最悪の悪女で悪魔の道化にされたので、今世では本物の悪魔女になります
悪魔の道化。貴族でも平民でもない身分。
私、リリス・バターフィールドのために作られた。悪魔の道化は私だけ。
悪魔の道化は人ではない。
「リリス・バターフィールドを殺せ!」
「リリスを生かしておくな!」
「悪魔の道化と同じ空気を吸うなんて!」
リリス・バターフィールドは悪魔の道化の罪で死刑。聖剣に貫かれ、大樹のてっぺんに吊るされた。
朽ちて肉が削げ落ち、骨が引っかかっていたのが落ちて崩れる。
その頃にはリリス・バターフィールドは稀代の悪女として歴史書に刻まれていた。
私がどうして悪魔の道化になったのかと言うと、数々の陰謀のせいだ。
貴族として生まれた私は魔力がなかった代わりに頭が良かった。科学者になって、人々の生活を豊かにし、戦争に協力した。でも、貴族のいざこざや政治に詳しくなく、興味もなかった私は科学を極めるばかりで人々に利用し尽くされた。頭のリソースを科学にだけ投入した。
最初に敵対したのは両親を殺した叔父。権力を手に入れるために私を脅して、両親を殺した。
叔父は罪人を告発した勇気ある人として一気に政界で名を上げた。
気に入らない貴族や民衆を排除し、
私は子どもということで罪を逃れたと思っていたけれど、違った。
「才能があるが危ういリリス」の後見人やストッパーとして私を利用し続けた。
私は科学者として天才だった。人の生活を良くするためのものは利権争いに利用され、一部の権力者しか使えないものになった。
魔法使いしか出来ないものを科学の力である程度出来る様にしたものは魔法使いとの対立に利用され、魔法使いを敵に回した。
ありとあらゆる火種に利用され、研究成果を盗まれ、死ぬことも許されずに生かされた。
最後に私は王族、民衆を敵に回したことになり、敵国まで憎まれて王は私を処刑することで敵国と和平を結んだ。
処刑される際は首を落として殺される。意識がある状態で死を待つのは苦痛とされたから。罪人であろうと死の苦痛と罪は比例しないとして。
この国では魂が天で幸せになれるように死体を埋める。土に還り、そこから生えた木が魂を天に届けると信じていたから。
意識がある状態で木に吊るされたのは、土から離れた場所に置くため。
私は死ぬ時まで嫌がらせに嫌がらせを重ねて希代の罪人だと内外に示した。
そうして、苦痛から解放されたと思ったのに。
私の意識が浮上した。
母がいて、父がいて、育ててくれる人がいて。暖かい部屋でご飯を食べさせてもらって。
走馬灯だろうか。母と父の顔が違うのは私が忘れているせいなのか。
「リリー、リリー」
私の名前はリリス、そうでしょう?
否定しようにも上手く口が回らない。
私は、プレザンス家の長女として生まれていた。
転生、というものだろうか。魔法は詳しくないから分からない。きちんとした手続きをしなければ魂が地上を彷徨う、と言われていた気がする。
走馬灯だと思っていたものは新たな人生で、私はリリスの記憶を持ったまま生まれた。
リリーの両親は私を大切にしてくれる。
今度はいい子で、利用されないように、優秀で素晴らしい人間でいられるようにしよう。
決意した。
今回もコツコツ努力して、そうすれば報われると思っていた。後から結果はついてくると。
現実を思い知ったのはリリーとして8歳になった時。
魔力を調べて、魔力が一定以上ある場合は魔法を学ぶアカデミアに入学できる。
リリーは魔力が膨大で大魔法使いに匹敵すると言われていた。
そんな私が魔力とリリスの記憶と合わせて仮説を立てて実験をして、考察をして、実証して。
ようやく完成させた複合魔法。
入学前に自分の実力を示す場所で、教師に結果を見てもらった。
「一人でやったなんて、出来すぎている。しかも8歳で……」
教師はぶつぶつとそう言って研究室に籠った。私は誇らしい気持ちはどこかへ行って不安になった。
自分が何かヘマをしたのではないか?、と。
数日後にジスランの研究室に行って、結果を聞きに行った。
ジスランの部屋には大量の花が飾られていて、沢山の郵便物が机の上に乗っていた。
強い花の匂いと、紙とインクの匂いに囲まれながら椅子をすすめられた。
椅子は8歳の体には大きくて、よじ登るように座ると足が浮く。
向かい側に座ったジスランは上機嫌で言った。
「リリー、嘘はついちゃいけないよ」
「何についてですか? ジスラン先生、私、嘘はついていません」
ジスランは恐ろしい笑顔を貼り付ける。
「あんなにすごい複合魔法、一人でやってないんだろ」
何が起きたのか分からなかった。ジスランの研究室にまた新しい花が届けられた。
触れるとクラッカーのように開いた蕾から録音された声が響く。高価な魔法仕掛けの花だ。
「ジスラン先生、おめでとうございます! まさかジスラン先生が科学と融合させた複合魔法を作るなんて!――」
花はなんと言っている? まさかジスランが私とは違う複合魔法を完成させたのだろうか。
「――生徒さん、リリーでしたっけ? 彼女の魔力量がないと再現できないのはちょっとあれですが、大魔法使いが実用するのなら関係ありませんもんね!」
媚びた男の声が花から聞こえ続ける。
ジスランが発表した複合魔法は、私が研究したものだった。
ジスランが私の複合魔法を自分の実績として公開したのだと、確信を持ったのは花の奥に飾られた盾だ。
銀の盾には「科学と魔法を併せた初の複合魔法の成果」と書かれている。
私が初めての筈だった。私が使ったのとまるっきり同じ研究だとこと細かに小さな字で刻まれている。
「リリーは8歳なんだから、分からなかったんだよ」
そう言った教師、ジスランが忘れられない。
人の上に立つには自分を磨く努力? そんな難しいこと誰も選ばない。人を自分より蹴落とせばいいんだから。
強くならないといけないと思った。8歳だからと侮られてはいけない。誰かに利用されたくない。それで傷つく人を見たくない。散々前世で失敗したことをまた繰り返したくない。
努力は変わらずする。その上で正しくないと言われている方法も取る。
ジスランに研究結果を奪われた私は、悪事をやるにしてもバレないようにして、いい子でいよう、と。
私を大切にしてくれる人がいる。それがどれだけ嬉しいことか。その人たちをも踏み躙った人たちが許せない。
だから今度は強くなろうと思った。どんな手を使おうと、私は、私と私を大切にしてくれる人を守る。
その結果、悪役令嬢と呼ばれようと、悪魔と呼ばれようが構わない。
私は、私がやりたいようにやる。
教師に研究結果盗まれたので魔法学校の入学を辞退します、なんてことが出来ないのは分かっている。
魔法学校の入学は魔力の量と才能がないと出来ない。ただ魔力量と才能だけを見る試験は年齢や身分に関係ない。ほんの一握りの人が行く学校なのだ。賄賂を受け付けない代わりに入学拒否も出来ない。
ほぼ絶対に入学するのは王族くらいで、才能と魔力溢れる人間を王室に迎え続けた上で真似出来ない教育を施しているから。
リリーの両親はリリーの合格通知が来た時に泣いて喜んだ。
8歳の子どもを信じる人もあまりいない。というか、殆どいない。
でもそれでいい。
子どもは未熟で、たかが子どもだと思っていたい大人たちを利用するのだから。
侮るのなら侮ればいい。その気持ちさえ使ってやる。
「8歳だから、『科学と魔法の初の融合魔法』がここで誤って発動してもおかしくないってこと?」
盾とジスランのジャケットのボタンが金属製なことを確認する。
“風魔法 真空”
ジスランの周りに気流が発生する。ジスランは突如発生した風にあたふたしながらも何もできない。巻き上げられた書類や花で視界が塞がれているから。
「うわ、なんだ!?」
ジスランのジャケットと盾の間の空気を抜く。風で空気を移動させて、そうするとそこに空気が入ろうとするからそれも退ける。空気で真空の筒を作り上げる。
一般的に風魔法は風を操る魔法とされているが、本質は空気を操るものだ。
「リリー! 何が起きているんだ!?」
“雷魔法”
風魔法はそのままに盾に雷を落とす。電流は盾の周りを通って飾ってある壁に流れる、盾が真空と接していなければ。
電流は真空の筒を通ってジスランのジャケットのボタンへ。雷が一筋の光になってジスランを襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!! リ、リリィ、助けて、た、助けてくれぇ!」
これが複合魔法である。上空に真空の管を作り、電流を流せば光になる。
所謂、蛍光灯の原理を利用した魔法。この世界にまだ蛍光灯はないのだが、リリーはそれを魔法を使って作り上げた。
ジスランを殺すつもりはないので死に至る前に魔法を止める。
床に転がったジスランは痙攣している。喋れないようだが、息はしているみたいだし殺人にはならない。
ケープの内側のポケットから花火を取り出して、魔法で火をつけて床に放った。
パチパチ、眩いカラフルな光を放出しながら火花を撒き散らす。
リリーは花が飾ってある花瓶から花を抜き取って中を確認する。草の匂いがする水だ。
花火に花瓶の水をかけて、鎮火。
焦げた盾とジスラン、床には花火の跡。ジスランのジャケットのボタンは熱で溶けてしまった。
これでお祝いの花火が暴走して、消し止めようとしたジスラン、が完成。
まさかジスランが「本来の開発者のリリーにやられました」とは言えまい。だって、ジスランが作った魔法を利用したリリーにやられたと言ったら誰がリリーに教えたのか問題になる。ジスランは8歳では危ういと判断したのだから。何故教えたのかジスランが責任を問われる。
入学式は3日後。
「楽しみにしてますね、ジスラン?」
ジスランから返事はない。
ブクマやコメント次第で連載にしようか考えてます……