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り狐:狐鬼番外編(1)  作者: 七星瓢虫
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遅筆です

「り狐」


名前を呼ばれ、気怠くも其の眼を開けた

(うね)る芒の穂先越し、底抜けの空に雲が棚引く


のっそりと起き上がる其処は、一面の芒が原

手杖を突いた、老人が脇の小径に佇んでいる


「り狐、考えてくれたかい?」


全然、寝足りない


琥珀色の、御河童頭の蟀谷を徐に掻き上げ

琥珀色の、狐眼を細めて大欠伸を噛ます


其れでも笑みを深くする、老人は


村の外れにある

何時建てたのか、何処の誰が建てたのか

村人の記憶に無い程、古寂びた「稲荷神社」の狐だ


其の、訪れる者も居ない(様な)「社」を

老狐は如何にも譲りたがっていたが当然、自分には興味が無い


抑、誰も興味等持たない

故に、長老狐共も対応に困っていたのは見え見えで


「何、寂しい老狐なのだ」

「程程、話しを聞いて遣るだけで良い」


と、異口同音に(のたま)った


確かに「上」は()む事此の上無い

白羽の矢が立つ事自体、癇に障るが「下」に来る口実にはなる


特に目的等無いが尚更「社」を継ぐ気は更更、無い


「面倒臭い」


唯唯、本音を晒す


「如何しても「狐」が居ないと駄目なのか?」


()の道、忘れ去られた「社」だ

当然、口にはしないが察したであろう老狐が痩せた肩を竦める


襤褸(ぼろ)だが、世話をしてくれる者が()る」

「其の、話し相手になっておくれ」


居るのか

居ないのか分からない


姿の見えない話し相手だ


金狐は金狐たる所以

琥珀色の御河童頭を無造作に鷲掴む


如何にも格下の自分は長老狐共の相手をするか

襤褸「社」の、老狐の相手をするか


何方かの選択肢しか無さそうだ


そうして愈愈以て、溜息と共に吐き捨てる


「分かった」


狐が気紛れなのは百も承知


途端、手杖を放り出す老狐が着物の裾を捲り上げ、尻端折りする

「何事か」と眼を剥く金狐を余所に、いそいそと「社」への道案内を始めた


成る程、老い耄れの振りか

其の場の手段にまんまと引っ掛かったと知り、乾笑が出る


突き付けるつもりで

拾い上げた、老狐の手杖を半眼で見下ろした


山の麓


鬱蒼(うっそう)と茂る木木に囲まれた、小さな「社」

其の身を細く長く聳え立つ、色褪()めた鳥居に夕影が映える


「世話をしてくれる者が居る」、老狐の言葉通り

手入れの行き届いた、居心地良さげな空間に金狐は息を漏らす


「気に入ってくれたかい?」


其れこそ心得顔で問う老狐に答えず、手にした手杖を突き出すも

其れでも金狐は満更でもない顔を向けた

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