神様「誰か消したかもしれない、ごめん」
「……ええ? あ? おあ~……あ?」
ここは天国の片隅にある営業所。
人事課の課長代理補佐を務める神様が、不思議な声を出しながらパソコン(WindowsXP)の画面と睨めっこをしておりました。
「神様、どうしましたか?」
隣の席のビーナスが、神様のパソコンを覗き込みます。
「間違って誰か消したかもしれない、ごめん」
頭をポリポリとかきながら、神様はギコギコうるさい椅子にもたれかかりました。
「え……それって普通に大問題じゃないですか」
ビーナスがパソコン画面を心配そうに見つめます。
地上の人間達を管理する大事なパソコンで、とんだミスが発生し、誰かがヒュンと消えたかもしれないのです。つまりは神隠しが起きたのです。
「バックアップは?」
「……ない」
今から2000年前に、バックアップと現行データを同時に起動したミスがあり、ちょっとしたドッペルゲンガー騒ぎがあってから、バックアップを取らないようにしていたのです。
今回はそれが裏目に出てしまいました。
「最後に触ってたのはどの辺りです?」
「日本の辺り」
Excelにズラリと並ぶ人名記録。その数ざっと一億以上。それの何処かが消えたなんて、分かりっこありません。
「どうするんです?」
「んー……」
神様は冷めかけたお茶が入った湯飲みを傾けました。番付表とか周期表が書いてあるタイプの湯飲みです。
人名記録は毎日朝の5時になると、機械で入出データとの照合が始まります。新たに生まれた赤ちゃんや、死んだ人のデータを入れ替えるのです。
次に機械から出された膨大な入出データを、管理局で一つ一つ間違いが無いか確認していくのです。
「……明日管理局へ行く」
「御健闘を祈ります」
ビーナスは胸の前で十字を切ると、自分の仕事へと戻りました。
翌日、神様は出生管理局に向かいました。
勿論手土産も持参です。
「大仏さんはいるかな?」
「あちらに」
受付で天使から日本地区の担当を聞いた神様は、そろりそろりと大仏さんのデスクへと向かいます。管理局では書類が山積みになっており、皆が栄養ドリンクを片手に仕事を熟しておりました。
「大仏さん大仏さん」
神様が小さく声をかけました。
「ん、なんだ神様か。どした? 今度焼肉でも行くか?」
目の下にクマをこさえた大仏さんが、ニッコリと微笑みましたが、神様が眉をひそめているので、そっと耳を傾けました。
「何をやった?」
「すまん、誰か消したかもしれない」
大仏さんはデスクの隅にある決裁箱と未決裁箱から書類を抜き取りました。
「…………これだな」
差し出された書類に目を落とすと、その人物には死因が書かれていませんでした。神様が消してしまったからです。
「──あっぶねぇ……!!」
「ハハ、焼肉は神様の奢りだな」
神様は何度もお辞儀をして帰りました。後は神様のパソコンで人名記録を戻せば全てが解決です。
「おはよう!」
「あ、神様おはようございます」
すっかり元気を取り戻した神様は、ビーナスに向かって元気よく挨拶をしましたが、人事課の人達はやけに慌てた様子で社内を走っておりました。
「ん? 何かあった?」
「あー……それが」
ビーナスがパソコンの画面を指差しました。画面にはエラー表示がデカデカと映し出されています。
「システム障害で人事課のパソコンが全部開かないんです」
「ふぅん……で、サービスマンは何だって?」
困ったときのサービスマンは勿論呼んであります。
呼んでありますが、サービスマンも電話を片手に酷く慌てておりました。
「天界システム組んだ日本人が昨日から居ないだって──!?」
神様はその会話を聞いてしまいました。
そして酷く脂ぎった汗が背中を伝わりました。
「……ま、まさか」
大仏さんから貰った書類を恐る恐る覗きます。
山田太郎 システムエンジニア
天界システムの開発者
最重要人物に指定 消しちゃダメよ♡
神様は頭が真っ白になりました。
Special Thanks つこさん。
(*´д`*)