【30杯目】くーの小さな冒険③
「うん。これなあに?」
「服さ。その着物、汚れっちまっただろう?奥に行って着替えてくるといいさ」
「…あ、ありがとうございます」
草野は丁寧なお辞儀をして奥に入っていく。
しばらくすると奥から声がする。
『おねーちゃん、これきかたわかんない。しっぽもだせないよ。おしえてください』
「ああ、そうなのか。今、行くよ」
店員は奥に入って行く。
『ありがとうございます』
『くーちゃん、お前、下着つけてねぇのかよ』
『くるしいからとっちゃうの』
『それに……あたしより胸があるんじゃないかい?』
『みゃう?』
奥からやり取りしてる声が聞こえた。
そうなんじゃよなぁ……秋音や千冬よりも。
声が止み、しばらくすると草野と店員が奥から出てきた。
白いワンピース着た草野。
ちょっとぎこちなく、くるくると回って確かめている。
控えめに付いている可愛い桜のヘアピンがきらりと光った。
「これ、ほんとうにいいの?おねーちゃん」
「子供が遠慮すんな。よく似合っているじゃないか」
確かに似合っておるのう。
普段は着物だけじゃから、新鮮なのじゃ。
「うんしょ、もういくね」
草野が前の店で買った物を詰めたリュックサックを背負うと店員に止められた。
「ああ、待った待った。荷物はキャリーケースに載せていくといいよ。それから着物は中に入れたから」
「みゃう?…みゃ!ありがとうございます」
「千冬お姉さまにもよろしくな」
草野は店員に言われた通りに荷物をキャリーケースの上に置き、バイバイと手を振ってから、歩き始めた。
「つぎはこうちゃのおみせってきいたけど、こっちかな」
うむうむ、そっちじゃ。あっとるぞ。
………妾は何をやっとるんじゃろうな。
意気揚々と歩いていき、下り坂に差し掛かる草野。
ん?男女のペアが談笑しながら歩いて来たぞ、周りを気遣ってなさそうな奴らじゃ。
あちゃー、予想通りじゃ。ぶつかったのう。
…が、転ばんかったようじゃがな。
ころり。ころころ。コロコロコロ――
そこで手から離れ、転がり始めるキャリーケース。
「みゃ!?」
抱えようと伸ばした両腕は、ほんの少し、届かない。
猫らしいすばっしっこい走りで追いかけて行く草野。
まずいのじゃ、そっちは崖じゃ!
妾も追いかけて行く。
「みゃふ~~」
草野はキャリーケースに追いつき抱えた。
空中で。
「みゃああああああぁぁぁぁぁ………」
なんじゃ?あれは…。
ざわりと悪寒が走る。
崖から落ちていくと思われた瞬間、突然現れた何かの靄がかかった黒い穴に吸い込まれ…消えていった。
「ええい、ままよ!」
天月も続いて黒い穴に飛び込んだ。




