<異世界>
敵兵の掃討も終わり、伊海島の奪回作戦は成功した。だが十数人の島民の遺体が見つかった一方、生存者は一人も見当たらず洞窟の先に広がる謎の場所といい分からないことだらけである。
この事態に対して自衛隊では洞窟の向こうにある世界に、島民たちの居場所が分かり次第救出するために出動し待機していた特殊作戦群を洞窟の向こうへと行かせた。
そして得られた情報としては、洞窟の先につながっている場所はまだ別の島であること、島の沖には帆船が停泊するなどしているということである。
そのうえ洞窟から敵が支配している地域につながる通り道では、自衛隊の部隊が来るのを防ぐためだと推測される木の柵が作られており、そこには強制的に働かされている伊海島の島民、そしてその島民と一緒に働かされる外国人風の人間と獣耳と尻尾のある人間の存在があった。
それ以外にも、現在洞窟の出口周辺と洞窟の上の山と山肌は第一空挺団が制圧しているのだが、そこから見る星空は地球とは全く違う星の位置をしており、捕虜にした敵兵の話などから最終的に防衛省では洞窟の先にある世界を異世界だと暫定的に認定したのでだった。
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異世界というものに対して、自衛隊ではさらに情報収集を行なっていた。
洞窟の向こうには武装勢力が占拠している町があり、そこから少し離れたところにある収容所には島民らが捕らわれていて朝になると労働のために連れ出され、夕方になると収容所へと戻されるということが分かったのだ。
一方で事態を把握した政府は、それが外へと漏れるよりも前に異世界への派遣を決定した。異世界などという存在が世間に漏れれば、それはそれで野党に足を引っ張られて救出にさらに時間がかかることは明白である。
日本において離島などが占拠された場合「あらゆる措置を講じて奪回する」としているが、伊海島を奪回したからと言って島民を異世界にそのままにすることなどできない。ならば邪魔される前に迅速に進めるほうがいい。
だが、洞窟を通ることができる車高の低い車両となると派遣できる車両は限られる。そんな事情から戦車は74式戦車が派遣され、車内から銃が撃てるガンポート付きの73式装甲車がそれに続き、96式装輪装甲車、軽装甲機動車の派遣が決定される。
そして伊海島の占拠から九日、異世界への派遣が決定された車両たちが伊海島の埠頭へと揚陸されていた。
「実戦でこんな旧式とはな・・・1970年代にタイムスリップしたみたいだな」
「タイムスリップして今が1970年なら最新式だろ。文句いうなよ」
文句を言うのも仕方のないことかもしれない。今回別動隊として特殊作戦群も参加するが、正面から主に戦闘をすることになるのは中央即応連隊である。
防衛大臣直轄の部隊という性質上、部隊としては比較的新しい兵器が与えられる。つまり、ここまで古い兵器たちと関わるいうのはあまりないのである。
その後車両はそれぞれ洞窟を通り、異世界の洞窟前へと展開された。そのまま車両は整備と点検、燃料補給を終え、翌日の未明に行なわれる島民の救出作戦の準備がこうして整っていくのだった。