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り狐:狐鬼番外編(1)  作者: 七星瓢虫
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油揚げ

古来、人間が神仏を祀るのも崇めるのも当然の理だ


(さげす)むつもりも

(ないがし)ろにするつもりも無い


唯、()の少女が

何故、願い事も無く此の「社」の世話をするのか


唯唯、分からない


「り狐」


名前を呼ばれ、気怠くも其の眼を開けた

大棟に寝っ転がり木木の隙間に浮かぶ、白妙の月を仰ぐ


のっそりと起き上がる、声の主を見下ろす

其処には手杖を突いた、老狐が底無しの山内に佇む


切り株の上、竹皮の包みを見遣る


「食わないのかい?」


「油抜きの、油揚げだ」


吐き捨てる、胡座を掻く金狐に老狐が呵呵と笑う


「まあ、何せ古い「社」だからのう」


唯の、襤褸(ぼろ)だろ


「食えばいい」

「俺は油塗れの、油揚げが良い」


老狐は長く垂れ下がる眉毛の隙間から()さい目を(すが)め、溜息を吐く


「好き、嫌いしていると大きくなれないぞ」


好き、嫌いじゃない

油塗れの、油揚げが良いだけだ


其の眼を伏せる金狐にも老狐の言わんとする事は理解している

抑、自分はと或る事情に因り同年の奴等より発育が遅い


(いず)れ追い付き追い越す事は分かっていても

未だ、心配を掛けている母親には申し訳無い事此の上無い


そうして自分は()の少女よりも身の丈が低かった


其れは擦れ違った際


淡紅藤色の、麻の葉模様の着物の袂を揺らす(いとけ)ない少女

其処等辺を咲笑い、闊歩する町娘と何ら変わらない


変わらないが朝影に仄かに透ける

紫黒色の髪を束ねた項、其の「匂い」と同時に気が付いた


そう、身の丈の事は如何でもいい

其れよりも()の「匂い」は少女には似付かわしくない


「白粉」の匂いだった


其の事を知っているのか、いないのか

ほくほく顔で油抜き油揚げを美味そうに頬張る、老狐を見下ろす


如何見ても其の毛皮の褪せた、老い耄れ「神狐」だ

其処迄、()の少女が慕う理由が分からない


真逆(まさか)、願い事を聞いたのか?


等と、思案するも睡魔に勝てず金狐は大欠伸を噛ます

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