<定期船>
大本野島と伊海島を結ぶ貨客船『おおかい』。
この船は伊海島へ生鮮食品を主とした食料や発電所の燃料などを運ぶ重要な船である。そして、ようやく伊海島見えてきたという時、航海士から声が上がった。
「船長!伊海島から煙が登っています!」
「なに?真っ黒だな、火事か」
『おおかい』の船長が航海士に言われて外を見ると確かに黒い煙が一か所モクモクと上がっている。そして船が島に近づくにつれ、その火災場所がはっきりとしてくる。
「駐在所だな」
「いえ、駐在所のちょっと手前ですね。あ、あれパトカーですよ」
「あーそうだな。あの島トラック以外はパトカーと消防団の消防車しかなかったからな」
「まあ、でも消防車じゃないだけよかったですね」
「それもそうだな」
消防車が燃えていたらそれこそシャレにならないと船長と航海士は笑う。
「それにしても、パトカーあんなに燃えてるのにまだ消防車は来ないんですかね?」
「そう言われてみれば誰もいないな。でも埠頭に十人ぐらいいるぐらいな。この船を待ってるのか?」
だんだんそこにいる全員が島の不審さに気付いていく。すると、再び双眼鏡で島を見ていた航海士が埠頭にいる集団を見るとある違和感に気付く。
「埠頭にいる人たち、銃を持ってませんか?それに顔が、どう見ても島の人じゃないような・・・」
そう聞いて船長は埠頭を見る。確かに埠頭にいる者たちは銃のようなものを持っており、日本人には見えない。
「なんだあいつら、初めて見るな?」
「猟友会にしてはいつものオレンジのベストを着ていないですね」
「・・・島を離れるぞ!取り舵いっぱい!」
「取り舵いっぱい!」
それは船長の直感だった。そして船長の指示に舵を持つ乗組員は素早く反応するが、引き続き埠頭の集団を見ていた航海士から再び声が上がる。
「埠頭の奴らがこちらに銃を向けています!」
「頭下げろ!」
船長はそう怒鳴って船内放送を行なう。
「伊海島に銃を持った奴らがいる!全員頭を下げて顔を出すな!撃たれるぞ!」
幸いにしていつも通り伊海島へと向かう船に観光客はいない。だが、船員の安全を守るのも船長の役目である。
ババーン
バシ!バシ!ガシャーン!
轟音が聞こえたかと思うと、船に弾が当たって音をたて、操舵室の窓が一枚割れる。だが、それ以上の被害を受けることなく船は伊海島を離れることに成功し、危機を脱した船長は無線機のボタンを押す
「メーデーメーデーメーデー。伊海島に正体不明の武装集団がいる。銃撃を受けた!銃撃を受けた!」
その切迫した無線は近海の船にすぐに伝わった。そして、この情報はもうつながることがない電話連絡でしか明らかにならなかった伊海島の異常を最初に伝えた無線となったのである。