、二つの皿とふたつのフォークを二人の中間付近のテーブルに差し出した。


「こちらは本日のおすすめ料理として用意させて頂きました『スモークサーモンのカルパッチョ』になります。

 そのままで食べるも、クラッカーに乗せるもお好きな方でどうぞ」


……少し気恥しい。自分の料理を『おすすめ』と言うのは。


老兵は娘に気を使いつつ、問題ないことを見やってから、エールのジョッキをぐいっと1/3ほど空ける。

一方で娘の方はまるで見えているかの様にグラスを手に取り、甘い香りを楽しんでいた。


「くはー、生き返るわい。で、どうじゃ?」

「…ええ、いい香りです、そして美味しい。甘さも自分の好みですね」

「いい腕じゃろう、ここは懇意での」

「よく外出されていますよね、こちらに」


にっこりとほほ笑む娘、少したじろぐ老兵。

仲の良さが窺えるやり取りだ。


「こちらも頂いていいでしょうか?バジルのいい香りがします」

「そうじゃったな。儂ももらうとしようかの」


老兵、娘共に手前に置かれたフォークを手に取る。

少しおぼつかない手つきになった娘を助けながら、その後で一枚取る老兵。


「あら、こちらも美味しいですね。黒コショウがぴりっと効いてます」

「うむ。エールにぴったりじゃな。のう、千冬の嬢ちゃん」

「ありがとうございます」


軽く頭を下げ、礼をする。


「ほれ、他にも言うことがあるじゃろう、ええ?」

「…なんのことでしょうか?」


軽くとぼけてみる。


そして、沈黙。

少しの間、静寂が流れる。

食器とカクテルの氷の音だけが微かに響いた。


「……わかりましたよ。ええ、私が作りました、こちらの料理は」

「はっはっはっ、旨かったわい。大丈夫じゃ」

「こちらの料理は千冬さんが?いつも料理担当はバーテンダーさんとは別の方が…と伺っていましたが。

 そうなんですね、美味しく頂きました」


遠くで笑い声と共に『やはりのう』との声も聞こえた。

だから、改めては言いたくなかったんだ。


「本当に美味しいですよ、お世辞ではありません」

「ありがとうございます」


初対面にフォローされてしまった。


「この娘っこは嘘はつかん。それに目の見えん分、その他の感覚に優れておる。ゆえに信用していい」


いや、スモークサーモンの仕込み自体は秋音姉さんがやったから、味付けのほとんどは私じゃないんだよなぁ。

とは言いづらくなってきたな。


ててててっと、くーが近づいてきた。

腕を組んでちょこんとカウンターに置き、椅子には正座の姿勢。

らんらんとした目つきで言った。


「これ、千冬おねーちゃんがつくったの?すごいね。おさらにきれいにもってあるよ。

 くー、これすき!」


こういうところだな、くーの勘の良さと言うか、目ざといと言うか、感性と言うか…。


「ああ、そうだよ」


くーの頭をなでてやると嬉しそうに目を細めた。


そうして、身内でのやり取りやバーテンダーの仕事をこなしつつ、今日も夜が更けていく。

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