【14杯目】機甲騎士団⑥
天月目線の続きです。
今回はシリアス目です。
― 天月視点 ―
「妾はここでいいかの?」
「はい、そちらで座っていてください。すぐに用意しますので」
ふーむ、広い。
そんなに稼いでおるのか。
すごいのう、歌姫とやらは。
……ふむ、割とはやく、しかもちゃんと良い匂いがしてくるな。
「作り置きでごめんなさいね。これが一番早いから」
「いやいや、いい匂いじゃ。妾にはわかるぞ、赤ワインと相性抜群なことを」
ほれ、赤ワインじゃ。用意がいいじゃろう?
こんなこともあろうかと用意しておったんじゃ。
※たまたま持っていただけです
「どうじゃ。これだけでも妾が来て良かったじゃろうが」
「……あは、あはははは、じゃあグラスも用意しなきゃですね♪」
予想通りのシチューとグラス二つが運ばれて来る。
そうじゃ、これじゃこれじゃ。
…………圧は消えたようじゃの、監視の目は退いてないようじゃが。
ふむ、妙な感じがするのう。
術をかけておくか……纏雷。
良しっと。
「ワインも開けておいたのじゃ、頂こうぞ」
「はい、どうぞ」
「………おお、美味いのじゃ。良いぞ、良いぞ」
「そこまで喜んで頂けるとは思いませんでした……ん、このお酒も良い物ですね」
「そうじゃろ、そうじゃろ。この味がわかるなど、やるな」
「もう一杯、お継ぎ致しますね」
「うむ」
ふむ……やったか。致し方ないのう。
「なんじゃ、腹いっぱいにになったら、眠くなってきた。妾はもう寝るぞ、おやすみじゃ」
「はい、おやすみなさい。こちらは片付けておきますね」
………さて、どう出るかの?
こんこんっ。
(物音がするのう。仲間かの?)
「………はい、今は大丈夫です」
「首尾は?」
「いえ、まだ……」
「遅い。早く情報を抜き取りトンズラしろ。脱出の用意はしておいてやる」
「え、でも………」
「あの傭兵団には犠牲になってもらう。我々、ひいては帝国の利益のために、な」
「それであの男は………」
「もう始末は済んでいる。問題ない。当然の末路だ」
「……え?そちらに役立てるようにするって」
「事情が変わった。あの男はもう役に立たん」
「そ、そんな」
「情でも移ったか?」
「そ、そんなことはないわ。仮初めの関係よ」
「そうか、また連絡する。足がつかぬように準備しておけ」
「この子は?今は眠らせているだけだけど……」
「始末しておけ」
「え「始末しておけ」」
「……」
ばたんっ。
(なるほどのう。妾らもあの男も利用されたってところかの。ただ……)
「……ふふっ、よく寝てる。こんな楽しい生活がずっと続けば良かったのに、な」
きらりと光るアイスピック。
先が濡れている。
(……毒、かの?さて、ひと段落つけるか)
高く掲げ、振り下ろそうとしたその一瞬。
……稲光が奔った。
「……どう、し………て…………」
力が入らず、アイスピックを落とし膝をつく女。
言葉もままならない。
妾の力じゃ(うつ伏せのままドヤ顔全開)
ゆっくりと鷹揚に立ち上がると言い放つ。
「妾は仙狐じゃ。眠り薬など効きはせぬわ」
天月の身体が成人女性の大きさへと変わっていく。
女は目を見開き、ままならない身体のままじっと天月を見つめた。
そして、天月はそっと女を抱きしめる。
「よう頑張ったの。今は術で周りを囲っておる。存分に泣くがよい」
……女の泣き声が結界術内に響いた。
部屋の外には漏れていたのは光だけだった。
天月目線は一区切り。
千冬目線の本流に戻ります。