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伊海島事変  作者: osagi
12/12

<伊海島の秘密>

 伊海島とエリワン島の島民は輸送艦『おおすみ』によって一時保護ということになった。そしてその艦内で自衛官はある人物の姿を探す。


 「伊海島村村長の―――」

 「ああワシが村長だ」

 「あの洞窟について、教えていただけますか?」

 「ああ、そうだな」


 口数の少ない伊海島村村長はこうして島の秘密を語りだした。



・・・・・



 伊海島いかいじま。この島は東京都島嶼部にある離島であり、島全域を村域とした伊海島村いかいじまむらには約180人が居住している。


 産業は主に農業と漁業であり、島には村の公共施設のほか小学校と中学校が統合されている伊海島小中学校、医師が一人いる伊海島診療所、警察官一人の伊海島駐在所があるなどどこにでもあるようなただの離島である。


 だが、この伊海島にはある秘密があった。それは島の中央にある伊海山いかいやまの東部にある洞窟が異世界の島、エリワン島へとつながっているということである。


 二つの島の出会いは日露戦争までさかのぼる。当時東京湾の沖まで現れていたロシア軍の軍艦、当時それが島まで来て離島に砲撃でも加えてくるのではないかと考えた島民たちは避難できる場所として穴を掘ったのだ。そしてそれが異世界へとつながったのである。


 そんなこともあり、伊海島とエリワン島は実に百年以上にわたって交流を続けてきた。


 例えば島で怪我人が発生した時、この島の医療では限界がある。だが、エリワン島の世界には魔法があり、治癒魔法と呼ばれるものによってその怪我を綺麗に治すことができるのだ。


 一方で伊海島ではエリワン島の島民たちに違法ではあるが伊海島の島民に出したことにして薬を出したり、抗生物質を必要とする治療をしたりするなどしてきた。


 このようなことを通して、伊海島とエリワン島では様々な島同士の交流が行なわれ、現在まで伊海島とエリワン島は時には助け合い、時には補い合いながら平和に暮らしてきたのである。


 だが、二つの島の間にもルールは存在する。それはそれぞれの島の文化や生活、そう言ったものを安易に持ち込まないということである。もともと世界も時代も科学を中心とした文明と魔法を中心とした文明と様々なことが違う二つの島、二つの世界である。


 もし相手の文化や生活を取り入れすぎてこの異世界へとつながる洞窟が島の外に漏れるようなことになれば何が起こるか分かったものではない。


 特に、近年では伊海島には日帰りとはいえ定期船で島の外から観光に来る者が来るようになったほか、エリワン島の世界でも大航海時代ということもあって予期せず船が立ち寄ってくるということがある。


 そのため伊海島の方では洞窟の入り口に門を設けて観光客が勝手に入らないようにしたり、それぞれの島に外の者がいないときにだけ交流をしたりするなど、伊海島でもエリワン島でもそれぞれの島の外の外からやってくる者に対しての警戒を強めていた。


 「だが、それもあの日に終わった」


 村長はそう悲しそうにつぶやき、話を続ける。


 エリワン島が侵略を受け、その軍勢が洞窟を通ってこの伊海島まで攻め込んできたのだ。完全なる奇襲に島は何も対応できなかった。


 最初にやられたのは駐在所だった。駐在所は洞窟から一番近い建物であり、島民たちのほとんどはこんな時のためにと持っていた猟銃を取り出す暇もなかったのである。


 その後、エリワン島へと抑留された伊海島の島民たちは侵略してきた国、エゲス王国の軍事基地を作るために働かされ、一週間後には防衛線づくりをやらされることになったのだという。


 「この度は本当に申し訳ない」

 「いえいえ、そんな」


 深々と頭を下げる村長に自衛官たちは困惑する。さすがに今まで村が異世界の存在を隠してきたことは正解とは言えないかもしれないが、公にすることも正解とは言い切れないのだ。


 「これから島はどうなりますかね・・・」

 「それは政府が決めることなので自分たちには何とも」


 自衛隊に与えられたのは伊海島の奪回と島民の救出でありそれから先のことは政府の仕事である。


 だが、日本の領土が占拠されるという世界中が注目する大事件。とても隠し通せるようなものではない。こうして百年以上続いてきた伊海島の秘密は終わりを迎えたのだった。








これで終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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