【18杯目】機甲騎士団⑩
久しぶりにBarの営業風景。
業務日誌、とは………。
「こほん、失礼。ここは夜叉騎士という傭兵の経営している酒場と聞いたが」
「いらっしゃいませ、確かにここのオーナーは夜叉騎士が勤めています。
それでどの様な用件でお越しになられたのでしょうか?お酒とお食事の提供はしていますが」
ちょっと皮肉。大人げないね、私。
その男は私を振り切り鷹揚にカウンターの女に近づいていく。
「やはりここにいたか、探したぞ。帰って話がある。帰るぞ」
連れ出そうと女の腕を掴みかけたところで、私は遮る。
店の信用に関わるじゃないか。
※建前
「お客様。他のお客様に迷惑を掛けることは、この店では禁止されております。
どのようなご用件でしょうか?」
「貴様!子爵閣下に盾突くか!」
「でしたら、きちんとご用件を仰ってください。客同士の争いを止めるのも店員としての業務ですので」
「ふん。儂はこの女に用がある。わかったか。さっさと通せ」
突然のことに女は困惑気味。
男は軍人だけに場馴れしており、静観の様子だ。
「あ、あ、あの……」
「お客様、失礼致しました。猿と雉が鳴いている様でしてご迷惑お掛けしま した」
例の子爵とやらは顔を赤くしている。
その部下も怒り心頭の様だ。
実際に煽ってるからね、これで怒らなかったら鈍すぎるよ。
「な、な、ななな、なんだと!?貴様!!」
「「「「「この狼藉者!」」」」」
「では、何故この様な他のお客様に迷惑を掛けることを?仰って頂きたく存じますが」
「…くっ、もういい。こんな茶番は辞めだ!こいつらを始末して我が団の禍根を断つのだ!」
「!?」
そのとき、子爵の部下のうち、3人が声を発する事もなく倒れた。
その傍には夜叉騎士が立っている。
「「「うぐぅ………」」」
「気絶させただけだ、後々の交渉材料にな」
機械の男は女の前に立ち庇う姿勢を見せていた。
おお、やるじゃない、男の子はそうじゃなくちゃ…ね。
よっと、私も残りをふん縛って…と。
裏方はこんなもんさ。
「むにゃむにゃ、みゃう~~千冬おねーちゃん、なんかあったの?」
こんな時に草野が昼寝?から起きて来やがった。
相変わらずの最悪タイミングだな。
子爵が草野を捕まえちゃったよ。最悪の展開。
あーーやりすぎなければいいなぁ。
「こ、これが見えぬか!儂に近づいてみろ!!さもなくば………」
夜叉騎士の発する威圧感。
子爵はへたり込み、黄色い水溜りを作成した。
ててててっと、私のところに来る草野。
「千冬おねーちゃん、ただいま」
「………」
おうおう、なんと呑気なことよ、草野ちゃん。
夜叉騎士の殺気が消えてないから、こっちに来たのね。
あ、そろそろかな?
「失礼する。機甲騎士団団長の私を呼び立てるとは良い身分だな」
「やほーー千冬。来ったよー」
「……フム、コレガ顛末カ、雪宮殿」
「こちらは忙しいのに呼びつけるな!団長は更にお忙しい身分なのだぞ!!」
「いきり立つな、レオンハルトよ。で、これはどういうことかの?子爵」
まだ呆然としちゃってるよ、自業自得だけれども。
おーーい、上司が来てるよーー起きなさーーい。
「………ハッ、は?え、だ、団長!?」
「私はどういうことかと聞いておる。聞こえなかったか?子爵よ」
「これは………」
弁明という名の嘘を並べ立てる子爵さん。
もう証拠は提出済みですよ。
でなければ、ここまでお呼び立て出来ないじゃない。
「なるほど、本当のことを話せば団の事を考えているとして減刑も考えたが、
これは情状酌量の余地なしだ。この者は過剰な越権行為、並びに帝国の国益を害した。
捕らえよ!レオンハルト。部下たちも同罪だ」
外の部下にも伝えるレオンハルト。
「ハッ!承知致しました。この者らを連れて行くぞ!」
「私の部下が失礼致した、ニヘル団長。この借りはいずれ」
「うむ、それは帝国のため、共に戦う際にでも。ジーク・ハイル・ヴァルトリエ!」
黒獅子騎士団の面々は去っていった。
この件はひと段落だな。
で………。
この話で機甲騎士団を終わらせられませんでした。
次話で終わるのだろうか。
そういえば、猫の日ですね。
草野をうまい具合に出せました。