旅館好きな紳士さん
楽しめ
早朝AM5:00、雀の鳴く声に自然と目が覚める。
「...っふぅぁぁぁぁ」
盛大なあくびとともに脳が覚醒していく。
部屋にある唯一の窓を開けば、少しの湿気と近くを流れる渓流のせせらぎに心が浄化されて行く。
外の空気をありったけ吸い込んだ後、
「...さて、行くか」
荷物を纏めて部屋を後にする。
ロビーに行くと朝早いことあってかまだ誰もおらず、自分と受付嬢だけであった。
「...チェックアウトを頼む」
受付嬢にそれだけを述べ部屋の鍵を手渡す。
「はい」
誰もいない自分と受付嬢だけの空間の短い会話だが、それもまた一興。
自動ドアを潜り外に出る。
朝陽が少しずつ山から顔を出し、看板がその光を反射する。
「...旅館〈清流亭〉、...よかったな」
静かでいて、温泉の質もよかったし、受付嬢の対応も自分好みの塩だった。
そう言えば、と思いだし近くにあった渓流を見に行こうかと歩く。
その渓流に近付くにつれ、サラサラと流れる水の音に興味を引き立てられる。
「...そろそろか」
清流亭から約5分。苔を青々と茂らせたゴツゴツとした大きな岩が転がりその間から染み出るように涌く川。
「ほぅ」
思わず息を飲むほど神秘的な渓流だ。
それに引き付けられるように歩み出そうと足を出したが、川辺の縁の苔に足を滑らせ...
そこからの記憶がない。
◇◆◇◆◇
足の指をツンツンとつつかれている感覚に違和感を覚え、目を覚ます。
「.....ここは」
目がだんだんと冴え、周辺の景色が色づき出す。
「.....寒い」
下半身を川の中に浸す状態で寝そべっていたことに気付く。
足にツンツンと当たっていたのは魚だったのか。
体を起こし、もう一度辺りを見回す。
1面が深緑に染まり、見上げるほど高い針葉樹。
「.....一体、ここは」
辺りを確認しようと首を回す。
「...うっ、」
この痛みは、確かあの苔で足を滑らせた時に頭を打った痛みだろう。
気絶して流されてきたのだろうか。
ガサガサと草が揺れる音が背後から聞こえ、思考を音のする方へと向ける。
「あの、大丈夫...ですか?」
木の影から一人の少女が顔を出す。
「.........」
「あ、あの.....」
「.........」
「え、ぁ、あのぅ.....」
「......誰だ」
「あ、ぁ、私はそこにある宿を営んでいる者ですけれ...ども」
「.....そうか」
彼女を上から下までじっくりと観察する。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んで、一般的に見れば誰もが惹き付けられるであろうな美人さんだった。.....しかし、あの長い耳はなんだろうか?
「そ、そんなに見ないで...ください」
「......すまない」
「いえ、大丈夫...です。それで、その、宿にいらして...ください。て、手当てとかします...し」
「......ありがとう」
何か久しぶりに人とちゃんと会話したと思う。表情筋が疲れた...。
川から身を上げる.....ズルッ。
水を含んだズボンがパンツと一緒にがずり落ちる.......少女の前で。
「ひ....っき、きゃぁぁぁぁぁぁああああ」
ガンッ!という音とともに意識が遠退く。
最後に薄く見えたのは、手に石を持った赤面した少女だった。
楽しめた?