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伊海島事変  作者: osagi
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<大本野警察署>

 大本野島おおもとのしま。この島は東京都の島嶼部にある島で周辺の島よりも大きく人口5000人と多いことから、東京都庁の支庁である大本野支庁があるなど周辺にある離島の中心的な存在だ。


 そして、その大本野島にある大本野警察署は大本野島だけでなく周辺にある離島も管轄とし、駐在所を設置しているなどこちらも周辺にある離島の治安を守る中心的な存在である。


 ある日の午前、管轄内の離島である伊海島いかいじまにある伊海島駐在所から大本野警察署に掛かってきた。だが、その電話は大本野警察署いや日本の長い十日間の始まりを告げる音だとはこの時誰も知るよしもなかった。


 プルルルル プルルルル


 「はい、大本野警察署」

 「こちら伊海島いかいじま駐在!」

 「おお、どうかし―――」

 「敵は伊海島東部を制圧!伊海島東部を制圧!現在交戦中!伊海島は現在侵略を受けている!」


 いきなりの切迫した様子に理解が追い付かない。


 「どうした。何かあったのか!?」


 バーン パンパンパン


 「おい!どうした!おい!」


 銃声が聞こえ、こちらから大声で問いかけ続けるがそれ以上の返答はない。それから少し遠くで怒号が聞こえたかと思うと電話が切れる。


 のんきに雑談をしていた署員たちは先ほどまで大声で怒鳴っていた、いまだ受話器を持ったままの同僚に注目する。そして周りが不思議そうにしている中、静寂を破って上司である係長が口を開く。


 「どうした?」

 「いや、よくわからないんですけど、伊海島村いかいじまむらの駐在からで・・・侵略を受けていると・・・」

 「侵略?」


 現代日本で起こるには現実離れした言葉に係長は受話器を受け取るが、電話はすでに切れている。


 「銃声のような音がして、そのまま電話が途切れました」

 「ちょっともう一回かけてみろ。お前は駐在の携帯で、そっちは駐在所に掛けてみてくれ」

 「「はい」」


 そして係長から指示を受けた二人の警察官が駐在所と駐在の携帯電話にそれぞれ電話を掛け、係長は駐在所がある伊海島の伊海島村役場へと電話を掛ける。だが、三人とも誰ともつながることなくそのまま時間だけが過ぎていく。


 プルルルル


 「はい大本野警察署です」


 そんな中、再びかかってきた電話に全員の注目が集まる。だが電話の途中に電話を取った署員はすぐ隣に立っている大本野町役場からだと伝え、その注目はすぐに無くなる。だが・・・。


 「えっ?ほ、本当ですか!係長!係長!」


 町役場からの電話を受けていた署員の声が大きくなったかと思うと、つながらない電話をかけている係長を大声で呼び、係長は受話器を置く。


 「なんだ?」

 「先ほど伊海島村役場から大本野町役場の方に侵略を受けているから島民を避難させると電話があったらしいです」

 「なに!?」


 少なくとも普通ではないことが起こっているのは明らかである。しかし驚いている暇もなくまた新たな情報が大本野警察署の署員たちの耳に入り込んでくるのであった。


 「警視庁より大本野、警視庁より大本野」

 「こちら大本野です。どうぞ」


 警視庁からの無線連絡に担当の署員が答える。


 「さきほど伊海島村において侵略が行なわれているとの110番通報あり、通報者との通信は現在途絶しこちらから架電するも不通状態。大本野警察署は現地警察官を通して状況の確認を行なえ、以上警視庁」


 警視庁からの無線に全員が耳を傾ける。すると再び掛かってきた電話を取った署員が係長に声をかける。


 「係長!」

 「なんだ!」

 「大本野支庁からの連絡で、伊海島村役場から敵の侵略を受けている。住民の避難が間に合わないと連絡があったと言っています!」


 今日も駐在所から電話か来るまではいつも通り平和な一日のはずだった。しかし伊海島からくる立て続けの連絡は明らかに異常事態であった。そして係長は無線担当者と無線を代わると警視庁へと報告をする。


 「至急至急、大本野より警視庁、大本野より警視庁」

 「こちら警視庁、どうぞ」


 「さきほど現地警察官より侵略を受けているとの一報あり。また大本野町役場及び大本野支庁に対して伊海島村役場より同様に侵略を受けているとの連絡あり。なお、大本野支庁に対しては島民の避難が間に合わないとのこと。現在現地警察官及び伊海島村役場へと架電行なっているが不通状態、以上大本野」

 「警視庁了解」


 『侵略』という言葉はこの平和な日本でも別のことと取り違えることがないほどはっきりしたものだった。この情報は警視庁から警察庁へと伝えられ、時を同じくして大本野支庁から東京都庁へと情報が伝わった。


 そしてその情報はほぼ同時に政府へと伝えられることとなるが、何の前触れもなく降って湧いたようなこの情報にいきなり防衛省に連絡して自衛隊を出すなどという決断を政府にすることはできなかったのだった。





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