<哨戒機>
いつも通りの哨戒飛行のルートから外れ、海上自衛隊P-3C哨戒機は伊海島へと向かっていた。
「先ほどの無線、本当なんでしょうか?イタズラとかじゃないですかね?」
「それでもメーデーと言っているから行くしかないだろう」
副機長は機長にそう言われてそれ以上の文句をあきらめる。正直なところ第一報の時に通報者である船は船名を言わず、海上保安庁の巡視船からの問いかけでようやく船名を言った。そんなやり取りがあった時点でイタズラのような気がするのだ。だが、機長の言うとおりメーデーを無視するなどできるわけもない。
「それにしても島に武装勢力がいて撃たれてるって、その前に島民から色々と通報とかがあるでしょうに」
副機長がそうぼやきながらも、哨戒機はとりあえず伊海島へと向かう。そして通報から15分後、哨戒機は伊海島周辺へと到着する。
「煙が上がってるな」
「結構黒いですね」
「伊海島周辺に不審な艦船等はありません」
そして機長と副機長が話しているとクルーから報告が上がり、機長はクルーに対して指示を出す。
「とりあえず火災現場周辺と銃撃犯がいたという埠頭の辺り確認して撮影」
「了解」
クルーはカメラを持ち、窓越しに眼下に広がる景色を見る。そして島へと近づくとカメラを構える。
「それじゃあ撮影入ります」
「はいよ」
クルーの言葉で司令部に撮影開始を連絡する。そしてカメラを連射する音が聞こえ、それと同時に地上の様子をクルーが説明してくる。
「火災現場付近、人が大勢倒れています。うち一人は背中に警視庁との文字あり、火災現場、車種は分からないですけど車です」
この時点で機長は司令部へと連絡を入れる。少なくとも島の医療では不十分な数の負傷者がいる可能性があると判断したのだ。
「それと埠頭に数人からなる集団がいて、ん?何か銃のようなもの持ってますね」
一応島でも猟銃を持っている者はいるのですぐに危険な集団だということはできない。だが、彼らは猟友会ではないとすぐにわかることになる。
「銃を撃ってます!こちらへ向けて銃を撃ってます。一発撃って、火薬いれて、火縄銃のようです」
「火縄銃?」
撃った瞬間に尋常でない煙が上がり、給弾作業をする地上の集団を見てクルーはそう言った。その説明に機内にいる全員が困惑するが、結果としてメーデーで伝えられた通りであった。すぐさまこの事実は司令部へと送られ、哨戒機は現場に向かっている海上保安庁の巡視船と連絡を取る
「こちら海上自衛隊、P-3C哨戒機です。海上保安庁巡視船『かたな』聞こえますか」
「こちら海上保安庁巡視船『かたな』聞こえます」
哨戒機は先ほど起こったことをありのまま伝える。
「先ほど伊海島上空を飛行したところ地上より銃撃を受けた。また、村の道に倒れて動かない者、これを多数確認、以上海上自衛隊」
「こちら『かたな』了解」
その後、時間がかかったが政府は警察庁と東京都庁から伝わった伊海島が侵略を受けているかもしれないという情報を防衛省へと伝え、それと同時に防衛省から政府に伊海島の状況が伝えられることとなった。そしてようやく政府は事態の緊急性を理解することになったのだった。