<巡視船>
巡視船『かたな』は通報をした貨客船『おおかい』と接触して聞き取りを行う予定であったが、海上自衛隊の哨戒機からの情報を得て伊海島の方に緊急性があると判断し『おおかい』とはすれ違って伊海島へと目指していた。
しかし現在、巡視船『かたな』は伊海島より約30kmというところで停泊をしている。攻撃を受けた哨戒機からの情報で付近に不審な艦船がいないという連絡を受け、横浜にある第三管区海上保安本部は『かたな』に伊海島近海への接近をやめさせたのだ。
「やはり無理ですか?」
「ああ、本部としては完全に自衛隊に任せるようだな」
巡視船の航海長と船長はそのような会話を交わす。しかし、現在のところ伊海島に最も近い公船はこの『かたな』であり、それにも関わらず向かうことができないのは悔しいものである。
「どうやら哨戒機からの報告によると、付近に船舶を確認できなかったようだな」
「いなかったんですか、船」
「ああ、だからもし潜水艦でその武装勢力が上陸していたとなるとこっちは手も足も出ない」
「我々は潜水艦には無力ですからね」
海上保安本部の決定も仕方がないものであった。現在は哨戒機が上空からの撮影を続けており、巡視船からはできることがない。潜水艦がいるかもしれない海域に巡視船を一隻で送り込むなどできるわけもないのだ。
その後、巡視船『かたな』には海上保安本部より大本野島へと向かうように指示が出た。しばらく前にすれ違った『おおかい』が向かっている大本野島に行ってその乗組員に聞き取り、銃撃を受けた被害状況などの調査を行なえということになったのだ。
・・・・・
いつも通りの日本。人々がそれぞれ思い思いに暮らしている。だが、そんな平和な日常を最初に破ったのはいつも通りだったはずのテレビであった。
テレビ番組の画面がいきなり変わったかと思うと、慌ただしくしているアナウンサーの姿が映し出される。そしてしばらくするとようやくアナウンサーに紙が渡され、カメラを見ること開くその紙に目を落としたまま速報を明らかにする。
「番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えしたします。警視庁によりますと、東京都伊海島村の駐在所員より、伊海島が侵略を受けているとの一報があったことを明らかにしました」
テレビの画面下には『東京都伊海島に軍事侵攻か?』との文字が躍る。
「現在伊海島にある人口約180人の伊海島村とは連絡がとれておらず・・・いま新しい情報が入りました。防衛省によりますと、伊海島上空を飛行していた哨戒機が地上より銃撃を受けたということです」
平和な日本で突如として起こった非常事態。
ある者は驚きながらもいつも通りに暮らし、またある者は株の心配をする。そしてそれぞれの使命を持っている者は基地や駐屯地、警察署といった職場へと急ぐのであった。